影響の深度とばらつき
新型コロナウイルス感染症が及ぼす社会への影響は、私たちがこれまで経験してきた景気後退イベントとは全く異なる動きを見せています。従来の場合、ほとんどの業種や業態に負の圧⼒を与えました。一方、今回のパンデミックは⼤きな経済ショックを引き起こしている半⾯、その影響は業種・業態によって、⼤きなばらつきがあります。例えば、飲食業や観光業については、かつてない売り上げの減少を記録しているものの、リモートワークに不可欠なPC、通信機器、家具などの売り上げは急拡大しています。自動車メーカーなどグローバルなサプライチェーンが関係する業態については、中長期にわたる影響が想定されます。また、同じ業種であっても、各社のビジネスモデルは異なるため、一律に影響を論じることができません。
景気サイクルへの影響
私たちは投融資の場面で、景気サイクルの存在を強く意識します。例えば、リスク管理やRAF(リスク・アペタイト・フレームワーク)に活用するヒートマップでは、景気サイクルの「加熱」や「冷却」の関係を視覚的に把握することができますが、この「加熱」と「冷却」は循環することが前提となっています。
経済活動全体に一定の規則性があれば、ヒートマップなどで異なる市場で起きている事象を関連付け、予兆管理を高度化することで、早めの対応が可能となります。しかし、新型コロナウイルス感染症の発生状況を事前に予想し、事後の影響の大きさや変化を機械的に予測することは極めて困難であると考えます。
産業構造の変化を踏まえた融資審査
銀行の社会的責任として、金融仲介機能が注目されています。多くの企業の事業継続が危ぶまれる状況では、これまでにはない円滑な資金提供が期待されます。その一方で、中長期的には勝ち組と負け組をしっかりと見極め、成長が見込まれる産業・企業のサポートを目指す必要があります。今後、積極的に貸し付けを増加すべきターゲットを⾒直す銀⾏が増えると思われます。中⻑期の成⻑可能性については、直近の財務諸表のみでは分からないことが多く、いわゆる「目利き」の能力が重要視されます。目利きの高度化をシステマチックに実現するため、銀行が収集・登録する定性情報についても、見直される可能性があります。
外部サポートへの期待
私たちが直近で経験した大規模な景気ショックは、「ITバブル崩壊」および「リーマンショック」ですが、今回のパンデミックによる金融市場への影響は、想定より小さいと思われます。ニュースやインターネット上では、倒産企業の情報や⼀部の企業についての⼤規模なトップラインの落ち込みが話題になりますが、現時点ではリーマンショックを⼤幅に上回るような貸倒れの状況には⾄っていないようです。
これらの要因を特定することは困難ですが、政府による明⽰的または暗黙の⽀援の姿勢がより明確であるためと考えます。リーマンショックの後、⽇銀による政策⾦利の引き下げが企業の利払い負担を軽減させ、信⽤リスクの軽減をもたらしたと⾔われており、今後もゼロ⾦利を維持する可能性が⾼いと考えます。また、⾦融庁も⾦融円滑化法を発令し、さまざまな措置により多くの企業を救ったとされていますが、今回も事実上、同様のサポートがある状況と考えられます。
政府の積極的なサポート姿勢は、企業を延命させる一方、ゾンビ企業を増やしてしまう側面もありますが、金融市場の安定確保に必要な措置であると考えます。