EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
PRBとは、2019年9月22日に国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が策定した銀行向けの原則です。PRBは以下6つの原則から成り立っています(下表参照)。
発足時には世界各国の132行が署名をしました。総資産額は47兆ドルであり、世界にある銀行の保有資産残高のうち約3分の1がこの原則に賛同したこととなります*2 。日本では、すでに大手銀行や地方銀行を含む6行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス、滋賀銀行、九州フィナンシャルグループ)が署名をしています。
原則 |
内容 |
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整合性 |
SDGsとパリ協定が示すニーズや目標と自社の経営戦略の整合性を取ること |
インパクトと目標設定 |
事業が引き起こす悪影響を軽減し、良い影響は継続的に拡大するため、目標を設定し公表すること |
顧客 |
顧客に対し世代を超えて繁栄を共有できるような経済活動を働きかけること |
ステークホルダー |
利害関係者に助言を求め連携すること |
ガバナンスと企業文化 |
影響力が大きい領域で目標を立てて開示、実践すること |
透明性と説明責任 |
定期的に実施状況を検証、社会全体の目標への貢献について説明すること |
この原則に沿うためには3つの重要ステップ(インパクト分析、目標設定と実行、説明責任)が定められています。①インパクト分析では、企業が社会・環境・経済に重大な影響を与えるとされるポジティブ面・ネガティブ面両方の分析が必要です。②目標設定と実行では、インパクト分析結果に沿って目標を設定し、取り組みを推進することが望まれます。③説明責任では、PRBに沿った取り組みを自己評価し、第三者保証を取得しその内容を公開することが求められます。署名機関は、上記重要ステップを署名から4年以内に実施できるよう体制を整えなければなりません。UNEP FIはこのステップを署名機関が実施するに当たり、インパクト評価のガイドラインを発行し、サポートを行うと表明しました。
この原則が持つ今までの責任原則と異なる特徴としては、署名機関にインパクト評価が求められることでしょう。ただ目標を自由に決めるのではなく、自社の影響度合いを測り、それにのっとり戦略を組むことが望まれています。また、発足段階ですでにこの原則を署名したとしても、その後原則を順守できていないと判断された組織は除名される可能性があることも特徴的です。
実は今回のPRB発足は他の責任原則である責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)、持続可能な保険原則(Principles for Sustainable Insurance: PSI)に次ぐ、3番目かつもっとも遅れた発足となりました。導⼊が遅れた原因の一つとして、取引先との関係が強く、簡単に融資先を変更できないなどの理由が挙げられています。PRIを始めとしたサステナブルな企業行動が広まるにつれ、今回ついに発足という形に至りました。この発⾜により、⾦融に関する3アクター(投資、保険、銀⾏)全てが責任投資に関与します。特に⽇本においては、間接⾦融から資⾦調達をする企業が多いため*3、銀行が責任投資に関わることは大きな意味をもたらします。
PRBの発足以降すでに大手3行が署名していることを考えると、持続可能な社会に向けてより良いお金の流れをつくろうとするサステナブルファイナンスの動きがさらに高まるのではないでしょうか。特に化石燃料に関しては、世界から見ても日本の3大メガバンクが多く投融資をしている分野ですが、この原則により投融資を控えるだけでなく投融資引き上げの検討も始まっています。すでにみずほフィナンシャルグループでは2020年6月から石炭火力発電への新規投融資を停止させると表明している状況です*4。
将来的に、この原則の署名の有無や、サステナブルファイナンスに向けた活動状況に関して外部のESG(社会・環境・ガバナンス)評価機関の評価項目に組み込まれることも予想されます。実際に、ESG投資指標を作るDow Jones Sustainability Indices(DJSI)の企業向け質問票のサステナブルファイナンスのセクションでは、アセットマネジメントへのESG基準の統合について問われています*5 。
サステナブルファイナンスを促進するに当たり、PRI、PSIに続き2019年に発足したPRBにより、金融市場におけるアクターがそろいました。原則実施の体制まで4年の猶予があるため、すぐにはモデルとなるような銀行は現れないかもしれません。しかし、各行がインパクト評価に基づいて取り組みを進めることになるとすれば、よりサステナブルな融資が増えていくことが推測され、融資を受ける側の企業も資金調達の在り方を変化せざるを得ない状況になる可能性があります。サステナブルファイナンスに向けてのサイクルは今後より一層活性化されていくと予想されます。
PRBの発足や現状を踏まえて、EYでは主に3つの重要ステップであるインパクト分析、目標設定と実施、説明責任を行うことにおいて包括的な支援を提供できます。インパクト評価では、UNEP FIのインパクト評価ツールを利用して融資先のセクターや融資プロジェクトの内容を評価したり、事業に関連する国のニーズや優先課題などを整理したりすることによってご支援する予定です。また、必要に応じてステークホルダーとのエンゲージメントも実施して目標や行動計画などの策定あるいはレビューに携わり、客観的に信頼できる情報発信のサポートが可能です。
脚注
*1 United Nations Environmental Programme - Finance Initiative, Signatories,
https://www.unepfi.org/banking/bankingprinciples/signatories/ (アクセス日:2020年12月18日)
*2 United Nations Environmental Programme, 130 banks holding USD 47 trillion in assets commit to climate action and sustainability,
www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/130-banks-holding-usd-47-trillion-assets-commit-climate-action-and , September 2019(アクセス日:2020年11月23日)
*3 内閣府、今週の指標No.1231「規模別にみた直接金融による資金調達の動向について」(2020年3月4日)、
www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2020/0304/1231.pdf (アクセス日:2020年11月23日)
*4 みずほフィナンシャルグループ銀行、責任ある投融資、
www.mizuho-fg.co.jp/csr/business/investment/index.html (アクセス日:2020年11月23日)
*5 Finch&Beak, Acerating sustainability performance,
www.finchandbeak.com/documents/Summary Methodology Changes DJSI 2019.pdf, March 2019 (アクセス日:2020年11月23日)
銀⾏に対して持続可能な開発⽬標(SDGs)やパリ協定の達成に向けた共同⾏動を⾏う原則であるPRBが発⾜しました。署名機関はインパクト分析を通じて⾃社のポートフォリオをよりサステナブルなものに変更する必要があります。この原則により、サステナブルファイナンスへの動きがより⼀層活性化する可能性があります。