公認会計士 太田 達也
「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の改正内容
平成30年2月16日付で、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、「回収可能性適用指針」といいます)の一部改正が公表されました。改正後の回収可能性適用指針第18項は、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」とされ、「原則として、」が追加されました。
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。適用初年度において、改正後の回収可能性適用指針第18 項を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われます(回収可能性適用指針第49-3項)。
分類1の企業において、繰延税金資産を計上できないケース
完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについて、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していない場合に、どのように取り扱うかが論点となります。
この点については、「当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していない場合であっても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、本適用指針第 3 項(3)に定める一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものに含め、一時差異(将来減算一時差異)に該当するものと整理することとした。」とされています(回収可能性適用指針67-3項)。
完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられるとの考え方に基づいて、分類1であっても、繰延税金資産の回収可能性はないと判断することを明らかにするために、「原則として、」という文言を追加したものと説明されています(回収可能性適用指針67-4項)。
具体例
以下、具体例に基づいて、説明します。
設例:完全支配関係がある子会社の清算結了と税効果との関係
<前提条件>
親会社P社が保有する子会社株式であるS社株式について、S社の資産状態の悪化に伴い、X1期に減損処理を行いました。帳簿価額2,000をゼロまで減損処理しましたが、税務上の損金算入要件を満たしていないものと判断し、別表4で加算調整をしました。P社とS社との間には、完全支配関係があります。
X1期においては、S社の解散は予定されていません。業績の回復に向けて経営努力を行う方針でした。しかし、その後においても、S社の業績の回復は見込めないことから、X3期にS社の解散を決定しました。P社は、S社の清算結了まで、S社株式を保有し続ける方針です。X3期に、S社は残余財産の確定に至り、清算結了しました。残余財産はなかったものとします。
P社のX1期およびX3期の会計処理および税務処理(別表の記載を含む)を示してください。なお、P社は、回収可能性適用指針における分類1の会社であり、法定実効税率を30%とします。
<解答>
1. X1期
(1) 会計処理
S社の解散は予定されていません。繰延税金資産を計上します。
(2) 税務処理
仕訳なし
税務上は、損金不算入と判断されましたので、税務上の帳簿価額は2,000のままです。
(3) 別表の記載
会計上の子会社株式評価損を自己否認します。別表5(1)上の子会社株式に係る調整は、子会社株式に係る会計上の帳簿価額(ゼロ)と税務上の帳簿価額(2,000)との差異を表します。この差異は、将来減算一時差異に該当します。なお、繰延税金資産および法人税等調整額に係る申告調整は、捨象しています(以下同様)。
別表4 所得の金額の計算に関する明細書
別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
2. X3期
(1) 会計処理
S社の解散を決定し、かつ、P社はS社の清算結了までS社株式を保有し続ける方針ですので、繰延税金資産を取り崩します。
(2) 税務処理
税務上は、子会社株式の消却損の損金算入は認められず(法令61条の2第17項)、子会社株式の帳簿価額相当額について、資本金等の額の減算として処理します(法令8条1項22号)。
(3) 別表の記載
会計上の損益および税務上の所得に影響はありませんので、別表4の記載はありません。
別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
会計上は、X1期に減損しており利益剰余金が減少していますが、税務上はX3期の残余財産の確定に伴い資本等取引として資本金等の額の減少として処理します。結果として、「利益積立金額の計算に関する明細書」と「資本金等の額の計算に関する明細書」にプラス・マイナス2,000の調整が残ります。この差異は、会計と税務のルールの差異に基づくものであり、永久に解消されない差異ですので、税効果会計の対象にはなりません。
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