公認会計士 太田 達也
遊休資産の減価償却に係る会計と税務の取扱い
特定の事業を廃止または休止するなどにより、事業の用に供されていない資産が生じるケースがみられます。事業の用に供されていない資産のことを、以下「遊休資産」といいます。遊休資産に係る会計および税務の取扱いが異なることにより、申告調整や税効果会計の問題が生じる点に留意する必要があります。
会計上は、遊休資産であっても、減価償却を行う必要があります(減損会計適用指針56項、138項)。自然減耗、経済的陳腐化による減価が生じていると考えられるからです。
一方、税務上、事業の用に供されていない資産については、原則として、償却費の損金算入は認められません(法令13条かっこ書)。ただし、税務上、休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼働し得る状態にあるものは減価償却資産として取り扱われます(法基通7-1-3)。これを「稼働休止資産」といいます。逆に、いつでも稼働し得る状態になっていないものは、税務上、減価償却資産として取り扱われず、償却費の損金算入は認められないことになります。
遊休資産に係る申告調整
遊休資産であって、かつ、税務上の稼働休止資産(法基通7-1-3)に該当しないものについては、会計上は減価償却費を計上しますが、税務上は損金不算入となりますので、申告調整が必要になります。具体的には、会計上計上した減価償却費を自己否認しますので、別表4上で「償却超過額」として加算(留保)します。別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」に増加が入り、期末金額に調整が残ります。併せて、別表16(1)または別表16(2)の明細書上で償却超過額の欄に数字を記載し、翌期に繰り越します。
設例 遊休資産に係る申告調整
前提条件
当社の事業所の閉鎖に伴い、機械装置A(定率法適用資産)が不稼働になりました。再稼働の見通しもなく、いつでも稼働し得る状態にもなっていません。
会計上の減価償却費を自己否認するものとして、申告調整方法を示してください。
解答
以下の各別表に、次のように記載します。なお、別表16(2)の記載については、償却超過額に関連のある部分のみ示し、他の欄の記載は省略するものとします。
別表四 所得の金額の計算に関する明細書
別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
別表十六(二)
なお、翌期以降について、通常であれば前期から繰り越された償却超過額は「償却費として損金経理した金額」として取り扱われますから、償却限度額相当額については認容されますが、翌期以降も遊休状態であり、稼働休止資産にも該当しない場合は、償却限度額はゼロということになり、税務上の認容はありません。
税効果会計の処理
先の設例における別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」の期末金額の800は、翌期以降の別表4上の減算により解消される予定のものですので、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。繰延税金資産の回収可能性を判断する必要がありますが、スケジューリング可能であるかどうかが重要なポイントになります。
翌期以降の事業計画において、当該資産を使用する計画があり、その計画に実現可能性が高いと判断される場合は、事業の用に供された事業年度以後の各事業年度において償却超過額の認容が発生すると見込まれますので、スケジューリングにおいてその点を考慮して繰延税金資産の回収可能性を判断することが考えられます。
一方、翌期以降の使用計画がなく、再稼働が見込まれない場合は、償却超過額が翌期以降のいずれの事業年度でいくら認容されるかの見込みが立たないことになりますから、スケジューリング不能な将来減算一時差異に当たると考えられます。
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