EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
世界中の大学が、国際的なパンデミックの影響から抜け出せずにいます。また、キャンパスでの授業が再開されても以前の形には戻らないことを、大学上層部は受け入れなくてはなりません。メディア、小売、エネルギーの各セクターで大手企業を揺るがしているようなビジネス改革が、高等教育の現場にも急速に迫っています。
人口構成の変化、地政学的課題、職場におけるニーズの変化、質の高いデジタル体験を求める学生からの期待などのうねりが高まり、津波のように押し寄せています。こうした状況が、業界の新たな現実に適応できない大学の存続を脅かしています。
高等教育は極めて閉鎖的な世界であり、変革を必要としています。
デジタル化によって大規模なイノベーションの準備が整いつつあります。「場所を問わない働き方」が普及した世界では「場所を問わない学習」も求められ、このニーズに応えて新たな教育プラットフォームが登場しています。
高等教育には次の対立があります。
これまで高等教育で革命的変化が起こることはほとんどありませんでした。どちらの見解も高等教育の現状の一端を表していますが、革命派の意見が優勢だと私たちは考えています。
多くの大学が淘汰されるリスクに直面すると同時に、急激なテクノロジーの変化についていけなくなるでしょう。
Edmund Wong
Managing Analyst, China, Research Institute | Global Markets – EY Knowledge
大学は自己改革を行わなければなりません。しかし、組織は今日の思い込みにとらわれており、改革には困難が伴います。EYでは、高等教育の新たな未来において大学が果たす役割を、大学上層部が確かなビジョンとして示すことができるよう思考実験を行い、テクノロジーの融合、人口構成の変化、新たなビジネスモデルがどのようにセクター構造を変化させるのか考察しました。
本レポートは、EYの挑戦的な考えに加え、先進国と新興国、公立と私立、由緒ある学部と現代的な学部など、幅広い大学のリーダーを対象に、デジタル化が進む中で教育セクターが直面している問題を理解するために行ったインタビューに基づいています。
第1章
これまで想像していなかった未来をあえて考えてみてください。
次の思考実験から、現在の常識にとらわれず、あなたの大学にはどんな未来が訪れるのか考えてみてください。各シナリオと、それらが教育セクターに及ぼす可能性がある影響について、詳しくはレポートをダウンロードしてください。
2030年には学習や学位の取得が、2021年のショッピングやバンキングのように手軽で、極めて低コストでできるようになっていると仮定しましょう。学生はオンライン学習の「アカウント」にアクセスし、最良の教育機関が提供するコースモジュールや学位取得プログラム全体を世界中のどこにいても自分のペースで修了できます。ハイブリッド型の学習形式でオンラインと対面の長所を生かし、個人のニーズに合わせることが可能になります。
若者世代はオンライン学習を受け入れやすく、また選べるなら複数の形式を選択するでしょう。実際のところ、授業の60%をオンラインで、20%を対面で、20%をインターンシップなどの体験型で受けることなどがあり得ます。
2030年の教育コンテンツの利用方法が、2021年にSpotifyで音楽を聴くのと同様になると仮定しましょう。画面にタッチするだけで世界有数の事業者の学習コンテンツカタログにアクセスできます。アルゴリズムによって関心のあるテーマを掘り下げたり、人工知能(AI)を活用して現在の知識レベルや学習傾向、希望するキャリアや学習目標に合った学習活動を行ったりすることができます。
何が大学の特色と言えるのか、考える必要があります。オンライン学習を提供している場合、ほぼ無限に拡張できますが、顧客の方でも最良の機関を選ぶ自由があります。そのため、本当に優れた特色あるサービスを提供しなくてはなりません。
2030年の知識への投資は、2021年にETF(上場投資信託)に投資するくらいの手軽さであると仮定しましょう。個人専用のキャリアプラットフォームにあるプログラムはすべて、学習プロバイダーが公表する学習の提供内容(インプット)とその成果に基づいて個別に格付けされます。インプットには教師と生徒の比率、授業の量・特性・品質のほか、評価方法が含まれます。成果は学力や獲得スキルだけでなく、卒業後の雇用や予想収入にも及びます。
今こそ、学生と大学の間で明瞭かつ適切な契約を結ぶときではないでしょうか。例えば私なら、大学にセミナーの規模を開示させ、契約でそれを守らせます。
2030年には、商業化された研究による収益で十分に研究費を賄えるようになったと仮定しましょう。大学はどの研究が商業化に適しているかをよく理解しており、民間資本を利用したり、ベンチャースタジオが推進する豊かなイノベーションエコシステムに参加したりできるようになります。政府の助成金は、民間企業だけでは立ち向かえないような大きな社会課題の解決や、国家の競争力を高める基礎研究に支給されます。
(審議中の)「エンドレスフロンティア法」は、米国国立科学財団(NSF)の規模を大幅に拡大してまったく新しい理事会を設け、NSFで初めて橋渡し研究に焦点を当てるものです。
国連の持続可能な開発目標のうち、教育と健康の2つは、テクノロジーを創造的に展開できれば少しは目標に近づけるでしょう。可能性という点では、私たちは誰とでもつながることができます。少なくとも、大半の人が携帯電話を持っているのですから。
2030年には、ルアンダ(アンゴラ)の工学系の優秀な大学院生が、故郷を離れることなく、専攻分野の著名なリーダーから最良かつ最先端の教育を受けられると仮定しましょう。自らアクセスするリモート学習に加え、ときどき地元のキャンパスに出向いて、米国にいる教授からビデオ通信による講師主導の授業を受けたり、キャンパスの実験室を使って補完することもできます。授業料は地元の大学と同程度ですが、国際的に通用する有名かつ人気のある履修証明を取得できます。
第2章
来るべき将来に備え、思考実験を繰り返す
誰もが改革に挑むべきだと私は思いますが、改革を進められる人はそう多くありません。この業界は、改革のリーダーシップと戦略的に物事を進める能力が欠けているのです。
大学が知識サービスセクターで生き残り、成功を収めるには、S字カーブを飛躍させ、自己改革する必要があります。つまり成熟段階から成長段階に移行するのです。
大学が生き延びるために必要な速さと規模で改革を進めるには、未来のありたい姿から現在を逆算的に展望するバックキャスティング・アプローチを取る必要があります。起こり得そうな未来のシナリオを描き、それに立ち向かうのであれば、事業モデルをどのように根本的に改革して競争力を保てばいいのかを考えるのです。
その未来はあなたが考えるよりも近くまで来ています。重要な存在であり続けるためには、大学は自己改革を行わなければなりません。手遅れにならないよう、今すぐ変わり始める必要があります。
私たちの生活の質は、過去の世代の研究と学習のたまものです。歴史上の今この瞬間に、人類と地球に将来必要となる技術・科学・文化の進歩を実現するため、教育研究機関は何を求められているのでしょうか。
大学は、学位とマイクロクレデンシャル、知力と仕事に直結するスキル、同期型と非同期型の学習に、オンラインやハイブリッドでの提供モデルを通じて対応し、未来に向けて改革を始めなければなりません。シナリオプランニングはバックキャスティング・アプローチの土台となり、高等教育の新時代のビジョンを描く上で役立つでしょう。