EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
現在、われわれの社会は大きな変化と共に新しい時代へと移りつつあります。高齢化や社会の多様性、働き方改革、新型感染症の拡大など、これらの変動が生み出す社会環境は、個々のウェルビーイング ── 心身の健康と幸福感 ── に対して深い影響を与えます。このような状況下、ウェルビーイングテクノロジーの価値と重要性が注目されています。ウェルビーイングテクノロジーとは、心身の健康と幸福を促進し、個々人の生活品質向上を目指す技術の総称を意味します。ウェルビーイングは、大きく分けて以下の4つの要素に分けられます。
これらの要素を最適化するために、ウェルビーイングテクノロジーが活用されています。以下に示すのは、これらの要素を支えるウェルビーイングテクノロジーの例になります。
1. 心の健康を維持・改善する技術
2. 身体の健康を維持・改善する技術
3. 社会的なウェルビーイングを向上させる技術
4. 「経済の状態」が落ち着いており、安心して生活できるような状態にすることをサポートする技術
ウェルビーイングテクノロジー活用が進んできた背景:社会的変化とテクノロジーの進化が主要な2つの要因となります。現代社会は、ライフスタイルや価値観の大きな変動と共に、超高齢化や人口構成の変化が進行しており、健康や幸福感がより重要視されています。こうした状況の中で、ウェルビーイングテクノロジーは、人々がより充実した生活を送るためのソリューションを提供し、社会的なニーズに対応しています。
また、AIやセンサー、アクチュエータ、ロボティクスなど、テクノロジーの急速な進化により、ウェルビーイングに対するアプローチが大きく進化しています。これらの技術により高度なデータ分析や自動化などが可能となり、個々のウェルビーイングを具体的に支援することが可能になっています。
このようなテクノロジーの発展が見られる中、なぜいま企業がウェルビーイングテクノロジーに注目すべきなのでしょうか?
しかしながら、現状の取り組みはまだ十分とは言えず、さらなる進歩と展開が期待されています。ここに新たな可能性があり、企業がウェルビーイングテクノロジーに重点を置き、社会問題の解決へ向けたリーダーシップを発揮すべき時が来ていると言えるでしょう。
パナソニックホールディングス ロボティクス推進室 室長 安藤 健氏は、超高齢化社会において、ウェルビーイングテクノロジーが果たすべき役割について以下のように述べられています。「やりたいことを、やりがいをもって楽しくできるということが重要。やりたくないと思う仕事は積極的に自動化したら良い。自動化ができない義務感だけで行う仕事はつらいので、1つ目の役割は自動化すべきことはどんどん自動化すること。2つ目の役割は、やりたいことに関して、働きがいや生きがいをエンリッチしていくこと。健常者だけでなく、何らかの理由で働くことが困難な人に対して、いつまでも自分がやりたいことに挑戦できるよう、テクノロジーがサポートしていくこと」
また、EYの独自調査である、「EY CEO Outlook Pulseサーベイ」によると32%のCEOが、今後6カ月以内にとるべき最も重要な戦略的アクションとして、「テクノロジーを利用して顧客ロイヤルティを高め、製品・サービスを最適化する」と回答しています。ただ、日本のTMT業界のCEOに限定すると、22%にまで下がります。これはGlobalのTMT業界と比べても低い状況です。
テクノロジーの利用によって、より効果的で使いやすいウェルビーイングテクノロジーが開発され、利用者の健やかなライフスタイルの実現を支援していくことが重要です。「アテンションエコノミー」という現代の社会状況の中で、企業は「使っていることを感じさせないテクノロジー」を活用し、顧客が離れることなく、むしろ引きつける形を追求するべきです。テクノロジーがあらゆる掛け算をもたらし、その結果として顧客ロイヤリティを高め、製品・サービスを最適化することが可能となります。
ウェルビーイング学会 代表理事、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司氏は「幸せな人は、社会関係資本が整っていて人間関係が良い状態にある、やりがいや生きがいがありやる気に満ちあふれている、主体性がありチャレンジ精神や個性の発揮がある、といった特徴があげられる。ウェルビーイングテクノロジーは、感性を生かすこと、つながり、やりがいなどにつながるテクノロジーであるべきだ」と述べられています。
高齢化が進行するわが国。65歳以上の高齢者人口は2023年9月15日時点で過去最高の約3600万人2 となり、全人口に占める高齢者の割合も29.1%と、いわゆる「超高齢化社会」へと突入しています。超高齢化社会が抱えるさまざまな課題、それは例えば介護問題や労働力不足、孤独感の増大など、多岐にわたります。日本の超高齢化社会が抱える課題に対して、ウェルビーイングテクノロジーが果たす役割・効果については以下のようなものが考えられます。
ウェルビーイング学会 代表理事、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司氏は、ウェルビーイングテクノロジーのメリットとして「広い意味で言えば、健康寿命が延び、いきいきと生きることができるようになり、人生の最大の目的である幸せに寄与することである」と述べられています。
一方で、超高齢化社会におけるウェルビーイングテクノロジーの活用には、以下のような課題も浮かび上がっています。
これらの課題を克服し、ウェルビーイングテクノロジーを一層活用していくためには、利用者のニーズと困難に対する理解、教育・支援体制の充実、データプライバシーとセキュリティの確保、および技術の普及とアクセシビリティの向上などの取り組みが重要となります。
このような課題がある中、企業はウェルビーイングテクノロジーを用いた商品やサービスを提供する際に、どのような点に留意するべきでしょうか?
日本企業がウェルビーイングテクノロジーを活用した商品やサービスを提供する際に成功するためには、以下の4つのポイントに留意することが重要です。
これらの要素を統合し、ユーザー中心の設計、データの収集・解析とプライバシーとセキュリティの確保、エコシステムの構築、そして心の健康と社会的つながりの促進を行うことが、ウェルビーイングテクノロジーを活用した商品やサービスが超高齢化社会で成功する秘訣(ひけつ)です。
ウェルビーイングテクノロジーを取り巻く環境は、日本企業にとって多くの優位性を生み出しています。社会面では、日本は先進国中でも特に高齢化が進んでおり、この問題解決に向けた技術や商品、サービスに対するニーズが大きく、市場自体が拡大しています。そのため、日本企業はこの市場においてユーザーのニーズを深く理解する強みを生かすことができます。また、技術面でも、ロボティクス、素材科学、製造品質など、日本企業は高い技術力と品質保証能力を有しています。これらの強みを生かせば、ウェルビーイングテクノロジーの精度向上や、品質の高い商品やサービスを提供することが可能です。
ウェルビーイングテクノロジーは、企業活動と社会貢献を連動させる可能性を秘めています。これを用いて新たな市場の開拓や従業員の健康、幸福の確保、投資家に好まれる企業を実現することは、企業と経済全体の健全な成長を促す一方で、社会全体のウェルビーイングも向上させると言えるでしょう。
日本企業は、超高齢化社会という大きな社会ニーズと、高度な技術力とを併せ持っています。これらはウェルビーイングテクノロジーを活用し、優れた製品・サービスを生み出すための大きな原動力となり得ます。未来へ向かうわれわれの船出は、ウェルビーイングテクノロジーと共に。これからの挑戦が、健康で幸せな社会を創出するための第一歩となりますように。
脚注
【共同執筆者】
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジーコンサルティング
山本 直人 パートナー
テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター
⽔島 幹雄 シニアマネージャー
菅 哲雄 シニアコンサルタント
※所属・役職は記事公開当時のものです。
ウェルビーイングテクノロジーは、日本が直面する超高齢化社会が抱えるいくつかの問題解決のサポートを行います。
「心の健康」「身体の健康」「社会的つながり」「経済の状態」の4領域で利用が期待され、高度なデータ分析や自動化などの手段を通じて、個々のウェルビーイングをサポートすることが可能になるでしょう。