EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2月に配信され、好評を博したEY Japan主催ウェビナー「生成AIがテクノロジーセクターと消費者へもたらすイノベーション」。LINEヤフー株式会社の砂金 信一郎氏、ソニーグループ株式会社の小林 由幸氏、パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社の高木 政彦氏、株式会社エクサウィザーズの前川 智明氏と、生成AIに関する深い知見を持つゲストが講演を行いました。
生成AI時代における有用な情報がさまざまな視点から語られましたが、共通していたのは「これからのビジネスにおいて生成AIへの深い理解とその活用は必要不可欠」だということです。それでは、具体的に私たちはどのように生成AIと向き合い、使いこなしていけば良いのでしょうか。
ウェビナーの後半では、ゲスト登壇者4名とEYストラテジー・アンド・コンサルティング シニアマネージャーの岡部(モデレーター担当)によるパネルディスカッションの場を設けました。識者たちがさらに掘り下げる「生成AIの可能性」とは――。以下で白熱した議論の一部を紹介します。
左よりEY 岡部、LINEヤフー 砂金 信一郎氏、エクサウィザーズ 前川 智明氏、ソニーグループ 小林 由幸氏、パナソニックインフォメーションシステムズ 高木 政彦氏
岡部:企業のCXOの方から「生成AIとどう向き合えば良いか分からない」という声をよく聞きます。2015年ぐらいからAIのビジネス活用が始まっていると思いますが、皆さんの企業、あるいは皆さん自身は、AIをどのように活用されているのでしょうか。
砂金氏:壁打ちで言うと、人気アニメ「エヴァンゲリオン」にはMAGIというAIが登場するのですが、このAIは3つの人格を持っています。女性としての自分、研究者としての自分、母としての自分。この3つの人格が、同じテーマについて考えて正解を出す、という設定があります。
これと同じことを、壁打ちの時にChatGPTで簡単にやることが可能です。経営者の相棒、現場の人、お客さま……といった人格をそれぞれ設定しておくと、1人で複数のAIとの会議が主催できる。その中で、AIに一方的に負かされて「私のアイデアが稚拙でした」ということを何回か繰り返していると、良いものにブラッシュアップされていったりする。これはぜひやってみていただくと意外な気付きがあると思います。ChatGPTとGeminiなど、種類ごと変えてみても良いかもしれません。
岡部:AIに同じ質問をして違う答えが返ってくる、というのはよくあるパターンでしょうか?
前川氏:当社でも、人格の違う生成AIと議論する試みを多く行っています。壁打ちのような形で、例えば決算発表のストーリーをぶつけた時に、株主の観点でどのようなフィードバックが来るんだろうと試してみる、という話から、優しく「今日頑張ったね」「今週もお疲れさま」と声掛けしてくれる設定にして、自己承認欲求を高めるような使い方も始まっています。
小林氏:個人で使いこなしている人がどんどん増えている気がします。生成AI時代に健全な企業、健全な従業員であればあるほど、特に会社から何か用意されたり指示されたりしなくても、次々に新しい使い方が発見されているようです。もちろん私も、個人的にも日常的に使っています。パソコンやスマホを開いていたら、その何割かは使っているのではと思います。
高木氏:われわれのグループでも、やはり最初は壁打ちから始まりました。人事や経理など、それぞれの業務でやりたいことが多少違ってきます。小林さんがおっしゃったように、個々人で使い始めてはいるのですが、ある程度の段階になると自分だけではなかなか次のステップに行けない。サービスを提供している側からすると、そのような点にリソースを充てる取り組みが社内に必要なのではと思います。
岡部:高木さんの会社では、ガバナンスを効かせるために「野良GPT」、つまり会社がオーソライズしていない生成AIを禁止されていると伺いました。
高木氏:クラウドの使用は必ず倫理委員会を通すことになっていて、勝手にOpenAIにつなげることはできません。個人情報の問題など非常に危険なので、セキュリティチェックは気を付けています。
小林氏:個人的には非常に多く使用しています。
砂金氏:会社のデータを扱うかどうか、線引きをして使っている分には問題ないと思います。私は小林さんほどいろいろなことを研究しているわけではありませんが、論文などはとても読みやすくなりました。公開されている論文をPDFで取り込んで、分からない点を問い合わせて「なるほど、こういうことなのか」と。非常にタイムパフォーマンスが良い状況です。公開情報を自分の技術習得のために使っているだけで、会社として踏み越えてはいけない個人情報、機密情報にアクセスしているわけではない。そこのバランスが大切だと思います。
小林氏:リテラシーの問題ですよね。例えば、Google検索をいちいち上司の許可を取ってやるかというと、そんなことはない。検索値に入力したものがGoogleに上がってくるわけで、間違った情報が出てきたとしても、それは当然あり得るとわれわれは慣れているから分かっています。われわれは生成AIのようなものをずっとウォッチしてきて、その辺りのイロハが分かっているのでリスクなく使えるのであって、リテラシーがあれば、「野良」で使うのもできる話だと思います。
岡部:データ解析の側面についてお聞きいたします。生成AIは、今後データ解析の側面でどのような可能性をもたらすのでしょうか。
砂金氏:「データ」というとまだ解像度が荒いので、「構造データ」と「非構造データ」に分けて考えると、非構造データは、とりあえずboxやSharePointに保存したけれど、そのあとは再利用されていなかったものです。それらを生成AIに「要約して」「ラベル付けをして」「分類して」と指示すると使いやすくなります。
一方、データウェアハウスのようなものがある程度できていると、そこに今まではタブローや、データアクセスのための手順や仕組みがあり、「それが扱えるデータサイエンティストは神」みたいな状況だったかもしれない。「こういうデータが欲しい」とChatGPTなどにお願いして「それを実現するPythonのプログラミングコードを出してください」と指示すると、回答が出てきます。あとはそれを実行するだけ、という形になるので、構造データという観点で言うと、今まではデータアクセスの知識があるスペシャリストしかできなかったことが、生成AIを活用することによって自分でできるようになる。これは大きな可能性だと思います。
前川氏:今までは、誰かから指令を受けた人が社内にあるデータを探して、ローカルに落とし、自分なりに分析の切り口を考えながら結果を出す、という作業が多かったと思います。せっかく企業がデータアセットを持っているのに、無駄になっているように感じます。
砂金さんがおっしゃるように、boxやSharePointに入っている非構造データは「データがあるようでない」という状態でした。そこにいち早く生成AIを絡めることで、意思決定に何かしら示唆がもたらされるという点や、無駄なローカル作業をなくすという時間軸的な意味でも、革新的なところの入り口には立っているのではないか、と思っています。
小林氏:現状の生成AIがどこまでできるかという話と、今後の生成AIがどこまでできるか、という話でまた変わってくると思います。先ほどもお話ししたように、今後、マルチモーダル、マルチタスクなAIというものにどんどん成長していきます。そうすると当然、扱えるトークン長、これは文章の長さのようなものなのですが、それがどんどん長くなっていくと、本当に巨大なデータベースが直接入力して扱えるようになります。こうしたことを考えると、いわゆるデータサイエンティストと呼ばれるようなところを自動化するというのは、そう遠くない未来に十分可能ではないか、と思います。
高木氏:事例を2つほど挙げさせていただきます。社内でもこういったサービスを提供していると、思わぬ使い方をする人がいます。RPA(Robotic Process Automation)を、夜中にシミュレーションソフトを使って、パラメーターをロボット経由で何度も回して、閾値(しきいち)を計算している人たちがいます。
もう1つは、例えば、最適化問題のようなものを解こうと思って、今だと専門家が数式やモデルを作らないといけませんが、そういったところも生成AIを使えばある程度のコードは作ってあげて、あとは微修正していくことができるようになります。そうすると、今後、量子コンピューターが出てきた時に、そのモデルをそのまま使えるようなことができるかもしれない。そういった使い方はあるのではと思います。
岡部:気になるのは、ホワイトカラーの仕事の仕方が変わる、という話です。今後、ブルーカラーの仕事と比べて、ホワイトカラーの仕事の割合がどんどん減っていくのではないか、中には「ホワイトカラーの仕事は要らなくなる」と極端なことを言う人もいるのですが、皆さんはどうお考えでしょうか。
前川氏:仕事の仕方というか、付加価値の出し方が変わるんだろうなという感覚がまずあります。私自身、もともとコンサル業界にいたということもあって、例えばジュニアコンサルタントができるようなリサーチワークだとか、情報を取りまとめてきれいにするような仕事は、今のGPTの精度でもできている部分があるかなと。それで「仕事がなくなるか?」というと、出てきた結果を踏まえて「どうクライアントに変容をもたらしていくか」といった方に時間を使っていくという形になるのではないかと思っています。
例えば、今まで仕事の8割が調査タスクだったところのポーションがだいぶ変わる代わりに、残りの時間に何をするかというところが、付加価値の考え方として大きく変わってくるのではないでしょうか。そういうトランスフォーメーション志向ではないですが、スキルが今後問われてくるのではないか、と思っています。
小林氏:もちろん仕事の仕方が変わってくるだろうとは思います。無料で自分の指示をなんでも聞いてくれる、月数千円を払えば、エキスパートみたいな絵を作ってくれる、何回でもやり直ししてくれる。そういう人たちを無制限に雇用できる、これほど便利なツールはないのではないでしょうか。受け止め方として、新入社員の方も、非常に優秀な部下が自分の指示を何でも聞いてくれる状況と言えます。そういった使い方や意識でもっとAIを活用することで、自分ひとりの力をどこまで高めることができるか。
そうやってしっかり使いこなしていけば、人類全体で行うことができる仕事の総量が増え、ひいては世の中全体を豊かにできるのではないでしょうか。だから皆さん、一人一人がAIを活用して、10人分、100人分の仕事ができれば、世の中をより豊かにしていけるのかなというところですね。
高木氏:仕事をしていく中で、本当はできることなら業務を全自動化したいですよね。上司もそう言いますが、現場の反対や抵抗も非常に大きいのです。その結果として、仕事がなくなってしまう人も一定数出てくるためです。それでも、実際に自動化ができるような環境になってきているので、先ほど皆さんがおっしゃったように、やはり意識を変えていく必要性が大きいと感じます。
加えてトップの意思決定です。個人のレベルで、壁打ちしながら少しずつ良くなっていく、ということもあるでしょう。そこからさらに伸ばそうと思うと、トップの意思決定が伴って踏み込んでいかないとなかなか難しいと思っています。
岡部:組織の中でも反対する人というのがいらっしゃるということですね。
高木氏:そうですね。どうしても仕事がなくなる人が出てきてします。今までは、最後に人間がボタンを押さなければいけなかったところも、今後はなくなる可能性があります。そうなった時に何をするのか、という話になります。そこの抵抗はどうしても出ます。
砂金氏:ホワイトカラーの仕事をもう少し分解していくと、AIの技術の問題や法律、社会の問題など、今のAIでは責任を取れないということです。「AIさん」が定義されていないので。最後に責任を取る、チェックをする、確認をすることは、ホワイトカラーの最後の牙城とでもいいましょうか。
「資格を持った人が最後にチェックしました」ということが、今まで以上に重要になってきます。先ほどのジュニアコンサルのような人たちは、経由しないと成長しなかった最初の「うさぎ跳び期間」が失われることによって、どうやってこれから戦略眼や、ロジカルシンキングを養っていくのか、すごく難しいのではないでしょうか。
岡部:最後に、どうしてもお聞きしたかったトピックです、「今後日本がより元気になっていくための生成AIとの向き合い方」について、コメントをいただけますでしょうか。
高木氏:NHKで「魔改造の夜」という番組が放送されています。パナソニックも出演しました。出演される方々は非常に皆さん生き生きしています。やはり「一つのことをみんなでやるぞ」といった点が理由でしょうか。今まで日本は、そういった機運があまり無かったような気がします。大げさですが、新しい技術を使いながら、そういった場を作って活動していくことによって、非常に元気になるのかな、ということは感じています。このような活動をわれわれも一緒にやっていければと思っています。
小林氏:日本はアニメ文化など、AIのようなものに対する抵抗感がないところが強みだと言われています。ぜひポジティブに受け止めて、どんどん生成AIを使っていく、何かしら新しいサービスを提案していきたいです。
日本は言語の面でも閉じられた空間だったりするので、日本の中に対して、何かやろうとする雰囲気を感じています。世界中のベンチャーがこの生成AIの波に乗って、世界に対して新しいイノベーションを起こそうと躍起になっているところで、国内に向きすぎるのは、非常にリスクだと思っています。ぜひ、日本から世界80億人が使うような生成AIのサービスという視点で、皆さんに頑張っていただくといいのかなと思います。
前川氏:別の角度から言うと、スペシャリストのハックというか、いかに自分が楽するために使いこなすマインドを持てればよい、と思っています。ビジネスで使うことも、プライベートで楽するというのもそうです。これだけオープンなテクノロジーで、どこかの企業に属していないと使えないという世界ではなくなってきています。それをいかに自分なりに学んで、生活をハックする方に使っていく活動は、元来、日本人は得意なのではないでしょうか。その辺りの突き詰めを個々人が一人一人やっていけると、全体としての底上げにつながっていくのではないかと思っています。
砂金氏:協調領域と競争領域の区別など、うまいバランスの取り方が大事だと思っています。その点は、日本人は得意ではないかと思います。製造業の今までの歴史を見ても、オープンに連帯していろいろな技術を進化させる一方で、自分たちのコア技術、「これだけは自分たちで作りこもう」という区分けのような、うまい組み合わせができてきたのではないかと。
生成AIでいうと、アウトプットのバリエーションがありすぎるので、ある業務に当てはめた時の、正解率は何%ですかという「正解用」のデータセットは存在しないのです。自社の環境であればAIにこのように答えてほしい、というものをきちんとデータセットとして持っておくこと。いつかそれができるようになった時に「このデータを入れれば自社用にチューンナップされた賢い業務ができるAIがあります」と、少し先回りしてデータを持つことができるのではないでしょうか。結果、差別化要因、つまり協調ではなくて競争の源泉のようなスペースができると思います。これはみんなで盛り上げていこう、というモーションと、ここは今後自社だけで、自分たちだけが取り入れるデータだから大事にしようという部分――その辺りを、AIの話だけではなくデータの話と合わせて考えていただくのがいいのではないかと思います。
岡部:貴重なご意見ありがとうございます。パネルディスカッションはここまでとしたいと思います。皆さん、本日はお忙しいところ集まっていただきありがとうございました。
最後にEY新日本有限責任監査法人TMTマーケットセグメントアシュアランスリーダー矢部 直哉が閉会のあいさつを行いました。
EY新日本有限責任監査法人
TMTマーケットセグメント アシュアランスリーダー 公認会計士
矢部 直哉
矢部:本ウェビナーは、あるIT企業大手のCEOとのディスカッションの中で「生成AIはWindows95以来の衝撃である」という話を頂戴しまして、これをきっかけに去年の夏ぐらいから企画を開始いたしました。本日お話をお伺いして、改めて衝撃の大きさを実感した次第です。生成AIについての基礎的な内容から、最先端の具体的な取り組み、さらに生成AIの未来まで、幅広くご紹介いただきました。生成AIについて、ご視聴いただいた皆さまの理解が少しでも深まれば幸いです。
われわれはクライアントの皆さまのビジネスを十分に理解し、価値を提供するために業種別のセクターナレッジを日々、蓄積、深化させております。特にテクノロジーセクターは、他のセクターとの親和性も高く、今回のセミナーもテクノロジーセクターと消費財小売セクターの共催で実施いたしました。今後もわれわれのパーパス(存在価値)である「より良い社会の構築」を目指して、セクター活動で得たナレッジを皆さまとも共有していきたいと考えております。
以上
前列左よりLINEヤフー 砂金 信一郎氏、エクサウィザーズ 前川 智明氏、ソニーグループ 小林 由幸氏、パナソニックインフォメーションシステムズ 高木 政彦氏、後列左よりEY 佐藤、岡部、片倉、矢部
【共同執筆者】
EY新日本有限責任監査法人 竹田 匡宏
EY新日本有限責任監査法人 杉山 大介
※所属は記事公開当時のものです。
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「生成AIを使わなければ金魚になるぞ」――。ソフトバンクの孫氏は常々、従業員たちにこう発破をかけているといいます。大きな変革の最中にあるビジネス環境を生き抜くために、ビジネスパーソンに求められる知識と思考法とは何なのか、業界のトップを走る識者たちがその本質を語りました。
現在の生成AIの能力だけでなく、潜在的な可能性を見極めることが重要です。単純なリサーチ業務から複雑なデータ処理まで、生成AIが自動化する未来は遠くありません。AIに処理させる適切なデータアセットを整備しつつ、その成果からさらなる付加価値を生む能力を身に着けておく、これが日本の活力にもつながるはずです。