サステナビリティに関する情報開示の拡充

2023年3月13日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

開示府令の公布

令和5年1月31日付で「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下、「開示府令」)が公布されました。昨年6月に公表された金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループが取りまとめた報告書(以下、「DWG報告」)の提言を踏まえ、非財務情報開示の充実が図られるものです。

具体的には、有価証券報告書に「サステナビリティ情報の記載欄」が新設されました。また、人的資本・多様性の開示として、「人材育成方針・社内環境整備方針」、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」が記載内容に追加されました。さらに、コーポレートガバナンスに関する開示の拡充等の改正も行われています。

改正後の規定は公布日から施行され、有価証券報告書の記載内容に係る改正は、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。

サステナビリティに関する考え方および取組の開示

サステナビリティ情報については、国際的な議論を踏まえると、以下の情報が含まれると「記述情報の開示に関する原則」(以下、「開示原則」)において例示されています。気候変動に関する開示が望まれてはいますが、現時点では必須項目とはされておらず、あくまでも各企業の判断に委ねられています。

環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項

開示が求められるサステナビリティ情報については、上記のすべての項目を記載する必要はなく、各企業が重要性を判断してテーマを選定して開示します。各企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報の重要性を判断することが求められます。

有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方および取組」の記載欄が新設され、「ガバナンス」および「リスク管理」の項目は全企業が対象、「戦略」および「指標および目標」の項目は重要性に応じて記載するものとされました。

「ガバナンス」および「リスク管理」は、企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、すべての企業が開示することが求められます。そして、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要と判断したサステナビリティ項目については、「戦略」および「指標および目標」の開示も求められることとなります。

気候変動関連の情報についても、サステナビリティ情報の一つとして、上記のような枠組みで、その開示の要否が判断されることになります(『「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方』(以下、「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No113からNo114)。

現時点においてはわが国における開示基準は定められていないところ、「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」や開示原則、記述情報の開示の好事例集等を参考に各企業の取組状況に応じて記載していくことが考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No142からNo144)。

新設された記載欄には、連結会社(連結財務諸表を作成していない場合には提出会社)の事業年度末(有価証券届出書においては、最近日現在)における「サステナビリティに関する考え方および取組」の状況について、以下を記載します。

サステナビリティ情報の記載欄の内容

項目 記載内容 対象
ガバナンス サステナビリティ関連のリスクと機会を監視・管理するためのガバナンスの過程、統制、手続 全企業
リスク管理 サステナビリティ関連のリスクと機会を識別、評価、管理するための過程 全企業
戦略 短期、中期、長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスクと機会に対処するための取組み 重要なものを記載
指標および目標 サステナビリティ関連のリスクと機会に関する連結会社の実績を長期的に評価、管理、監視するために用いられる情報 重要なものを記載

「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標および目標」の4つの構成要素に基づく開示が必要ですが、具体的な記載方法については詳細に規定しておらず、現時点では、構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられます。ただし、記載に当たっては、投資家が理解しやすいよう、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることも有用であると考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No83からNo87)。

「ガバナンス」および「リスク管理」は、企業が自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、全企業が記載する事項とされています。また、「戦略」および「指標および目標」は開示が望ましいものの、企業が「ガバナンス」「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示する。仮に、重要性を判断した上で記載しないとした場合でも、その判断やその根拠の開示を行うことが期待されています。

また、国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載することが望ましいとされています。

サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できることとされます。例えば、「女性管理職比率」等を従業員の状況に記載している場合は、その旨を記載することで足ります。

人的資本に関する開示

1. 人材育成方針等の開示

以上説明したように、「戦略」「指標および目標」は重要性に応じて記載するとしているものの、人的資本(人材の多様性を含む)に関する以下の内容の記載は必須となる点に留意が必要です。

新設される記載欄における人的資本の開示

項目 記載内容
戦略 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針と社内環境整備に関する方針
(例:人材の採用・維持、従業員の安全・健康に関する方針等)
指標および目標 「戦略」で記載した方針に関する指標の内容、その指標を用いた目標、実績

記載上の注意(30-2)において、「連結会社のサステナビリティに関する考え方及び取組の状況」と規定されているように、基本的には、連結会社ベースの指標および目標を開示することが想定されています。もっとも、例えば、人材育成等について、連結グループの主要な事業を営む会社において、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組みが行われているが、必ずしも連結グループに属するすべての会社では行われてはいない等、連結グループにおける記載が困難である場合には、その旨を記載した上で、例えば、連結グループにおける主要な事業を営む会社単体(主要な事業を営む会社が複数ある場合にはそれぞれ)またはこれらを含む一定のグループ単位の指標および指標の開示を行うことも考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No166からNo167)。
 

2.「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」の開示

有価証券報告書の提出会社および連結子会社それぞれが、女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」を公表している場合には、これらの指標を【従業員の状況】に記載する必要があります(※1)

なお、有価証券報告書等の「従業員の状況」欄には、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率等は有価証券報告書等の「その他の参考情報」に記載することが可能であることが、開示府令において明確化されました。

女性管理職比率等に関する計算方法や定義については、企業負担や情報利用者への統一的な情報提供の観点から、女性活躍推進法等の定めに従うこととされています。これに加え、任意で自社の定義等の追加的な情報を記載することも可能とされます。

女性管理職比率については、常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の会社が女性活躍推進法20条2項および女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令20条1項の規定に基づき公表している場合も、有価証券報告書の開示対象に含まれる点に留意する必要があります(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No35、No36、No37)。要するに、従業員が300人以下の場合であっても、女性活躍推進法等に基づく公表義務(努力義務規定に基づく公表は含まない)がある場合には、女性管理職比率等の開示が必要となります。

女性活躍推進法等の公表義務の対象とならない海外子会社については、有価証券報告書等においても、その女性管理職比率等の記載を省略することができます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No3)。

なお、これらの指標を記載するに当たって、定量的な指標の開示を投資家が適切に理解できるようにするため任意で追加的な情報を記載することが可能であること(※2)が明確化されました。

※1 提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、当該公表が行われる前であっても、有価証券報告書等において開示が求められます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No7からNo10)。また、投資者に理解しやすいよう、企業の判断により、女性管理職比率等の数値の基準日や対象期間を記載することも考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No11)。

※2 女性管理職比率等(女性管理職比率、男性の育児休業取得率および男女間賃金格差)の理解に資するように、補足的な情報として、数値の前提となった自社の雇用に関する定めについて説明を記載することも考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No3)。

開示原則に示された考え方

開示原則では、DWG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組みが取りまとめられています。

主な内容は、以下のとおりです。

  • 「戦略」と「指標および目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
  • 気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標および目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1・Scope2のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること(※3)

※3 投資家の投資判断にとって有用である連結ベースでの開示に努めるべきである一方、女性活躍推進法等では個社の数値が求められていることから、個社としてのデータも有用であるとの意見もある。また、連結ベースでの開示を求めることについては、海外子会社を有する場合における企業負担や情報の有用性の観点も考慮する必要がある。これらを踏まえ、今回は、プリンシプルベースのガイダンスである開示原則において、連結ベースの開示に努めるべきである旨が明記されている(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No13からNo17)。

女性管理職比率等については、連結ベースの開示は義務ではなく、努力対応事項となります。そのため、連結ベースで開示する場合には、例えば、有価証券報告書における他の記載事項(経営方針等)と同様に、連結財務諸表規則2条5号に規定されている「連結会社」ベースで開示するほか、企業において、投資家に有用な情報を提供する観点から提出会社グループのうち、より適切な範囲を開示対象とすることも考えられます。なお、企業において独自の範囲を開示対象とする場合には、当該グループの範囲を明記することが重要です(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No43からNo50)。

 サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しているとしています。重要性の考え方についても、今後の国内外の動向をウォッチしていく必要があると思われます。

コーポレートガバナンスに関する開示

取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性(デュアルレポーティング(※4)の有無等)および政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要について、記載が求められます。

「企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもの」の活動状況を記載する必要がある一方において、「指名委員会等設置会社における指名委員会または報酬委員会に相当する任意の委員会」以外については記載の省略が可能であるとされています。

なお、DWG報告の提言のうち、「重要な契約」の開示については、引き続き具体的な検討が必要なため、別途改正を行うとされています。

※4 デュアルレポーティングとは、内部監査部門が、取締役会および監査役会に直接報告する仕組みのことです。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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