TNFDベータv0.4版発行:開示の実施に関する追加的ガイダンス(Annex 4.7)について

TNFDベータv0.4版発行:開示の実施に関する追加的ガイダンス(Annex 4.7)について


自然関連の財務情報開示フレームワーク Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。

本稿ではそのうち、LEAPのPrepare(準備)フェーズにおける反応(対応)評価指標に関するガイダンス(Annex 4.7: Guidance on response  metrics in the Prepare phase of LEAP)について概説します。


要点

  • 自然資本に関連した依存・影響・リスク・機会に反応(対応)する評価指標について、基本的な考え方や分類、具体的な指標項目例が提示されました。


2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、開示指標に関する付属書類について、概要を説明します。

  • Annex 4.7 LEAPのPrepare(準備)フェーズにおける反応(対応)指標に関するガイダンス(Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP)

1. 反応(対応)インジケータ―とその指標の概要

自然に関連する依存関係・影響・リスク・機会に反応(対応)するための評価指標についてガイダンスが開示されました。これらの評価指標はLEAPアプローチのPrepare(準備)フェーズに関連した情報になります。

本ガイダンスでは、目的と対象範囲に合わせて「ガバナンス」「戦略」「依存・影響・リスク・機会の評価と管理」の3つのカテゴリーとそのサブカテゴリーごとに反応(対応)インジケータ―とその指標が例示されています。また、評価の対象は、組織レベル、製品やサービスのラインレベル、あるいは特定の場所に関連するレベルといった異なるレベルのものが存在すると想定されています。自然資本への影響を効果的に管理するためには、それら全てのレベルでの対策と評価が確認されているべきであるとされています。


2. 目標に対する実績(パフォーマンス)

自然のリスク及び機会への反応(対応)が経営陣により決定された後は、組織の成果及び目標に対する進捗は、長期的にモニタリングされるべきであると提言されています。

実績(パフォーマンス)を管理するために使用されるインジケータ―は、ある基準や参照する状態(2020年度比、環境改変前など)と比較されながら、自然環境と接点を持つもの(Exposure;LEAPアプローチのEvaluateフェーズにおける依存と影響)とその重要性(Magnitude;LEAPアプローチのAssessフェーズにおけるリスクと機会)に関連付けられるでしょう。

自然への依存と影響を管理するための実績(パフォーマンス)インジケータ―には、下記の評価が必要とされます。

  • ビジネス上の自然への影響要因の変化(プラスの、もしくはマイナスの)
  • 生態系や生物種によって構成される自然状態に対する変化
  • 生態系サービスの内、供給サービスに対する変化

実績(パフォーマンス)インジケータ―は、企業が取り組むと決めたことや目標に関連付けられることもあります。(組織が一定数の認証や一定量の自然に関する教育トレーニングを導入すると決めた場合に関連するもの、など)。

具体的な実績(パフォーマンス)指標は、組織のコミットメントや目標に関連付けられたもので以下が例示されています。

例:水ストレス地域からの取水量、資源循環型製品の利用率、自然を支える製品・サービスへの投資ポートフォリオ割合、など


3. 反応(対応)インジケータ―とその指標の例示

当ガイダンスでは、幅広い既存の基準や、関係者・専門家の意見を取り入れものが例示されています。下記では公開された反応(対応)インジケータ―とその指標の一例を記載します。

インジケータ―を【I】、指標を【M】、ガイダンス内で記載されている参照先を()内に記載しています。

ガバナンス

  • 規制を遵守するために割り当てられている責任者【I】(ESRS-2)
  • 自然に関するポリシー・コミットメント・目標について執行責任と説明責任を持っている最上位機関【I】(WBA-A2; GRI General Disclosure 2021)
  • 取締役会への、優先地域における実績や進捗の報告頻度【M】(CDSB; GRI 2: General Disclosure 2021)

    など

戦略

【一般】

  • 自然関連事項の、事業全体のリスクマネジメント及び戦略に対する統合レベル【I】(ESRS-4; GRI 2: General Disclosures 2021)
  • 事業戦略全体の中に資源循環型経済への計画が組み込まれていること【I】(ESRS-5)

【ポリシー・コミットメント・目標】

  • 学んだ教訓の組織の運用方針や運用手順への反映【I】(GRI)
  • 特定された重要な影響要因に対する方針・コミットメント・目標【I】(GRI Biodiversity Standard 304-6)
  • 自然に対するコミットメントに関連した製品/消費割合【M】(CDP)

    など

【エンゲージメント】

  • 特定された優先自然関連事項についての主要な取り組みへの賛同または関与【I】(CDP Water)
  • 地域のステークホルダーとの能動的なエンゲージメントを行っているサイトの割合【M】(TNFD)

    など

【資本配分/投資】

  • ネイチャーポジティブに関する投資基準の策定【I】(TNFD)
  • 自然への悪影響を避けるまたは減らすプロジェクトへの投資、もしくは影響が避けられない生態系の復元への投資額またはプロジェクト割合【M】(TNFD)

    など

依存・影響・リスク・機会の管理と評価

【一般】

  • 重要な影響要因に対するマネジメント戦略や計画【I】(TNFD)
  • 自然保護活動(Nature Action Plan)を実施している地点の割合【M】(ESRS-4; GRI’s Biodiversity Standard)

    など

【バリューチェーン】

  • バリューチェーン上で資源利用の多くに関わる影響要因の減少・代替【I】(TNFD)
  • 自然関連事項での調達先のスクリーニング【M】(TNFD)

    など

【自然への(依存・影響に対する)段階的緩和策】

  • 悪影響を受けた生態系の回復【I】(CDP)
  • 義務あるいは自主的な生物多様性オフセット【M】(ESRS-4)

    など

【ボランタリーな保護・復元・復興】

  • 自主的な生態系再生プロジェクトの範囲、期間、モニタリング頻度【I】(TNFD)

    など

【依存・影響・リスク・機会の評価】

  • 全社で特定した地点におけるプロジェクト/サービスラインレベルで実施している施策の評価【I】(TNFD)
  • 自然関連事項を評価するための時間スケール:過去と将来の依存・影響・リスク・機会の検討【M】(CDP)

    など

4. 反応(対応)インジケータ―とその指標を、他のカテゴリーの指標に関連させるための表の提案

反応(対応)インジケータ―やその指標と、その他のカテゴリーとして、LEAPアプローチで使用された指標とを組み合わせた表も例示され、これらの関連性が例示されました。

この表はTNFDで特定されるリスクと機会に照らし合わせて使用することができ、情報開示のための有用な資料となるでしょう。

反応(対応)指標とその他のLEAPアプローチにおける指標との関連性(例)

反応(対応)指標とその他のLEAPアプローチにおける指標との関連性(例)

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.7 Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.7_v4-1.pdf(2023年7月7 日アクセス)を基にEY作成


まとめ

関連する活動場所を特定することから始まり、自然への依存・影響とともにリスクと機会を明らかにしていくLEAPアプローチのLocate・Evaluate・Assessフェーズを終えた際に、改めて企業や組織が、どのような対策を、どのような管理方法で実施していけば良いのかといった悩みに対して、アイデアと具体的な反応(対応)インジケータ―や指標例が、本ガイダンスで提示されています。

例えば、最後の反応(対応)指標とLEAPアプローチにおける指標との関連性が示された表では、水ストレスを抱える地域に関連した水資源への依存に対して、依存・影響・リスク・機会についての指標とともに、それらを考慮した反応(対応)指標が例示されており、考慮すべき指標の分類と具体例がイメージしやすくなっています。

開示においては、方針や体制だけでなく、進捗や実績をうまく表現することが求められます。本ガイダンスがその一助となります。

われわれEYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFDに係る取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。


関連資料

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf

Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Beta v0.4 Annex 4.7 Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP,
tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.7_v4-1.pdf


【共同執筆者】

北村 岳
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部

京都大学大学院工学研究科の都市環境工学専攻博士前期課程を修了後、総合建設会社にて都市と建物に関わる環境・サステナビリティ分野の研究/技術開発に従事。
2023年にEYのCCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部に入社し、LEAPアプローチを含むTNFD開示支援、CDP開示支援、M&Aに関わる環境またはESGデューデリジェンス業務など、幅広く環境・サステナビリティ分野の業務に従事。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

LEAPのPrepare(準備)フェーズにおける自然資本への依存・影響・リスク・機会に対応する評価指標について、ガイダンスが追加されました(Annex 4.7)。

指標項目は、①ガバナンス、②戦略、③依存・影響・リスク・機会の評価と管理、の3つに分類され、組織全体レベルから、製品・サービスラインレベル、特定の地点に依拠するレベルまでの網羅的な指標の設定、及び継続的な管理・モニタリングが推奨されています。本ガイダンスでは、それらを実行するための既存及びTNFD用に検討された具体的な指標例が提示されています。


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    この記事について

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

    EYはクライアントと共にビジネスにおける生物多様性の主流化を目指し、ネイチャーポジティブのための変革をサポートします。

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