公認会計士 太田 達也
消費税法の改正
従来、課税売上割合が95%以上の課税事業者については、消費税の課税仕入れ等に対する消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除できるものとされていました。これは、特例的な取扱いであったと考えることができます。
平成23年6月30日に公布された消費税法の改正によれば、平成24年4月1日以後に開始する課税期間から、課税売上高が5億円を超える事業者はこの95%ルールの適用対象外とされたため、課税仕入れ等に対する消費税額の全額の仕入税額控除は認められず、「個別対応方式」または「一括比例配分方式」のいずれかの方法で仕入税額控除額の計算をすることとなったことは周知のとおりです。
この改正により、課税仕入れ等に対する消費税額のうち一部控除できない消費税額が生じるため、仕入税額控除額が従来よりも少なくなります。この控除できない消費税額のことを「控除対象外消費税額」といいます。
控除対象外消費税額の会計処理
この控除対象外消費税額については、法人税法上、経費に係るものは全額損金算入することができます。また、固定資産に係るものは、その事業年度の課税売上割合が80%以上であるときは、損金経理を行うことを要件として、損金算入することができるものとされています。従って、固定資産に係る控除対象外消費税額について損金算入を行うためには、会計上、決算時に控除対象外消費税等の部分について仮払消費税等から租税公課(消費税等)に振り替える必要が生じます。
決算スケジュールから確定額を損金経理できない場合
上場会社及びその連結子会社等においては、決算スケジュールが非常にタイトであり、連結決算発表のスケジュール上、決算数字を固める時期が通常の会社よりもかなり早いタイミングになります。
控除対象外消費税額を算出するためには、当該事業年度の課税売上割合を算出する必要がありますが、このようなタイトなスケジュールであることから、課税売上割合を算出できないタイミングで決算数値を固めなければならないケースが多いようです。そこで、前事業年度の課税売上割合などを用いて、見積額により控除対象外消費税額について租税公課に計上する処理をしている場合が少なくないようです。誤謬に該当しない実績が翌期に確定した際、見積差額との差額は租税公課として計上されることになります。
以下、損金経理額(見積額)が確定額を上回るケースと、逆に損金経理額(見積額)が確定額を下回るケースに分けて、それぞれの具体的な処理を解説します。
損金経理額(見積額)>確定額の場合
損金経理額が確定額を上回る超過額については損金算入されないため、別表4で加算(留保)の調整を行う必要があります。仮に超過額が500であったとします。
別表4 所得の金額の計算に関する明細書
別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
翌期に貸借対照表に計上されている未払消費税等(見積差額)を減額するとともに、租税公課(貸方)を計上します。この貸方計上額は、別表4で減算します。従って、翌期の所得の金額には影響させないことになります。
なお、損金経理した事業年度における別表5(1)の差引翌期首現在利益積立金額500は、税効果会計における将来減算一時差異に該当し、それが翌期に解消されていることを意味しています。
別表4 所得の金額の計算に関する明細書
別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
損金経理額(見積額)<確定額の場合
以下、資産に係る控除対象外消費税等を前提とした処理を説明します。
資産に係る控除対象外消費税等については、損金経理要件が付されています。損金経理額(見積額)と確定額との差額について損金経理していないため、当然に別表4上の減算による損金算入は認められません。別表4の調整は行わず、貸借対照表に計上されていない未払消費税等と繰延消費税額等について別表5(1)に計上する処理を行います。
別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
翌期において、貸借対照表の計上不足の未払消費税等を増額するとともに、相手勘定として租税公課を計上します。
この租税公課500は、当期の損金にはなりませんので、別表4で加算(留保)します。
一方、租税公課として追加計上した500は、消費税法上は繰延消費税額等として認識し、60カ月で損金算入していくことになります(法人税法施行令139条の4)。
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