化学企業がデジタル化にフォーカスする理由とは

化学企業がデジタル化にフォーカスする理由とは


大手化学企業は、事業の成長とサステナビリティ目標を達成するために、デジタル化を加速させています。


要点

  • デジタル化は化学企業の主要な課題のうち、2番目に重要な課題になっており、65%が事業に大きな影響を与えると予想している。
  • 企業は、業務のデジタル化の加速に伴い、デジタルセキュリティの取り組みを強化している。
  • 化学企業の4割のCEOが、自社のサステナビリティ目標の達成に向けて、デジタル化に注力している。


EY Japanの視点

これまで日本の化学産業におけるデジタル化は、業務効率化の観点が強く、研究開発などにデジタルを積極的に活用してきた欧米各国に後れを取ってきました。

しかし、持続可能な成長と収益性の向上に加え、記事でも述べている昨今の不確実な状況下におけるリスク低減の需要が、デジタル化を加速させています。かつてない変化のリスクを商機に変えるための取り組みとしても、デジタル化は生き残りをかけて各社待ったなしの状況です。

日本でも、化学企業におけるデジタル人材の採用や育成は重要な経営戦略の1つとなっています。実際に、デジタル化による各分野の連携構築によって課題を見える化したことで、課題解決までの時間は大きく短縮しています。また、研究員の経験や勘を頼りに進めてきた素材の開発も、開発プロセスのデジタル化によって短期間かつ低コスト化を可能にしました。

DXの活用により顧客価値を高めることで、中国をはじめとする海外諸国とのコスト競争に巻き込まれない高付加価値製品を、よりスピーディーに提供することに、日本の化学産業は活路を見いだしています。


EY Japanの窓口

金澤 聡
EY Japan 製造業・化学セクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

成長と効率性向上のためにデジタル化に投資するか否かは、今や化学企業にとっては修辞的な質問に過ぎません。研究開発(R&D)に始まり顧客の特定および価値提供に至るまで、デジタル技術はバリューチェーンに不可欠な要素になっています。グローバルな業界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの余波から脱するのと軌を一にして、化学企業は業務のデジタル化への投資を加速させてきました。

デジタル化が企業に与える影響
パンデミック後にデジタル化を加速させた企業の割合
EY DigiChem SurvEY 2022による。

化学業界では、デジタル化がかつてないほど求められている

EY CEO Outlook Survey 2022によると、デジタルトランスフォーメーションは、全世界の化学企業の主要な課題のうち、2番目に重要な課題になっています。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックと地政学的な問題を契機とする最近の不確実な状況が、サプライチェーンの制約と原料費・人件費の高騰を招き、化学企業の成長と収益性を抑制する要因となっています。また、このような状況を受け、化学企業はあらゆる業務領域においてデジタル化を加速させています。過去3年間にデジタル化によりディスラプティブ(破壊的)な、あるいは革新的な影響があったと回答した化学企業は40%超に上ります。

デジタル化プロジェクトの実施状況

65%を超える化学企業が、デジタル化がより革新的・破壊的な影響を自社の事業に与えると予想しているように、このようなデジタル化の進行は続くとみられています。


デジタル化は、部門横断的に進める必要がある

事業運営や顧客対応のためのオンラインモデルの必要性が増す中、化学業界では2020年以降、管理機能と顧客関係のデジタル化が最も進展してきました。また、自動化された化学合成などの技術を通じて、新製品・新サービスの開発におけるデジタルツールの活用が進むことが予想されます。実際、化学企業の80%がデジタルツールの活用を積極化すると回答しています。


1. 強靭なサプライチェーン構築を支えるデジタル化

今般の地政学的混乱と燃料価格の変動に伴うサプライチェーンの制約は、世界の化学業界にとって重要な課題となっています。この不確実な状況を考慮すると、サプライチェーンは、デジタル化から大きなメリットを得られる重要な領域であることに変わりありません。回答者の60%近くが、過去3年間にデジタル化がサプライチェーン計画に大きな影響を与えたと述べており、3分の2以上が、今後3年間も同様の影響が続くと考えています。サプライチェーンネットワークをさらに強靭化する必要性が増す中、化学企業は、需要予測、原材料の供給源までの履歴確認、注文のリアルタイム追跡、倉庫や港湾での分類・保管の自動化、供給ネットワークの最適化などに対するデジタルツールの活用に価値を見いだしています。

デジタル化が事業運営上の競争力に与える影響

2. セキュリティ向上のためのデジタル化

企業が業務のデジタル化を進めるのに伴い、事業に対するサイバー犯罪のリスクが避けられない懸念事項になります。その結果、デジタル面のセキュリティやサイバーセキュリティが、化学企業各社がデジタル化を最大限に推し進める際の関心事の1つになっています。これは特に、巨大な生産工場を有する基礎化学企業および石油化学企業に当てはまります。

化学企業は、堅固なデジタルビジネスの展開を目指す

多様なテクノロジーにより、研究開発からバリューチェーンの終端であるカスタマーサービスやカスタマーサポートに至るまで、化学企業の業務領域全体にわたり効率性が向上しています。このダイナミックな環境下では、どのテクノロジーが選択され、どのように活用されるかは、各組織の差し迫ったニーズと優先度に左右されることになります。2020年の調査では、化学企業が意図していた活用目的はデータ分析の改善と統合(42%)に集中していましたが、2022年には分散が進み、データ分析は35%に減少し、デジタルセキュリティが30%に増加しました(2020年には26%)。ただし、減少はしたものの、データ分析の改善(35%)と統合(30%)は化学企業にとって高い可能性を秘めた領域です。これに続くのが、デジタルセキュリティ(30%)です。この背景には、化学企業が直面する、機密データの侵害にとどまらず業務停止さえ引き起こしかねないデータ窃盗やマルウェアなどの問題の増加があります。

化学業界のデジタル化実現を推進する要因と阻む要因

インダストリー4.0の当初、コスト削減はデジタル化の主要メリットの1つとして認識されていました。しかし、化学企業はさらに歩みを進め、コスト削減だけでなくeネットワーキング(53%)と顧客志向の価値提供(51%)についても、デジタル化の恩恵を受けています。これらは、難局にあってレジリエントな(回復力のある)事業を展開するために不可欠な要素です。

化学企業が自社の事業に適したデジタルソリューションを得るための取り組みを拡大するのに伴い、新しい課題が浮上します。2020年には、適格な人材の不足が調査回答者の47%にとって重要な課題でした。しかし今回の調査では、この問題を挙げたのは3分の1強でした。現在、企業が直面している課題は、強固な技術インフラの構築(40%)、投資要件の充足(38%)、安全なシステムの開発(38%)などです。

デジタル化に対する3つの大きな障壁


適格なデジタル人材の不足に直面している化学企業は、2020年の47%に対し、37%に過ぎません。



サステナビリティのためのデジタル化 — 今後の展望

顧客の嗜好が変化し、規制が厳格化する中、よりサステナブルなビジネスへの移行は、化学企業にとって不可欠です。EY CEO Outlook Surveyによると、化学企業の80%以上が、収益成長と同程度に、環境・社会・ガバナンス(ESG)とサステナビリティを重視しています。このような時代には、デジタル化は大きな恩恵をもたらす可能性がある他、サステナビリティ追求を後押しする支えにもなり得ます。

サステナビリティ目標の取り組み改善のために技術とデジタル化を活用する可能性のある企業の割合
EY DigiChem SurvEY 2022によると
を超える回答者が、サステナビリティの取り組みにより中程度から高度の排出量削減が可能になると予想しています。

化学企業をはじめとする製造企業は、既にデジタルツイン、モノのインターネット(IoT)、自動化などの技術を活用し、資源とエネルギーの消費量を削減しています。これを可能にしているのは、データ収集のインフラと、生産や排出を制御する機器です。

デジタル化とサステナビリティが企業にとって重要な優先課題であることは明らかであり、CEOはサステナビリティ目標の迅速な達成を目指し、デジタル化を推進しています。

化学企業は、どの地域やセグメントに属しているとしても、サステナビリティのニーズの進化を受けて、最終顧客、インフラの利用可能性、人材プールを踏まえ、デジタル化戦略をさらに明確にする必要があります。

DigiChem SurvEY 2022

デジタル化は化学業界にとって重要な要因です。適切に進めれば、長期的価値の創出を実現できるでしょう。


サマリー

サプライチェーンの制約とインフレ率の上昇を受け、化学企業のデジタル化導入が加速しています。デジタル化は、コスト削減、eネットワーキング、顧客志向の価値提供などのメリットを化学業界にもたらすだけではなく、長期的なサステナビリティ目標の達成にも役立つことが明らかになっています。


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