EY新日本有限責任監査法人 大山文隆
1. はじめに
我が国においては、役員等へのインセンティブ(以下、「インセンティブ報酬」という。)について様々な制度が採用されています。当解説シリーズではインセンティブ報酬に関する会計基準等や会計処理について実務において必要と思われるポイントを中心に解説していきます。
2. インセンティブ報酬に関する最近の動向
2015年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」では、我が国企業が国際的に競争力を発揮していくためのコーポレート・ガバナンス強化(改革)の一つの施策として、中長期的に企業価値を向上させることを目的とした役員等に対するインセンティブの付与に言及しています。それを受け、2015年7月には経済産業省から『コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会』報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」が公表され、既に欧米各国において導入されている新たな株式報酬を導入するための法的な論点が整理されています。また、法律面での整理とともに、インセンティブ報酬の導入を促進するための税務上の手当てが進められてきました。
これらの動きを受け、日本公認会計士協会(会計制度委員会)は2019年5月27日付で会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(以下、「研究報告第15号」という。)を公表しています。
また、2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、会社法第202条の2において、上場企業が、取締役および指名委員会等設置会社における執行役の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに規定されました。これにより、より円滑に株式を報酬等として取締役等に交付することができるようになりました。
これを受けて、企業会計基準委員会(ASBJ)は実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下、「実務対応報告第41号」という。)を公表しています。
上記の実務対応報告第41号以外に、インセンティブ報酬に関連して従前から参照されている会計基準等は以下が挙げられます。
- ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)
- ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号)
- 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い(実務対応報告第30号)
- 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(実務対応報告第36号)
3. 実務対応報告第41号の適用範囲
実務対応報告第41号が適用されるのは、会社法第202条の2に基づき取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする取引です。このため、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引については実務対応報告第41号を適用できない点に留意が必要です。
4. スキーム別の解説シリーズの紹介
インセンティブ報酬の一般的なスキームと関連する解説シリーズは以下のとおりです。
スキーム |
解説 |
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1.株式報酬型ストック・オプション |
解説シリーズ「ストック・オプション」 |
2.権利確定条件付き有償新株予約権 |
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3.事前交付型譲渡制限付株式 |
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4.初年度発行型パフォーマンス・シェア |
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5.業績連動発行型パフォーマンス・シェア | |
6.役員向け株式交付信託 |
この記事に関連するテーマ別一覧
インセンティブ報酬
- インセンティブ報酬 第1回:総論 (2024.03.28)
- インセンティブ報酬 第2回:事前交付型 (2024.03.28)
- インセンティブ報酬 第3回:事後交付型 (2024.03.28)
- インセンティブ報酬 第4回:役員向け株式交付信託 (2024.03.28)