EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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さらに大きくみると、一貫性の不足、標準化の不在、独立した第三者保証の欠如が、ESGデータ市場全体の信頼性を損ねていると言えます。この高まる懸念の背景には、コンプライアンス違反の代償の高まりや、グリーンウオッシュだという非難に関する脅威があります。これは、大手金融機関において、規制当局から罰金を科せられたり、上級管理職が辞任したりする事象が最近いくつもあることから裏付けられます7。
これらの懸念は規制当局の関心に拍車をかけ、とりわけ大手データベンダーに対する規制要件の強化が進んでいます。2022年4月、欧州委員会は、ESG格付けに関する市中協議を行い、EUによるESGデータ市場への介入がもたらす影響の検討をしようとしています。最近の業界への反応では、英国の金融行為規制機構(FCA)もESGデータおよび格付けプロバイダーに対して、当局による監視を導入することに関する、「明確な論拠」を表明しています。
堅固なデータ管理がますます重要に
ESGデータの購入者の多くは、より効率的で効果的なデータ利用のできる余地があります。一般的な課題としては、ESGデータを必要とする活動が多岐にわたっていることが挙げられます。例えば、SFDRの開示、財務報告、ポートフォリオ管理、ストレステスト、戦略的計画、物品・役務調達などです。しかし、統一的な管理のない中では、無計画に複数のESGデータのライセンスを取得してしまう可能性があります。そうなると、余計なコストが発生するだけでなく、データ管理や利用にも混乱が生じる恐れがあります。
課題は不必要なコストだけにとどまりません。多くの企業が購入したデータから最大限に価値を引き出すことができていません。これは、ライセンス契約者が、利用できるすべてのデータを活用できていない、加えて、ビジネスにおけるデータの適用可能性を十分に見極められないことによるものです。
最後に、ESGデータは比較的まだ新しい領域であるため、その運用やガバナンスが十分に確立していないという問題があります。適切なテクノロジー、データに関するプロフェッショナル人員、監視体制が欠如しているため、マニュアル処理への過度の依存や効果的なデータ検証の欠如、情報のサイロ化、バージョン管理の不備などに陥り、非効率と混乱を招いてしまう可能性があります。
この対応策として、戦略的データ管理を導入する動きが高まっています。ESGデータを企業全体のデータ管理戦略に統合することによる、金融機関によるコスト削減とデータの利便性向上の対象は明確です。それゆえに、ESGデータの活用は、従来の財務開示情報と併せ、投資意思決定や顧客レポーティング、規制報告などにおいてもますます進んでいます。
今後に向けた展望
ESGデータ市場は、かつてないほどにダイナミックになっています。データのカバレッジやカテゴリーは急速に拡大してきています。しかし、ニーズとのギャップ、疑問点、不整合など多くの対処すべき課題が残っています。データの量の増加は、必ずしも質の向上を意味しません。
こうした課題はすぐに対処できるものではありません。そして、ベンダーがすべての問題を解決することなど不可能です。それでも、業界大手や新規参入者によるイノベーションは続き、ESGデータ市場は今後ますます進化していくでしょう。すでに、業界プラットフォームの連携に向けた動きも始まっているようです。民間レベルでは、ESGデータ交換の標準化を目的とする、オープンソースのプラットフォームの開発が進んでいます。一方、欧州委員会などの規制当局は、いわゆる欧州単一アクセスポイント(ESAP)を立ち上げる計画を進めているようです。これは、ITシステムが判読可能な形式で、ESGと財務に関する企業情報を1カ所に集約し、誰もが直接アクセスできるようにするものです。企業は財務諸表や経営報告書などの開示情報をESAPへ定期的に提出するよう求められるようになり、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の施行後は、EUタクソノミーに関する詳細な情報を含むサステナビリティ報告書の提出もこれに加わります。この提案は、一定の技術的・品質的基準の求めるところにより、自主的に追加的なデータを収集できる可能性も残しています8。
こうした取り組みのすべてが、ESGデータの利用可能性、品質、アクセス可能性、ならびに金融機関におけるESGデータ利用における効率性向上につながります。CSRDに加えサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が完全に施行されると、開示データの利用可能性と品質はさらに高まることが予想されます。
しかしながら、ESGデータの利用者の多くは今後も複数のデータプロバイダーに依拠せざるを得ない可能性が高いと思われます。対する明るい材料としては、現時点でも、コスト削減や、リスク低減、ESGデータから得られる価値の最大化に向けて、利用者が実行できる取り組みがあることです。特に下記の重点領域は、ESGデータ戦略において重要なものと言えるでしょう。
- ESGデータのすべての用途に対応し、すべての関連チームがアクセス可能な、単一のデータレイヤーに移行するーこれにより、重複コストの回避や、整合性の欠如に起因するデータリスクの低減が期待されます。
- 主要なESGフレームワークを統合し、データリネージを可視化することができる単一のデータモデルを使用するーこれにより、異なるフレームワーク間の重複を特定でき、外部データソースの合理化が促進されます。
- ESGデータガバナンスのオペレーティングモデルを組み込むーこれにより、データガバナンス対応の定型化が可能になり、優先度に基づく包括的なデータ管理が実現します。
Jo Freeman-Young, Sustainability Actuary, Consulting, Financial Services, Ernst & Young LLP