財務報告に係る内部統制の現状とこれからについて

情報センサー2023年5月号 EY Consulting

財務報告に係る内部統制の現状とこれからについて


関連トピック

「財務報告に係る内部統制の経営者による評価及び公認会計士等による監査」の導入からおよそ15年が経過した今、あらためて当該制度の導入経緯を確認すると共に、当該制度の現状や今後の方向性について説明します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)

Enterprise Risk(Internal Audit) 公認会計士 野田 博史

2005年当法人に入社。監査業務に従事。14年経済産業省に出向。産業の再生に関する政策の企画立案、「新産業構造ビジョン」の策定に従事。17年現EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)に転籍。J-SOXアドバイザリーをメインに従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)マネージャー。



要点

  • 財務報告に係る内部統制報告制度の導入経緯をご存じでしょうか。
  • 財務報告に係る内部統制報告制度における、外部監査人と経営者の役割分担についてご存じでしょうか。
  • 制度の見直しの状況についてご存じでしょうか。


Ⅰ はじめに

2008年4月に「財務報告に係る内部統制の経営者による評価及び公認会計士等による監査」(以下、財務報告に係る内部統制報告制度)が導入されてから、およそ15年の年月が経過しています。

本稿では、あらためて財務報告に係る内部統制報告制度の導入経緯を確認すると共に、財務報告に係る内部統制報告制度の現状や今後の方向性について説明します。


Ⅱ 財務報告に係る内部統制制度の必要性の高まり

1. 米国における動き

2000年代の初頭の米国において、巨額粉飾・不正会計事件が立て続けに発生し、米国の株式市場全体に対する信頼を大きく低下させることになりました。例えば、大手エネルギー企業であるA社について巨額の粉飾が発覚し、2001年12月に経営破綻することとなりました。また、大手電気通信事業者であるB社においても、財務状況を実態より良く見せるための粉飾会計が行われていたことが発覚し、2002年7月には経営破綻(当時の米国史上最大の経営破綻)することとなりました。

これらの会計不正に伴う事件を契機に、米国では財務報告の信頼性の確保の重要性が叫ばれることとなり、サーベンス・オックスリー法(上場企業会計改革および投資家保護法)が制定されました。


2. 日本における動き

わが国では、2004年に大手鉄道会社であるC社において、有価証券報告書において主要株主の記載を偽装する虚偽記載を行っていたことが発覚し、また、2005年には化粧品・日用雑貨を取り扱うD社において長年にわたる粉飾決算が発覚するなど大きな問題となりました。

このような状況を受けて、わが国でも財務報告の信頼性の確保の必要性が高まり、米国のサーベンス・オックスリー法等を参考に、2006年6月に成立した「金融商品取引法」により、財務報告に係る内部統制の経営者による評価及び公認会計士等による監査が義務付けられ、2008年4月1日以後開始する事業年度から導入されることとなりました。


Ⅲ 財務報告に係る内部統制報告制度の現状

1. これまでの制度の見直しについて

財務報告に係る内部統制報告制度の導入後、実際に制度に沿った実務を経験した上場企業等から、制度のさらなる簡素化・明確化に関する要望や意見が金融庁等に寄せられました。特に、中堅・中小上場企業においては、限られた経営資源の中で財務報告に係る内部統制報告制度への対応を行っていることから、内部統制の評価手続に関する基準等について、中堅・中小上場企業の実態に即した簡素化・明確化等を求める要望や意見が寄せられることとなりました。このような経緯から、2011年、企業会計審議会は内部統制の基準・実施基準のさらなる簡素化・明確化等の検討を行い、内部統制報告制度の運用の見直しを図ることになりました。当該見直しの内容は①企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保②内部統制の効率的な運用手法を確立するための見直し③「重要な欠陥」の用語の見直し④効率的な内部統制報告実務に向けての事例の作成となっています(<表1>参照)。

また、新規上場に伴う負担の軽減という観点から、2014年には「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第44号)が成立し、新規上場企業について上場後3年間は、財務報告に係る内部統制監査の義務を免除されることとなりました。

このように、財務報告に係る内部統制報告制度は導入後も適時にレビューを行い、その結果を踏まえて、必要に応じ見直しや明確化を行ってきていますが、これまでの見直しは内部統制報告制度のさらなる簡素化・明確化に軸を置いたものであったと考えられます(<表1>参照)。

表1 これまでの制度の見直しの内容

2. さらなる制度の見直しや実務運用上の課題

財務報告に係る内部統制報告制度の導入後およそ15年が経過し、財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えられるものの、一方で、その実効性に懸念が生じているとの声もあり、さらなる制度の見直しが進められています。前述の通り、これまでの見直しは内部統制報告制度のさらなる簡素化・明確化に軸を置いたものでしたが、今回の見直しは内部統制の実効性向上に軸を置いたものと考えられます(最新の見直しの状況については「Ⅴ 今後の財務報告に係る内部統制制度の方向性」にて説明します)。

また、各企業においても、評価範囲や評価対象プロセスが固定化してしまっている、制度導入当初の経緯が担当者の退職や異動などにより不明確となっている、事業環境の変化やデジタルトランスフォーメーションの影響を適切に反映しきれていないといった実務面での課題を感じているとの声もあります。そのため、制度の見直しに先行して、自社の財務報告に係る内部統制の在り方を見直す企業も出てきています。


Ⅳ 経営者評価と内部統制監査の違い

1. 経営者の役割と外部監査人の役割

内部統制監査は、原則として、同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われることとなっており、いずれの監査においても二重責任の原則に沿って実施されることとなります。

二重責任の原則とは、財務諸表に関連する役割や責任について、経営者と外部監査人との間でどのように分担するのかを定めた責任分担の原則となります。すなわち財務諸表監査において、財務諸表の作成責任は経営者にあり、外部監査人は経営者の作成した財務諸表に対する意見を表明する責任を負うこととなります。

この二重責任の原則は財務諸表監査に限らず内部統制監査についても同様に求められ、内部統制報告書の作成責任は経営者にあり、外部監査人は経営者の作成した内部統制報告書に対する意見を表明する責任を負うこととなります。

もし、内部統制監査について二重責任の原則がない場合には、内部統制報告書に対する経営者との責任分担について、ステークホルダーが適切に理解できないことになります。その結果、経営者が内部統制報告書の作成責任を果たさないという問題が生じる恐れがあります。また、経営者と外部監査人との責任分担が不明瞭となった結果、外部監査人が内部統制報告書を作成した上で自ら監査(自己監査)をしているのではないかとの疑念をステークホルダーが抱くこととなり、内部統制監査制度そのものに対する信頼が著しく低下する恐れがあります。

つまり、内部統制監査の実効性を担保するためには、二重責任の原則は必須の大前提と言えます。そのため、外部監査人の内部統制監査は、あくまで経営者の作成した内部統制報告書を監査するものであり、内部統制の構築や運用・監視を実施するような業務を行ってはならないとされています。


2. 経営者評価における外部専門家の活用

経営者は、内部統制を整備及び運用する役割を有しており、特に財務報告の信頼性を確保するために、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を評価し、その結果を外部に報告することが求められています。この有効性の評価に当たっては、専門的な知識や経験に基づく判断が必要となる場面が多いことから、企業においては外部専門家によるサポートを検討することもあります。

外部専門家の提供する財務報告に係る内部統制関連業務の代表的な例としては、次のような業務が挙げられます。

① プロジェクトの構成員になり、プロジェクトの運営管理支援を行うこと。
② 全社的な内部統制及び業務プロセスに係る内部統制の有効性の評価の支援を行うこと。
③ 内部統制の評価範囲に係る意思決定の支援を行うこと。
④ 内部統制に関する報告書作成の支援を行うこと。
⑤ 内部統制に関する報告書の作成において、発見された内部統制の不備に関して、重要な欠陥かどうかの意思決定の支援を行うこと。
⑥ 内部統制の運用状況を確かめるためのテストを支援すること。

これらの業務については、二重責任の原則や独立性の観点から外部監査人は行うことができないため、外部専門家の提供する業務となりますが、これらはあくまで各企業が必要と認めた場合にのみ実施するものであり、各企業が自社で対応できる場合には発生しない業務となります。


Ⅴ 今後の財務報告に係る内部統制制度の方向性

現状の財務報告に係る内部統制報告制度において、次のような事例が一定程度見受けられており、経営者が内部統制の評価範囲の検討に当たって財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮していないのではないか等、制度の実効性に関する懸念が指摘されています。

【事例1】経営者による内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる。
【事例2】内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない。

また、国際的な内部統制の枠組みにおいて、経済社会の構造変化やリスクの複雑化に伴う内部統制上の課題に対処するための見直しが行われているものの、わが国の内部統制報告制度ではこれらの点に関する見直しが行われてこなかったという指摘もあります。

このような内部統制報告制度を巡る状況を踏まえ、金融庁の企業会計審議会は2022年10月13日の第22回内部統制部会を開催し、財務報告に係る内部統制報告制度の見直しに向けた検討が開始されることとなりました。その後「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査の実施基準の改訂案」について、2022年12月8日の企業会計審議会第24回内部統制部会で報告され、今後、改訂基準及び改訂実施基準が、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用される予定となっています。

今回の見直しの内容は①「内部統制の基本的枠組み」②「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」③「財務報告に係る内部統制の監査」となっています。

①の内部統制の基本的枠組みに関する改訂のうち特に重要な改訂として、サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展等を踏まえ、内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」に拡大することが挙げられます。なお、金融商品取引法上の内部統制報告制度については、これまで通り「財務報告の信頼性の確保」が目的となっています。

②の財務報告に係る内部統制の評価及び報告に関する改訂のうち特に重要な改訂として、経営者による内部統制の評価範囲の検討における留意点を明確化したことが挙げられます。これは、経営者の評価範囲外から「開示すべき重要な不備」が検出される企業が一定程度みられることから、経営者の評価範囲の決定に際して、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すべきことを改めて強調するための改訂となります。また、評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する指標として、「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」の例示がありますが、これらの例示を機械的に適用すべきではないことが記載されました。これは、定量的な例示に偏重して評価範囲を決定し、リスクの高い事業拠点や業務プロセスを含めることが出来ていないとの指摘に対応するものです(<表2>参照)。

表2 今回の制度の見直しの内容

また、開示すべき重要な不備が当初の内部統制報告書ではなく、後日、内部統制報告書の訂正によって報告される事例が多いことを踏まえ、事後的に内部統制の有効性の評価が訂正される際には、訂正の理由が十分開示されることが重要であり、訂正内部統制報告書において、具体的な訂正の経緯や理由の開示を求めるために、関係法令について所要の整備を行うことが引き続き検討されています。


Ⅵ おわりに

2000年代の初頭に起きたさまざまな巨額粉飾・不正会計事件を契機に財務報告の信頼性の確保の重要性が叫ばれ、それを受けて財務報告に係る内部統制報告制度が導入されました。

制度導入後、その時々の課題や社会構造の変化に対応するために、必要に応じ見直しがなされてきました。これまでの見直しは簡素化・明確化が中心でしたが、今回の見直しは制度導入時の原点に立ち返り、財務報告の信頼性が中心となっています。今後も、必要な見直しが適時に行われることにより、財務報告に係る内部統制報告制度が高度化していくことが期待されます。

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サマリー

「財務報告に係る内部統制の経営者による評価及び公認会計士等による監査」の導入からおよそ15年が経過した今、あらためて当該制度の導入経緯を確認すると共に、当該制度の現状や今後の方向性について説明します。


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