英国政府、炭素国境調整メカニズム(UK CBAM)の採択を発表

  • 英国政府は、2027年までに独自に炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入することを確認した。
  • 英国版CBAMの対象は、アルミニウム、セメント、セラミックス、肥料、ガラス、水素、鉄および鉄鋼セクターからの輸入品に含まれる炭素排出量である。
  • 2024年に英国版のCBAMにおける制度設計と運用メカニズムに関するコンサルテーションが行われる予定であるが、一部の重要な詳細情報はすでに確認が可能である。


2023年12月18日、英国政府は、カーボンリーケージリスクへの対策に関するコンサルテーションに応え、2027年までに英国版炭素国境調整メカニズム(以下、「UK CBAM」)を導入すると発表しました

2023年3月から6月にかけて、英国政府は「脱炭素化に向けたカーボンリーケージリスクへの対策」に関するコンサルテーションを行い、英国産業におけるカーボンリーケージリスクの特性および範囲、ならびに当該リスクに対する政策の枠組みや影響について意見公募を行いました。本コンサルテーションの概要については、2023年4月18日付EY Japan税務ニュース「英国、炭素国境調整メカニズム(CBAM)その他の諸措置に関するコンサルテーションを開始」をご参照ください。

2027年までにUK CBAMを導入するにあたり、英国政府はその制度設計や運用メカニズムに関するさらなるコンサルテーションを2024年に行うとしています。他方で、以下に示すように、当該メカニズムがどのように構築されるかについては、一部の重要な詳細が公表されています。

UK CBAMの機能性

UK CBAMはEU CBAMと同様に、炭素排出の集約度が高い輸入品に対し、これらの製品による炭素排出量に基づいた関税を適用します。UK CBAMは関税指向的な制度であり、対象となる製品の輸入者が納税義務を負います。

UK CBAMがEU CBAMと明確に異なる重要な要素の1つとしては、排出証書の不採用が挙げられます。EU CBAMでは輸入者にCBAM証書の購入と償却を義務付けていますが、英国政府はUK CBAMの制度において証書を採用しない方針であるようです。

導入のタイミング

英国政府は、UK CBAMを2027年までに導入することを約束しています。他方で、現時点においては、移行期間や段階的な導入の可能性といった詳細は明らかにされていません。なお、EU CBAMは現在、2026年1月1日からの本格的な適用開始に向けた移行期間中となっています。

対象セクター

UK CBAMの対象と想定されるセクターおよび対象品目は、EU CBAMと比較して若干の差異があります。

いずれのCBAMにおいても、鉄鋼、アルミニウム、セメント、水素、肥料をCBAMの対象としていますが、UK CBAMにおいてはセラミックスおよびガラスも対象に含まれる予定となっています。このようなUK CBAM独自の対象品目の追加がある一方で、UK CBAMが電力を対象品目から除外する見込みであることは特筆すべき点といえます。

これらのセクターおよび品目において対象となる具体的な製品は、確定版の対象製品リストが公開されるまで不明ですが、英国政府は英国の排出量取引制度(以下、「UK ETS」)と「照応する範囲」を目指すと考えられます。

対象となる排出量

UK CBAMは、輸入品におけるスコープ1、スコープ2、および特定の前駆体材料の排出量に適用されます。EU CBAMと同様に、UK CBAMであっても初期段階におけるスコープ3の排出量は適用除外になります。

英国以外の国・地域における炭素価格との調整

EU CBAMに準じて、UK CBAMにおいても英国以外の国・地域で明示的な炭素価格が設定されている場合には、それを考慮して炭素価格が調整されます。その一方で、EU CBAMと同様に、当該制度下で調整が認められる炭素価格の詳細は現時点では不明となっています。

英国ETSとの調整

UK CBAMは、UK ETSに連動して適用されます。2023年12月18日には、英国ETS当局が、UK ETSの改善方法について意見を募集する2件のコンサルテーションを発表しました。そのうち1件はUK ETSにおける排出枠の無償割当に焦点を当てており、これはUK CBAMコストに関して直接影響を与える議論になると考えられます。EU CBAMと同様に、UK CBAM下で経済的な影響を及ぼす措置の導入は、UK ETSにおける無償排出枠の見直しと足並みを揃えて実施されると予測されます。

企業に求められる対応

UK CBAMの詳細はいまだ確定しておらず、2024年にさらなるコンサルテーションが行われる予定です。しかし、企業はEU CBAMの備えから得られた教訓を活かし、以下のようなステップを開始することができます。

  • UK CBAMへの準備を実施および管理するために、法務担当者との協議を行い、本件に係る内部担当者を割り当てる。
  • UK CBAMおよび関連措置について、英国政府の示す方針に調和するような戦略を策定する。その一環として、影響を受ける企業は、自社ビジネスにおける優先事項を特定し、今後実施されるコンサルテーションに注意を払う。
  • 本件に関する法整備の動向を引き続きモニタリングし評価する。現行のUK ETSにおける無償割当に関するに関するコンサルテーションやUK CBAMに関する今後のコンサルテーションへの対応を検討する。
  • EU CBAMに係る準備を完了している、または現在準備中である場合には、両制度間でのデータ収集および報告プロセスを調整するオプションを検討する。加えて、今後導入が予想される他の持続可能性に関する報告措置(森林破壊の防止、人権とサプライチェーンに係るデューデリジェンス等)に係る対応を検討する。

お問い合わせ先

email EY税理士法人

岡田 力 パートナー

上田 理恵子 パートナー

中村 健 アソシエートパートナー


Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo

Richard Johnston アソシエートパートナー

Rebecca McKavanagh シニアマネージャー


Ernst & Young LLP (United Kingdom), London

Jo Stobbs パートナー

小林 仁紀 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです

メールで受け取る

メールマガジンで最新情報をご覧ください。

登録する