サステナビリティの取り組みに対する期待が⾼まる中、国連の持続可能な開発⽬標(SDGs)が明確なターゲットとなっていますが、この推進は決して容易ではありません。


要点

  • 消費者はサステナビリティの取り組みの主導を企業や政府、組織に期待しており、また国連は世界が一体となって取り組む目標を設定した。
  • しかし、企業のみを対象に定められた目標ではないことから、測定、規模、連携などの面で課題はある。
  • 企業は、サステナビリティを組み込んだ戦略を策定し、自社の事業が最も大きな影響を及ぼすことができる分野を把握する必要がある。

物価上昇、倹約志向の⾼まり、地政学的状況に起因した未曾有の混乱を踏まえると、消費財企業の中にはサステナビリティ⽬標の優先順位を下げる企業も出てくるかもしれません。しかし、この極めて重要な局⾯で取り組みを停滞させれば、これまでの成果や機運が台無しになりかねません。

昨今、消費者は、商品が及ぼす影響に着⽬したり、⾃分の価値観に合ったブランドを選ぶようにするなど、より⼀層サステナブルな⾏動を取るようになっています。また、企業に対しても同じことを期待しています。EY Future Consumer Indexによると、消費者の55%がより良い企業行動を促進すべきだと考え、72%が企業や組織は社会と環境を向上させる取り組みをけん引すべきだと感じています。サステナビリティに関わる社会問題や環境問題への注⽬が⾼まっている中、⽴派な志のみならず、スケーリングされた⾏動が、意義ある進展を遂げるための唯⼀の⽅策となっていきます。

 

共通の⽬標の達成に向けて⼀体となって取り組む

今年に⼊り、EYはThe Consumer Goods Forum(CGF)と共同で、この取り組みの折り返し地点を迎える今、CGF会員企業のリーダーが国連のSDGsをどのように⾒ているかを調べました。その結果をまとめたレポートThe path to 2030: Delivering a sustainable futureから、多くのリーダーが、⾃社の事業内容に明確に沿って⽬標の実現に向け努⼒していることが分かりました。CGFは、8つのアクション連合を通じ、連携して共同の取り組みを進めるよう会員企業に呼びかけており、それを受け、特定の⽬標の達成を推進しようと取り組む企業や、SDGs全体を⾃社のサステナビリティ戦略の枠組み策定に役⽴てようとする企業があります。その⼀⽅で、複数名のCEOとの対話を通して、依然として⼤きな課題が残されていることも明らかになりました。

SDGsは17の⽬標と169のターゲットから成り、それぞれに独⾃のパフォーマンス指標が定められています。その多くが⼈⼝統計データ、社会や経済に関するデータなど国家指標に関わるものであることから、企業が及ぼす影響をどの指標から測定し得るのか分かりにくくなっています。また、ダイバーシティーとインクルージョン、社会的公正、プラスチック汚染、フードロス、スコープ3(バリューチェーン)排出量、⽣物多様性の保全など、この8年間で注⽬が⾼まっているサステナビリティ優先課題に対応しきれていない指標もあります。こうした課題はSDGsの枠組みに組み込まれてはいるものの、SDGsで対処を⽬指す社会問題や環境問題が他に数多くあり、影が薄くなっているのです。

しかしながら、⽬標を達成するための努⼒を頓挫させてはなりません。消費財企業が今後8年間にわたり⽬標達成に確実に貢献できるようにするためには、取り組みを強化し、戦略の優先順位をより緊密にSDGsに沿ったものに変える必要があります。消費財企業のCEOを対象としたインタビューの結果から、⽬に⾒える進展を図るためには、5つの分野での⾏動が必要であることが分かりました。具体的には、⼀貫した測定基準の設定、重要課題へのフォーカス、サステナビリティの企業⽂化への浸透、パートナーシップの深化、消費者との関わりの深化などです。

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戦略を生かして、ビジネス上の優先課題の最適なロードマップを構築する

⽬標の達成に⼀体となって取り組むことと、⾃社がその達成にどのように寄与できるか明確なビジョンを構築することは、別次元の話です。サステナビリティの取り組みに対する消費者の期待と、価格や品質に対する期待を同時に考慮する必要があり、また、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する株主の期待と、⾦銭的リターンに対する期待とのバランスを取らなければなりません。これは、混乱した状況下での事業運営が当たり前となっている時期に特に⾔えることです。

サステナビリティとその他の優先課題の関係は、ブランドの相対的⾃律性、成功の尺度となる指標、ステークホルダーグループの相対的重要性、外部要因の影響、製品ポートフォリオ、推進したい価値提案と企業⽂化の独⾃性など、消費財企業の主な戦略的事業分野に及んでいます。

適正なバランスを取るためには、戦略的優先課題にサステナビリティをどのように組み込めばよいのかを模索しなければなりません。ビジネス上の戦略的優先課題は、分野により主導要因が異なるかもしれませんが、企業のサステナビリティ戦略全体は戦略的⾏動という側⾯から、以下の4つに⼤別できます。

  1. リスク主導型:収益、マージン、成⻑とは別の機能分野として、規制順守の徹底に焦点を合わせたサステナビリティ戦略
  2. 評判主導型:市場を重視し、ブランド価値と社会的信⽤を⾼めるドライバーとしての活動を拡充するサステナビリティ戦略
  3. 価値主導型:サステナビリティ活動と財務目標との調和を図り、事業にとっての価値と同時に、人間や地球にとっての価値も創造する戦略
  4. パーパス主導型:サステナビリティを企業文化に根付かせ、主要なサステナビリティ問題に積極的に対応する戦略

パーパス主導型を⽬指す企業が多いかもしれませんが、これが常に最適な戦略とは限りません。それを目標とする場合、他の優先課題への対処も同時に行うためには繰り返し調整をする必要があります。適切に実施されたサステナビリティ戦略は、財務実績の向上あるいはブランドの社会的信⽤の向上、理想的にはその両方を促すため、サステナビリティの取り組みは価値主導型または評判主導型であることが多いです。また、リスクにさらされていることで、規制要件と報告要件が強化されている昨今、コンプライアンスの徹底以上の対応をする余裕がほぼなくなる企業もあります。

サステナビリティ関連の優先課題の⾃⼰評価を真摯に⾏うことで、企業は、強みや⽂化を含めた⾃社の事業という⽂脈の中で活動を組み⽴て、それをSDGsに照らし合わせてマッピングすることができます。

例えば、リスク主導型アプローチでは達成状況を把握するための測定基準と報告基準の設定に重きを置くのに対して、価値主導型アプローチでは資源の使⽤を減らしてコストを削減し、消費者ロイヤルティを⾼めることで成⻑を促進できるサステナブルな商品の開発を重視するかもしれません。また、パーパス主導型の組織がサステナビリティを社内⽂化と対外活動に組み込み、ポジティブな影響を明確に⽰すことでサステナビリティ全般の推進役を担うことに注⼒するのに対して、評判主導型の活動では、注⽬度の⾼いサステナビリティ関連の活動や取り組みを優先し、消費者やステークホルダーとの信頼関係やブランドの構築を重視するかもしれません。

 

最も影響力のある重点分野を確認する

SDGsが⽬指すべき⽬標を指し⽰してくれているとしたら、戦略的に考えてサステナビリティをどこで、どのように優先させるかを理解することで、企業は進むべき⽅向および速度が分かるはずです。しかし、どの活動が最も⼤きな影響⼒を持つのかを把握することはできません。

CEOを対象に実施した調査では、SDGsの複雑さが指摘されました。17の⽬標すべてに取り組むことで、前向きな意向を⽰すことができますが、⼀⽅で、取り組みをどこで、どのように進めればよいのかを具体的に決めるという作業も必要です。

複雑な報告要件とさまざまな戦略的優先課題に悩まされている消費財企業は、同時にあらゆることに対応しようと⼿を広げ過ぎると、具体的な影響を及ぼすことができない恐れがあります。

そうした全⽅位的な対応ではなく、ビジネス上の優先課題やケイパビリティに最も関連した重要業績評価指標(KPI)に焦点を当てるべきです。⾃社の戦略に沿ったKPIの設定が重要となりますが、そのためには、以下の5つの判断基準からKPIを評価する必要があります。

  1. 測定可能で客観的、かつ次の行動につながる指標か
  2. 企業が所属するセクターやサブセクターに関連しているか
  3. 事業とステークホルダーにとって重要且つ影響⼒がある指標か
  4. 比較可能な指標で、⾃社と他社の業績をベンチマークしたり、共有したりできるか
  5. 達成可能な指標であり、それにより、合意した目標の達成状況と、目標を達成する能力を把握できるか

消費財企業の場合、こうしたKPIは本質的に⾃社製品のライフサイクルに関連させて設定しなければなりません。製品の開発から廃棄までライフサイクルの各段階で、それに対応付けたサステナビリティ指標を設けることができます。このような指標の妥当性や重要性はその企業により異りますが、セクターが違っても共通点はあるはずです。

例えば、⾷品、飲料、⾷料品⼩売業では、フードロスやプラスチック廃棄物への対処の他に、飢饉と栄養問題への対応も課題となるでしょう。衣料品の⼩売業では、⽔使⽤量、サプライチェーンの労働基準、店舗従業員と管理職の割合構成とインクルージョンが今まで以上に重視されるかもしれません。スコープ1(直接)とスコープ2(エネルギー使⽤関連)のCO2排出量はすべての消費財企業にとって重要な問題ですが、削減のための重点領域は企業によって異なっており、例えば⼩売業者が店舗インフラの再⽣可能エネルギー化に特に注⼒する⼀⽅、ブランドは製造に伴うCO2排出量の削減に注⼒しています。スコープ3の排出量対応は年々優先度が高まっており、削減するための具体的な活動は、共通の調達基準づくりやサプライヤーに対するインセンティブの導⼊から、サステナブルな商品の設計、新たな測定ツール、環境再⽣型農業にまで及びます。

このプロセスに万能なアプローチはありません。重要性評価を行う際には、戦略的優先順位と事業運営に加え、⾃社を取り巻く規制環境を考慮に⼊れて検討する必要があります。


サステナビリティの取り組みを生かして価値を引き出す

消費財企業がどのサステナビリティ⽬標、戦略、KPIを採⽤したとしても、その決断がどのように自社の事業にとっての価値を⽣み出し得るのかといった疑問は残ります。インフレ、不確実性、混乱が⽣じている情勢の中、約8年後の⽬標達成を後押しするために、今投資をするという意欲は減退しているかもしれせん。


消費者も、サステナビリティのために財布のひもを緩めることに消極的になる可能性があり、実際EY Future Consumer Indexでサステナブルな商品の購⼊を妨げる要因として価格の⾼さを挙げた消費者は67%に上りました。企業がすでにコストの上昇分を価格に転嫁している今、サステナビリティを実現するためのさらなる価格の引き上げは「泣きっ⾯に蜂」と受け取られかねません。


しかし、サステナビリティ投資を、転嫁する必要があるコストとみなす姿勢は逆効果を招きます。企業はそうした姿勢を改め、今後の成⻑のけん引役となるものに⽬を向けなければなりません。サステナブルな取り組みを⽀持するブランドは、経済が不安定な時期に料金の上乗せを行わなくとも、同業他社を凌駕するペースで成⻑を続けています。


割⾼であれば購⼊を控える消費者が大半とはいえ、51%は、サステナブルな買い物や⾏動が⽇常⽣活の指針になっていると答えています。また、2022 EY US CEO調査では、CEOの82%がESGをバリュードライバーとみなしています1


さらに、よりサステナブルな戦略の導⼊は売り上げ成⻑、最終的なコスト削減、そして無形の利益をもたらす可能性を秘めています。サステナビリティの取り組みを強化することで企業の資本コストを削減でき2、また確かなESG対応を通して業務の効率を向上させることができます。


例えば、化⽯燃料価格が変動する中、再⽣可能エネルギーへの転換はバランスシートの変動を防ぐための⼀段と好ましい選択肢となってきており、規模の拡⼤によりエネルギーコストを下げることができます3。無形の価値という視点から⾒ると、若い消費者と従業員は自身の社会と環境に関する価値観を反映でき、支持してくれる組織に加わる傾向を強めています。英国で最近実施された調査から、Z世代の64%が、⾃⾝が勤める企業の環境問題への対応を重視していることが分かりました4


最後に考慮すべきなのは、その逆を選択した場合のことです。サステナビリティへの投資が財務成果を直ちにもたらさなかったとしても、投資しないことはさらに多くのリスクを⽣みます。SDGsの未達成により、格差、貧困、気候変動が社会や環境を取り巻く状況を引き続き悪化させることに繋がるでしょう。サステナビリティへの投資の⾒通しが現在は暗かったとしても、投資をしないことを選択した場合、今後はるかに厳しい状況に直⾯することになるはずです。

  1. “CEO survey: US execs strategic, pragmatic and (still) pandemic-ready,” EY US website,11 October 2022
  2. “From the Stockholder to the Stakeholder,” Arabesque website,4 February 2020
  3. “The price of solar power has fallen by over 80% since 2010. Here's why,” Word Economic Forum website4 November 2021
  4. “Gen Z seek ethical workplaces as environ-mental health burden bites,” Bupa website, 13 January 2022


サマリー

消費者はますますサステナビリティを自身の価値観、⾏動に取り入れるようになってきており、また、企業に対して、サステナビリティ問題への対応を主導することを期待しています。SDGsは枠組みを提供しており、消費者向けビジネスに携わる企業の多くが、最も⼤きな影響を及ぼすことのできる分野で、この⽬標に沿った取り組みを進めています。しかし、そのターゲットと指標は複雑です。企業はサステナビリティの戦略的重要課題について考えた上で、最も重要、且つインパクトのある分野を⾒極める必要があります。


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