ルーマニア、国別報告書の開示義務を2023年1月1日から早期適用

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  • ルーマニア政府は、欧州連合(EU)の国別報告書(CbCR)開示指令を実施するための法案を2022年9月7日に官報に掲載しました。
  • EU加盟国は2023年6月22日までに同指令を国内法に導入し、遅くとも2024年6月22日以降に開始する年度を最初の報告年度とする必要がありますが、ルーマニアは2023年1月1日に規則が発効するため、より早い適用日を選択したことになります。
  • ルーマニアでの規則の早期発効(2023年1月1日)により、CbCR開示の義務は少なくとも1年、多くの場合2年早まることになります。
  • 日本企業においても、ルーマニア国内に中規模以上の子会社もしくは支店を有している場合には、ルーマニアにおける開示義務を負うことになります。
  • ルーマニア以外にもドイツ、ハンガリー、オランダにおいても法案が発表されており、日本企業においても、国別報告書の開示義務の適用を受けるか否かを注視し、対象となる場合には、開示に向けた情報の収集整備のみならず、税務ポジションの把握や定性的な説明の必要性など開示戦略を検討する必要があります。

エグゼクティブサマリー

ルーマニア政府は、2022年9月7日、EU CbCR開示指令を実施する法律を官報に掲載しました。EU加盟国は2023年6月22日までにEU CbCR開示指令を国内法に導入しなければならず、遅くとも2024年6月22日以降に始まる年度が最初の報告年度となりますが、ルーマニアではより早く2023年1月1日に規則が適用されます。したがって、ルーマニアに本社を置く企業グループおよびルーマニアで重要な事業を行うEU域外の企業グループは、2023年1月1日以降に開始する会計年度から規則の適用を受ける可能性があります。

EU CbCR開示指令(詳細は2022年1月5日付EY Japan税務アラート「国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令が2021年12月21日に発効へ~EUに子会社を保有する日本企業グループもCbCR開示の対象に~」をご参照ください)に従い、ルーマニアの法律は、ルーマニアを本拠とする多国籍企業(以下、「MNE」)および支店または子会社を通じてルーマニアで事業を行うEU域外のMNEの双方に対し、直近する2会計年度のそれぞれにおいて、総連結売上高が37億ライ(約7億5千万ユーロ)を超える場合、納税額、国ごとの利益、売上高、従業員の内訳など、その他の税情報を公開することを義務づけています。しかし、ルーマニアは、対象となるグループに対し、特定の条件を満たした場合、商業上の機密情報の開示を最長5年間延期することを認めました。さらに、ルーマニアは、関連する商工会議所のウェブサイトでCbCRを無料で公開することを条件に、企業のウェブサイトでの公開義務を免除しています。

詳細

背景

2021年12月1日、EU CbCR開示指令(本指令)がEU官報に掲載 (pdf)されました。2021年12月21日に発効した本指令の具体的なスケジュールは以下のとおりです。

  • EU加盟国は本指令を2023年6月22日までに国内法化する必要があります。
  • 税情報を報告する最初の会計年度は、遅くとも2024年6月22日以降に開始する年度とされているので、EU加盟国は規則をより早く適用することも可能です。
  • 報告期限は、当該会計年度の貸借対照表日から12カ月です。

ルーマニアは、規則の早期適用を正式に選択した最初のEU加盟国となり、税情報を報告する初年度は2023年1月1日以降に始まる年度となります1。会計年度の貸借対照表日から12カ月以内に税情報を公開しなければなりません(2023年12月31日に終わる会計年度の場合、遅くとも2024年12月31日まで)。

ルーマニア国内法における一般規則

全般として、ルーマニアの国内法は、EU CbCR開示指令の一般規則を遵守しています。

しかし、ルーマニアはいわゆる「セーフガード条項」を利用し、商業上の機密情報の開示を一定条件の下、最長5年間延期することを認めています。機密情報とは、公表された場合、報告書に関連するMNEの商業的立場を著しく損なうような情報を指すと理解されています。報告書の記載を省略する場合は、正当な理由を報告書に記載する必要があります。

ルーマニアはまた、関連する商工会議所のウェブサイトでCbCRを無料で公開することを条件に、企業のウェブサイトでの公開義務を免除することとしています。

さらに、ルーマニアの法令によれば、ルーマニアに中規模または大規模の子会社を持つMNEグループは、それらがEU域外に本社を置くグループかEU域内に本社を置くグループかにかかわらず、ルーマニアでのCbCR開示の対象となります。これは、本指令に関する範囲の拡大を意味します。しかしながら、この拡大された範囲は、今後の法改正を通じて修正されると見込まれています。

報告義務者
  • ルーマニアを拠点とする(本社を置く)MNEで、直近2会計年度のいずれにおいても連結総売上高(全世界)が37億ライ(約7億5千万ユーロ)を超え、複数の国・地域で活動している者
  • ルーマニアを拠点としないMNEで、直近2会計年度のいずれにおいても連結総収入が37億レイ(約7億5千万ユーロ)を超え、以下を有する者。(i) ルーマニアの「国内法が適用される」中規模または大規模な子会社、または(ii)ルーマニアの適格な支店2
  • ルーマニアに設立された金融機関は、指令2013/36/EUに基づき、すでにCbCRの公表が義務付けられています。これらがCbCR開示の範囲に該当するMNEである場合、報告は免除されます。
報告事項
  • 開示すべき情報には、以下のものが含まれます。
    • 最終的な親会社または単体企業の名称、当該会計年度、使用通貨
    • 活動内容
    • 従業員数
    • 総売上高
    • 税引前利益
    • 当該国の当期利益に起因する当該国の税額
    • 当該年度の実際納税額
    • 利益剰余金
  • このような情報は、下記の国地域について個別に開示されることとなっています。
    • EU加盟全27カ国
    • 税務上非協力的な国・地域に関するEU理事会結論文書付属書I(EUブラックリスト)に、報告対象会計年度の3月1日時点で含まれるすべての国・地域
    • 税務上非協力的な国・地域に関するEU理事会結論文書付属書II(EUグレーリスト)に、報告対象会計年度およびその前会計年度の3月1日時点で含まれるすべての国・地域
  • それ以外の国・地域については、集約されたデータを開示するだけで十分とされます。
  • 情報は、テンプレートおよび共通の電子報告フォーマットを用いて報告する必要があります。
  • 指令2011/16/EUの付属書III第III部BおよびCの規定を導入した現地法に規定される報告指示に基づき、情報を報告することができます。
報告書の公表

報告書は、以下において公表されなければなりません。(i)該当する加盟国の公的登録簿、(ii)企業の無料のウェブサイトで最低連続5年間、または現地商工会議所のウェブサイト(無料で利用できる場合)

公表の時期

貸借対照表日から12カ月以内に公表し、5年間利用できるようにする必要があります。

延期

ルーマニアでは、情報の開示がその企業グループの商業的立場を著しく害する場合、1つまたは複数の特定の項目を省略することができます。報告書の記載を省略する場合は、正当な理由の説明とともに、報告書に明確に記載しなければなりません。

省略された情報は、最初に省略された日から5年以内に、後の報告書で公表する必要があります。

EUの非協力的な国・地域リストに記載される国・地域に関する情報を開示しないことは認められていません。

ペナルティ

ルーマニアの法律では、現在、コンプライアンス違反に対する具体的な罰則は導入されていません。具体的な立法手続きを経て、ルーマニアの会計法の改正により、罰則が導入されると見込まれています。

監査要件

監査済み財務諸表の作成が義務付けられている(EUに拠点を置く)事業者の法定監査人は、事業者が所得税情報についての報告書を公表する必要があったかどうか、また、必要があった場合には、その報告書が公表されていたかどうかを監査報告書に記載しなければなりません。

監査は、報告書の公表についての事実確認を行うだけで、その内容についての確認はできません。

今後の影響

個々の加盟国による指令の実施時期は、当該加盟国に本社を置くMNEグループや、当該加盟国で重要な事業を行うEU域外のMNEにとって特に重要です。なぜなら、MNEにとって、最初の公表日は最終親会社や関連するグループ企業の所在地によって異なるからです。

ルーマニアでの規則の早期発効(2023年1月1日)により、CbCR開示義務は少なくとも1年、多くの場合2年早まることになります。この結果、ルーマニアを拠点とするMNEやEU域外のMNEがルーマニアでビジネスを行う際に、さまざまな疑問や潜在的な困難が生じることになります。企業は、ルーマニアの法律が自社の事業に与える影響を評価して最初の報告開示の準備を行うこと、そしてより広範な税情報開示戦略を検討することが必要です。

ルーマニアに加え、ドイツ、ハンガリー、オランダも最近法案を発表したため、企業は他の加盟国による指令の国内法への導入状況を注意深く見守る必要があります。

巻末注

  1. オランダ政府は、現行の民法における財務報告規則の要件に関する法案を議会に提出しました。法案では、早期適用、すなわち2024年1月1日以降に開始する会計年度からの適用が提案されています。
  2. 子会社は、貸借対照表日において、以下の3つの基準のうち2つを超える場合、ルーマニアの会計規則に従い「中規模」または「大規模」企業に分類されることになります。(a)総資産:17,500,000レイ、(b)純売上高:35,000,000レイ、(c)会計年度の平均従業員数:50人

支店は、以下の基準を満たす場合にのみ、CbCR開示規則の適用を受けるものとされます。

(a)支店を開設した企業が、最終親会社がEU加盟国の法律に準拠していないグループの関連企業であり、貸借対照表日における連結売上高が、直近の連続する2会計年度のそれぞれについて37億レイ超であること、または、支店を開設した企業が、自律した企業であり、貸借対照表日における純売上高が、直近の連続する2会計年度のそれぞれについて、37億レイを超えること

(b)(a)で言及された最終親会社が中規模または大規模な子会社を有していないこと

このような支店に報告義務が適用されるのは、ルーマニアの支店が報告した売上高が、直近の連続する2会計年度のそれぞれについて35百万レイを超える場合に限られます。

お問い合わせ先

nobuhiro.tsunoda@jp.ey.com 角田伸広 パートナー

ichiro.suto@jp.ey.com 須藤 一郎 パートナー

koichi.sekiya@jp.ey.com 関谷 浩一 パートナー

hideki.ohori@jp.ey.com 大堀 秀樹 ディレクター

joris.van.huijstee@jp.ey.com Joris van Huijstee シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです

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