ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説

ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説


関連トピック

ステーブルコインに関する政令・内閣府令等の草案が2022年12月に公開されました。法規制の概要とそのポイントを解説します。


要点
  • 2022年6月に公布された改正法により2023年春ごろにステーブルコインの取引が認められるようになった。
  • 改正法、政令案・内閣府令案・監督指針案等が公表され、「電子決済手段」の定義、発行者と仲介者の規制が明確になった。
  • こうした動向を受け、会計・税務にも動向があった。

法定通貨と価値の連動等を目指す「ステーブルコイン」の法規制の整備がわが国で進められています。2022年6月、第208回通常国会にて安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(以下、「改正資金決済法」)等が可決された後、同年12月に政令・内閣府令案等が公表されました。2023年春ごろには施行されるステーブルコインに係る法規制の概要を以下で触れていきます。


1. 法制化の経緯

既に米国等で拡大しているステーブルコイン取引について、日本での法規制が明確でないことを受け、金融審議会等でその取り扱いが議論されていました。2022年1月11日に公表された「資金決済ワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」1)では、ステーブルコインを①法定通貨と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(デジタルマネー類似型)と、②それ以外のもの(暗号資産型)に分類したうえ、①の規制のあり方に絞り言及されています。

改正資金決済法では、デジタルマネー類似型ステーブルコインは「電子決済手段」と定義され、発行者と仲介者が分離する形態も想定されたものとなっています(下図参照)。

図:安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料

出典:金融庁「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」www.fsa.go.jp/common/diet/208/03/setsumei.pdf(2023年2月21日アクセス)


2. 改正法、政省令等の概要

i. ステーブルコインの分類と今回の法規制の対象範囲

① 電子決済手段の分類
改正資金決済法では、電子決済手段を次の4種類に区分しています2

区分

対象となる電子決済手段の概要

1号

物品購入や役務提供等の対価弁済に使用でき、かつ不特定の者を相手に購入・売買できる財産的価値

2号

1号と相互交換できる財産的価値

3号

特定信託受益権

4号

上記に準ずるもの(金融庁長官が別途定めるもの)

1号電子決済手段は、電子機器等に電子的方法により記録されている通貨建資産であり、電子情報処理組織を用いて移転可能なものが要件となっています。また、有価証券、電子記録債権、前払式手段等に該当しないものとされています。
一方、取引時確認をした者にのみ移転可能とする技術的措置が講じられ、かつ移転の都度発行者の承諾等が必要となるものは、電子決済手段に該当しません3。また、前払式支払手段であっても、残高譲渡型や番号通知型等の移転の都度発行者の承諾等が必要になるものは電子決済手段に該当しません4
3号電子決済手段とは電子情報処理組織で移転できる金銭信託受益権であり、預金や貯金により信託財産の全部が管理されていることが要件となっています5

ii. 発行者に対する主な規制上の留意事項

電子決済手段を発行・償還する行為は基本的に為替取引に該当6するため、発行者には銀行免許または資金移動業登録が求められます。また、特定信託受益権の発行者を「特定信託会社」と定義し、銀行免許未取得でも信託会社がこれを営むことを可能としました7

資金移動業者と特定信託会社が発行者となる場合の主な規制上の留意事項を以下に記載します。

① 資金移動業者が発行者となる場合

  1. 滞留規制/移転上限
    資金移動業者である発行者には、為替取引に用いられることのない利用者の資金を保有しないための措置として、資金移動業者と同等の送金上限規制や滞留規制が適用されます。発行者以外が電子決済手段の仲介(移転・管理等)を行う場合、仲介者にも発行者と同等の送金上限額や滞留規制が適用されることに留意が必要です8

  2. 不適切な電子決済手段を発行しないための措置
    発行者には、不適切な電子決済手段を発行しないための措置として、次の事項への留意が求められます9

    ・発行する電子決済手段の権利移転時期やその手続の明示と態勢整備
    ・利用者の権利保護措置(発行者・仲介者の破綻時や技術的不具合(サイバー攻撃や事務処理ミス)等発生時の取引解除・取消し、損失補てん等)
    ・電子決済手段の償還請求が適切に行われる態勢整備

  3. 利用者保護のための情報提供
    資金移動業者である発行者には、銀行等が行う為替取引との誤認防止措置として、利用者に対して、発行者が①電子決済手段保有者に対する償還義務を負っている旨、②利用者の資金を保全している旨を説明する必要があります10

  4. AML/CFT11
    資金移動業者がパーミッションレス型12のブロックチェーンにて電子決済手段を発行する場合、自らが管理しないウォレットへの電子決済手段の移転・償還を停止するための態勢を講じる必要があります13

② 特定信託会社が発行者となる場合

  1. 送金上限規制
    特定信託会社には第二種資金移動業者と同様の送金上限規制が適用されますが、業務実施計画の認可を受けることにより1件あたり100万円を超える特定信託為替取引が可能となります14

  2. 償還請求
    特定信託受益権の受益者から契約期間中に償還請求された場合、遅滞なく請求に応じる必要がありますが、特定信託会社が特定信託受益権の履行等金額と同額で買い取る対応も認められています15

iii. 仲介者に対する規制の概要

仲介業には、「電子決済手段等取引業」、特定信託受益権のみを扱う「特定資金移動業」、銀行からの委託に基づく「電子決済等取扱業」があります。

① 電子決済手段等取引業
改正資金決済法では、「電子決済手段等取引業」を次の4種類に区分しています16

区分

対象となる業の概要

1号

電子決済手段の売買、他の電子決済手段との交換

2号

1号行為の媒介、取次ぎ、代理

3号

他人のための電子決済手段の管理

4号

資金移動業者から受託し、利用者に対し電子情報処理組織を用いて次のいずれかを行うこと

  • 移動させた資金額相当の為替取引債務に係る債権額の減少
  • 為替取引により受領した資金額相当の為替取引債務に係る債権額の増加

電子決済手段等取引業者は登録制となっており、次のような業規制が課されます。

  • 情報の安全管理
  • 委託先に対する指導
  • 利用者保護に関する措置
  • 金銭預託の禁止
  • 利用者財産の分別管理
  • 発行者等との契約締結義務

政省令案やガイドライン案にて明確になった、電子決済手段等取引業者に求められる主な留意事項として次のようなものがあります。

  1. 金銭預託の禁止17
    電子決済手段等取引業者は、利用者からの金銭預託が禁止されています。ただし、利用者から預託を受けた金銭を、信託会社等への金銭信託(利用者区分管理金銭信託)により自己の固有財産と区分して管理する場合は適用除外となります。

  2. 分別管理18
    電子決済手段等取引業者は、利用者から預託を受けた電子決済手段(預託電子決済手段)を自己持分と区分して信託会社等へ信託する等、分別管理が求められます。なお、財務局長等の承認を得た場合に限り、預託電子決済手段を自己信託として管理することが可能となります。
    また、利用者の電子決済手段が利用者に帰属することが明らかな場合は、信託することなく分別管理することが可能となります。

  3. AML/CFT19
    顧客から依頼を受けて電子決済手段等取引業者間で電子決済手段を移転する場合、送信元事業者にはトラベルルール(顧客及び受取顧客に係る本人特定事項の法定通知義務)が課せられます。一方、トラベルルールの対象外となるアンホステッド・ウォレット等20は、マネー・ロンダリング等のリスクが一般的に高まると考えられるため、仮に移転先のアンホステッド・ウォレット等の情報から疑わしい取引と判断した場合に、利用者に電子決済手段を移転させない等の態勢整備が電子決済手段等取引業者に求められます。

  4. 外国電子決済手段の対応
    外国電子決済手段を取り扱う場合、当該国で日本の銀行免許または資金移動業登録と同等の行政措置を受けている等の要件を満たしているもののみ取り扱う等の措置が電子決済手段等取引業者には求められます。
    また、発行者による債務履行が困難となった場合等に備え、仲介する電子決済手段等取引業者が債務履行額と同額で買い取ることを利用者に約束し、買い取り資産を保全することが必要です。加えて、利用者の外国電子決済手段の移転上限は1回当たり100万円以下、利用者の外国電子決済手段を管理する額は1人当たり100万円以下に制限されます。

② 特定資金移動業
改正資金決済法では、特定信託為替取引のみを業として営む「特定資金移動業」を定義し、特定信託会社がこれを営むことが可能としています。特定資金移動業には資金移動業者とみなした規定が適用されます21

③ 電子決済等取扱業
改正銀行法では、次の行為を「電子決済等取扱業」と定義しています22

区分

対象となる業の概要

1号

銀行から受託し、預金者に対し電子情報処理組織を用いて次のいずれかを行うこと

  • 移動させた口座資金額相当の預金債権額の減少
  • 為替取引により受領した資金額相当の預金債権額の増加

2号

1号行為のための契約締結の媒介

電子決済等取扱業者は登録制となっており、次のような業規制が課されます。

  • 情報の安全管理
  • 顧客に対する説明
  • 金銭等の預託の禁止
  • 委託銀行との契約締結義務

3. その他の動向

i. 会計、税務の対応

会計の観点では、企業会計基準委員会にて2022年8月に電子決済手段の発行・保有等に係る会計上の取扱いに関するプロジェクトが立ち上がり、検討が進められています。

税制の観点では、2022年12月16日に公表された令和5年税制改正大綱23において、3号電子決済手段である特定信託受益権を税法上の有価証券の範囲から除外する等の措置がとられました。
 

ii. 継続的な論点

「WG報告」では、基本的に現行制度を前提に検討を行ってきたため、今後のサービス提供状況等を踏まえ引き続き検討すべき論点が残るとしています。特に銀行が発行者となる場合の預金保険制度のあり方については、金融システムの安定確保・預金者保護の観点とモラルハザードの観点を踏まえ検討が必要になることが指摘されています24


4. おわりに

ステーブルコインが電子決済手段として定義され、業規制が課されることにより、利用者が安心してサービスを利用できる土壌が整備されました。ステーブルコインはデジタルトークンでの決済サービスの発展に寄与するものと期待されています。大きなビジネス機会になると同時に、参入企業にとっては規制の内容を理解し態勢整備を進めることが肝要となります。


脚注

  1. 金融審議会「資金決済ワーキング・グループ 報告」www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111/houkoku.pdf(2023年2月21日アクセス)
  2. 改正資金決済法(資金決済に関する法律) 2条 5項
  3. 電子決済手段等取引業者関係事務ガイドライン案 Ⅰ―1-1-② 注1
  4. 前払式支払手段に関する内閣府令 1条 3項 4号、電子決済手段等取引業者関係事務ガイドライン案 Ⅰ―1-1-② 注2
  5. 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令 3条
  6. 資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅳー2
  7. 改正資金決済法 2条 27項
  8. 改正資金決済法 30条の2 2項、資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅳ-2
  9. 改正資金決済法 31条 5項、資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅱ-2-2-1-1-(9)
  10. 資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅱ-2-2-1-1-(2)
  11. マネー・ロンダリング対策およびテロ資金供与対策
  12. 分散台帳は、ネットワークへの参加に制約のないパーミッションレス型の台帳と、ネットワークへの参加に管理者による許可を要するパーミッション型の台帳とに大別される
  13. 資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅱ-2-1-2-1-(5)
  14. 改正資金決済法 37条の2 2項、資金決済法施行令案 12条の4、資金移動業関係事務ガイドライン案 Ⅵ-1
  15. 改正資金決済法 37条の2 4項、資金移動業内閣府令案 3条の7
  16. 改正資金決済法 2条 10項
  17. 改正資金決済法 62条の13、資金移動業内閣府令案 33条 1項 1号
  18. 改正資金決済法 62条の14、資金移動業内閣府令案 38条
  19. 電子決済手段等取引業者関係事務ガイドライン案 Ⅱ―2-1-2-2ー(10)、(11)
  20. 他の電子決済手段等取引業者等が管理していないウォレット等
  21. 改正資金決済法 37条 2項
  22. 改正銀行法 2条 17項
  23. 財務省「令和5年度税制改正の大綱」www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/20221223taikou.pdf(2023年2月21日アクセス)
  24. 「WG報告」第2章 1-(8)-②

サマリー 

2022年6月に公布された改正法により「電子決済手段」と定義されたデジタルマネー類似型ステーブルコインの取引が2023年春ごろから認められるようになります。
12月には政令案・内閣府令案・監督指針案等が公表され、その発行者と仲介者の定義や業務範囲が明確になりました。
これを受け会計・税務にも動向があります。


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