EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿ではそのうち、LEAPのPrepare(準備)フェーズにおける反応(対応)評価指標に関するガイダンス(Annex 4.7: Guidance on response metrics in the Prepare phase of LEAP)について概説します。
要点
2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、開示指標に関する付属書類について、概要を説明します。
自然に関連する依存関係・影響・リスク・機会に反応(対応)するための評価指標についてガイダンスが開示されました。これらの評価指標はLEAPアプローチのPrepare(準備)フェーズに関連した情報になります。
本ガイダンスでは、目的と対象範囲に合わせて「ガバナンス」「戦略」「依存・影響・リスク・機会の評価と管理」の3つのカテゴリーとそのサブカテゴリーごとに反応(対応)インジケータ―とその指標が例示されています。また、評価の対象は、組織レベル、製品やサービスのラインレベル、あるいは特定の場所に関連するレベルといった異なるレベルのものが存在すると想定されています。自然資本への影響を効果的に管理するためには、それら全てのレベルでの対策と評価が確認されているべきであるとされています。
自然のリスク及び機会への反応(対応)が経営陣により決定された後は、組織の成果及び目標に対する進捗は、長期的にモニタリングされるべきであると提言されています。
実績(パフォーマンス)を管理するために使用されるインジケータ―は、ある基準や参照する状態(2020年度比、環境改変前など)と比較されながら、自然環境と接点を持つもの(Exposure;LEAPアプローチのEvaluateフェーズにおける依存と影響)とその重要性(Magnitude;LEAPアプローチのAssessフェーズにおけるリスクと機会)に関連付けられるでしょう。
自然への依存と影響を管理するための実績(パフォーマンス)インジケータ―には、下記の評価が必要とされます。
実績(パフォーマンス)インジケータ―は、企業が取り組むと決めたことや目標に関連付けられることもあります。(組織が一定数の認証や一定量の自然に関する教育トレーニングを導入すると決めた場合に関連するもの、など)。
具体的な実績(パフォーマンス)指標は、組織のコミットメントや目標に関連付けられたもので以下が例示されています。
例:水ストレス地域からの取水量、資源循環型製品の利用率、自然を支える製品・サービスへの投資ポートフォリオ割合、など
当ガイダンスでは、幅広い既存の基準や、関係者・専門家の意見を取り入れものが例示されています。下記では公開された反応(対応)インジケータ―とその指標の一例を記載します。
インジケータ―を【I】、指標を【M】、ガイダンス内で記載されている参照先を()内に記載しています。
【一般】
【ポリシー・コミットメント・目標】
【エンゲージメント】
【資本配分/投資】
【一般】
【バリューチェーン】
【自然への(依存・影響に対する)段階的緩和策】
【ボランタリーな保護・復元・復興】
【依存・影響・リスク・機会の評価】
反応(対応)インジケータ―やその指標と、その他のカテゴリーとして、LEAPアプローチで使用された指標とを組み合わせた表も例示され、これらの関連性が例示されました。
この表はTNFDで特定されるリスクと機会に照らし合わせて使用することができ、情報開示のための有用な資料となるでしょう。
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.7 Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.7_v4-1.pdf(2023年7月7 日アクセス)を基にEY作成
関連する活動場所を特定することから始まり、自然への依存・影響とともにリスクと機会を明らかにしていくLEAPアプローチのLocate・Evaluate・Assessフェーズを終えた際に、改めて企業や組織が、どのような対策を、どのような管理方法で実施していけば良いのかといった悩みに対して、アイデアと具体的な反応(対応)インジケータ―や指標例が、本ガイダンスで提示されています。
例えば、最後の反応(対応)指標とLEAPアプローチにおける指標との関連性が示された表では、水ストレスを抱える地域に関連した水資源への依存に対して、依存・影響・リスク・機会についての指標とともに、それらを考慮した反応(対応)指標が例示されており、考慮すべき指標の分類と具体例がイメージしやすくなっています。
開示においては、方針や体制だけでなく、進捗や実績をうまく表現することが求められます。本ガイダンスがその一助となります。
われわれEYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFDに係る取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。
関連資料
The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf
Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Beta v0.4 Annex 4.7 Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP,
tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.7_v4-1.pdf
【共同執筆者】
北村 岳
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部
京都大学大学院工学研究科の都市環境工学専攻博士前期課程を修了後、総合建設会社にて都市と建物に関わる環境・サステナビリティ分野の研究/技術開発に従事。
2023年にEYのCCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部に入社し、LEAPアプローチを含むTNFD開示支援、CDP開示支援、M&Aに関わる環境またはESGデューデリジェンス業務など、幅広く環境・サステナビリティ分野の業務に従事。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
LEAPのPrepare(準備)フェーズにおける自然資本への依存・影響・リスク・機会に対応する評価指標について、ガイダンスが追加されました(Annex 4.7)。
指標項目は、①ガバナンス、②戦略、③依存・影響・リスク・機会の評価と管理、の3つに分類され、組織全体レベルから、製品・サービスラインレベル、特定の地点に依拠するレベルまでの網羅的な指標の設定、及び継続的な管理・モニタリングが推奨されています。本ガイダンスでは、それらを実行するための既存及びTNFD用に検討された具体的な指標例が提示されています。
TNFDベータv0.4版発行:企業にとって、開示イメージがより具体的になったドラフト最終案の5つのポイント
自然関連の財務情報開示フレームワークであるTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表されました。今回は、基本コンセプト部分を補完する具体的な開示指標を記載した付属文書がそろい、より鮮明にTNFD開示のイメージを持つことができるようになりました。