状況および喫緊の課題を評価する
EYは2019年9⽉、財務分野における「the art of the possible(可能性の追求)」というテーマの下、ワークショップ「CFO Space」をフランクフルトで開催。これには武⽥薬品のファイナンス部⾨とTBSのリーダーシップチームが参加しました。本ワークショップで武⽥薬品のグローバル製造、供給、品質管理部門CFO兼SVPであるMike Zingg⽒は、次のように述べました。「武⽥薬品は、請求書処理などの定型的なファイナンス業務を各拠点とグローバル機能から切り離すことにより、同部⾨がファイナンスの観点から将来を⾒据えて付加価値を提供する戦略的ビジネスパートナーとしての役割を果たすことに専⼼できる態勢整備を⽬指しました」。このCFO Spaceセッションでは、デジタルがファイナンス機能にどんな破壊的変化をもたらしているのか、武⽥薬品は他社の成功事例をどのように⾃社の取り組みに落とし込んでいけばよいのか、ということに主眼を置いて理解を深めていただきました。
概して本ワークショップは、TBSが、運転資金、コスト、キャッシュフローだけでなく、ビジョンの達成や従業員エクスペリエンスの改善などの観点からもデータとデジタルに目を向ける良い機会となりました。
上記のワークショップに続き、2020年1月、Patel氏は、自動化テクノロジープロバイダーのUiPathとEYプロフェッショナルチームと共同で3日間の集中ラボをルーマニアのブカレストで開催し、デジタルジャーニーに向けたキックオフを行いました。同イベントで、参加者は日々の業務で抱えていたプロセス上の課題を共有し解決の糸口を探りました。Zingg氏は次のように述べています。「ファイナンス部門では、レガシーシステムや複数のオペレーション全般でプロセスが統一されていないことや、データ構造やガバナンスの一貫性が欠如していることが業務遂行の阻害要因となっていました。業務の一部をTBSに移管するに当たり、こうした問題を解決してデータの整合性を図ることが大きな課題となりました」
将来像を見据えてロードマップを作成する
CFOワークショップと集中ラボの後、TBSチームは、自組織の自動化に向けたロードマップを共同作成しました。このロードマップで目指したのは、TBS内の業務プロセスの自動化を強化するだけでなく、武田薬品全体でより多くの人々が自動化による恩恵を広く享受できるようにすることでした。
本自動化プロジェクトは、90日間のスプリントで実施されました。Patel氏を中心とする実行チームは、テクノロジーの専門チームをつくるのではなく、武田薬品のさまざまな分野の従業員がデジタルスキルを身に付け実務で活用できるようにすること、そしてさらなるスキル強化を図ることに注力しました。そうした取り組みの1つが、「デジタルチャンピオン」というゲーム化した研修プログラムで、デジタルに関する意識の醸成とスキルの育成を行い、それらを普及させることを狙いとしています。同プログラムに参加した従業員は楽しみながらプロジェクトに挑戦し、自動化の可能性を最大限に引き出すことができました。第1期生は2020年4月に始まったプログラムに参加し、21名のデジタルチャンピオンが生まれました。この取り組みは、瞬く間に全社的に注目され、Wiredや日経新聞にも取り上げられました。
上記の研修プログラムに関して、武田薬品のTBSストラテジー、プロセスエクセレンス、イノベーション担当ヴァイスプレジデントのVanessa Gleason氏は次のように述べています。「当社は、テクノロジーとイノベーションの民主化を重要課題に位置付けています。その実現に向けて育成に力を入れており、従業員一人一人がデジタル化の恩恵を確実に享受できるようにしたいと考えています」。TBSでは、Power BIなどのテクノロジーに加え、アジャイル手法、ビデオ制作、プレゼンスキルなどのラーニングコースも提供しています。
また、「Artificial Intelligence Discovery」シリーズの研修では、従業員は概念としてのAIやそのケイパビリティ、業務への適⽤⽅法などについて学び、RPAやAIを活⽤する新たな機会を⾒いだすために必要なスキルを⾝に付けることができました。研修の成果は、「AIアイデアソン」で具現化され、190に及ぶアイデアが⽣まれました。そのうちの6件は「AI Dragon’s Den」にノミネートされ、従業員によるアイデアのプレゼンテーションが⾏われました。最終選考では3件のアイデアが企業の優先課題として選ばれました。