EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)が盛り上がりを見せる2020年前後については、企業が活用のブロックチェーンについても実証実験や実践などが盛んに取り組まれていました。そしてデジタル証券(セキュリティトークン)をはじめとして、企業がブロックチェーン周辺技術を活用する状況が生まれていく可能性があります。
本稿では、ブロックチェーンと会計・監査の性質的な共通点について、会計や監査に携わる方向けに、解説します。
ブロックチェーン(Blockchain)は、分散型のデジタル台帳技術です。ブロックチェーン技術は、複数のネットワーク参加者が共有台帳を持ち、その台帳の情報を継続的に保持または更新する仕組みを提供します。ブロックチェーンは、取引やデータの記録を透明かつ改ざん困難な方法で管理するために使用されます。
ブロックチェーン技術の名前の由来は、取引やデータに関連する情報がブロックと呼ばれる小さなデータ単位を生成し、連続的に追加されていく仕組みに由来しています。それぞれのブロックには、以前のブロックへのリンク(ハッシュと呼ばれる一種のデジタル指紋)と新たなデータが含まれています。ブロックチェーンとはこの連鎖的なデータ構造とその連携により名付けられています。
過去のデータを改ざんするためには、過去にまでさかのぼり、全ての関連するブロックを変更する必要があります。したがって、ブロックを変更するためのコンピューティング計算リソースを有する攻撃者が存在しない限り、改ざんが困難な状態となっています。
ブロックチェーン技術の特徴について、簡潔に示すと次のようになります。
分散性: ブロックチェーンは、複数の参加者がネットワーク上で台帳を保有し、データの共有と管理が行われます。中央集権的な機関が不要な状態で機能し続ける仕組みとなっています。
透明性・検証可能性: ブロックチェーン上の情報は、全ての参加者によって閲覧可能で、変更履歴も追跡できます。
改ざん耐性: データはブロックチェーン上に一度記録されると、そのデータを改ざんするためには膨大な計算リソースが必要となります。
ブロックチェーンは過去何十年もの取引記録などが正しく、安く、検証可能な状態で保管され続ける技術だと考えられています。例えば、家の中古物件を購入する場合、過去の来歴によって、それらの価格の妥当性や合理性が生まれてくると思います。取引データが改ざんされずに継続的に記録され、保管されるのは当然のことですが、当然が故に、現在多くの人がこのシステムを維持し続けられる環境を過小評価しているように感じます。
会計とは、企業が経済活動に関連するお金の流れや取引に関して、複式簿記を使い、記録し、財務諸表を作成し、利害関係者らに報告するプロセスです。企業はまず取引を「借方、貸方」に分解し、それぞれに適切な勘定科目を当てはめて記録します。さらに試算表を作成して、数値の整合性などを確認し、財務諸表が作られます。なお財務諸表を作成する責任は、企業の経営者にあります。
監査とは、監査人が企業の財務諸表の適正性を評価して、意見を表明するプロセスです。監査人は、意見表明のために、大きく4つのプロセスに分けて、財務諸表の適正性を検証していきます。アサーションとは、監査人が財務諸表に関しての経営者の主張を分類したものとなります。例えば実在性や網羅性などがあります。実在性とは、計上されている固定資産が実際に存在しているという経営者の主張です。この主張に対して、監査人が検証することをアサーションレベルの検証と言います。
前述した4つのプロセスとは、アサーションレベル、勘定科目レベル、財務書類レベル、財務諸表レベルです。
監査人は企業に請求書などさまざまな証憑書類を共有していただきながら、監査プロセスを進めていくのです。
財務諸表はさまざまな要素が含まれるものであり、これを直接立証することは困難です。そこで監査人は固定資産、売上高といった財務諸表項目、さらにそれら財務諸表項目おのおのの実在性(本当に実在しているか)、網羅性(漏れなく全て計上されているか)を検証していきます。
ブロックチェーンは分散型デジタル台帳と呼称されるように、台帳です。台帳は以前から会計領域で利用されてきているものです。
仕訳帳、補助元帳、総勘定元帳などには、企業が複式簿記を活用して、仕訳してきた経済取引が記録され、保管され続けています。
パブリックブロックチェーンはデジタルデータの記録と保管を分散的に行っていくためのシステムです。会計プロセスを代替的に担うポテンシャルがあるのではないかと我々は考えています。
さらに言うと、複数のネットワーク参加者が共有台帳を持つことで情報を継続的に保持し更新するブロックチェーンの仕組みにより、取引やデータの記録を透明かつ改ざん困難な方法で管理することができるようになるため、従来の元帳の仕組みを代替する可能性があります。
ブロックチェーンでいうトランザクションは、会計でいうところの仕訳だと考えています。
そして、監査においても企業がパブリックブロックチェーンを活用して、経済活動を記録していけば、大きくメリットが存在していると思います。そのメリットとは、監査人が企業に対して、財務諸表の記録の元となる証憑および財務データの共有依頼をする回数が大きく減ることです。
監査人は、企業が作成した財務諸表の適正性を評価して、意見する役割があります。そのためにはありとあらゆるデータを企業に共有していただく必要があります。ブロックチェーンの特徴である「透明性・検証可能性」そして「改ざん耐性」が生かされるのであれば、共有回数は大きく減るのではないでしょうか。
暗号資産に関連する監査実務は、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」1を基本として行われています。また日本では監査において暗号資産領域のビジネスにどのように対応していくかについても、現在、議論が進められています。なおEY新日本はブロックチェーン領域でビジネスを行う企業への監査実務に対する考え方をYouTubeで発信をしておりますので、併せてご覧ください。
1. 実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」の公表
www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2018/2018-0314.html
(2023年12月25日アクセス)
EY新日本有限責任監査法人 竹田 匡宏
ブロックチェーンは技術的理解より先に概念的理解をすることをお勧めします。このコンテンツを通して、会計や監査に精通している方は、ブロックチェーン技術がどのような技術であるか多少なりとも認識できたのではないでしょうか。今後もブロックチェーン技術は進歩していき、社会にとって重要な技術となると考えられます。