EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
3. ストック・オプション数の算定方法
(1) ストック・オプションの付与数の算定方法の原則
付与されたストック・オプション数から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定します(会計基準第7項(1))。
(2) ストック・オプションの付与数の見直しが必要な場合
付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効(勤務条件や業績条件が達成されないことによる失効)の見積数に重要な変動が生じた場合(条件変更による場合を除く)には、これに応じてストック・オプション数を見直す必要があります。
これに伴い、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに費用計上した額との差額を見直した期の損益として計上します(会計基準第7項(2))。
(3) 権利確定日における会計処理
権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(権利確定数)と一致させます。すなわち、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上します(会計基準第7項(3))。
(ストック・オプション数(C)の算定方法)
時 期 | 算定方法 | |||
1) | 付与時 | ⇒ | 1) | 付与数から権利不確定による失効の見積数を控除して算定する。 |
2) | 失効の見積数に重要な変更が生じた時 | ⇒ | 2) | 失効の見積数を変更して、ストック・オプション数を見直す(要費用計上額の差額を損益処理する)。 |
3) | 権利確定日 | ⇒ | 3) | ストック・オプション数を権利確定数と一致させる(要費用計上額の差額を損益処理する)。 |
4. ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定
(1) 業務執行や労働サービスとの対応関係の認定における基本的な考え方
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定することとされています(会計基準第5項)。
すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになります。対象勤務期間の終了時点となる権利確定日については、権利確定条件により以下のとおり判定されます(適用指針第17項、第18項)。
(権利確定日の判定)
権利確定条件の内容 | 権利確定日の判定 | |||
1) | 勤務条件が付されている場合 | ⇒ | 1) | 勤務条件を満たし権利が確定する日 |
2) | 勤務条件は明示されていないが、次の要件を共に満たす場合には、実質的に勤務条件が付されているものと見なす。
|
⇒ | 2) | 権利行使期間の開始日の前日 |
3) | 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合 | ⇒ | 3) | 権利確定日として合理的に予測される日(ただし、予測が困難な場合には付与日に一時に費用計上) |
4) | 権利確定条件が付されていない場合 | ⇒ | 4) | 付与日にすでに権利が確定しているため、付与時に一時に費用計上 |
(2) 複数の権利確定条件が付されている場合の権利確定日の判定
複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は次のように判定します(適用指針第19項)。
(複数の権利確定条件が付されている場合の権利確定日の判定)
権利確定条件の内容 | 権利確定日の判定 | |||
1) | 複数の権利確定条件のうち、いずれか一つを満たせばストック・オプションの権利が確定する場合 | ⇒ | 1) | 最も早期に達成される条件が満たされる日 |
2) | 複数の権利確定条件のすべてを満たさなければストック・オプションの権利が確定しない場合 | ⇒ | 2) | 達成に最も長期を要する条件が満たされる日 |
3) | 上記1)と2)のケースが混在している場合 | ⇒ | 3) | 上記1)と2)を組み合わせて判定 |
※なお、株価条件など、条件の達成に要する期間が固定的でなく、権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件が付されているため、予測を行わない場合については、当該権利確定条件は付されていないと見なして、この判定を行います。
(3) 段階的に権利行使が可能となるストック・オプションの会計処理
付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに段階的に権利行使が可能となる場合には、次のとおり会計処理を行います(適用指針第19項、第58項)。
原則 : 権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理を行う。
例外 : 付与された単位でまとめて会計処理を行うこともできる。この場合、最後に到来する権利行使期間開始日の前日までの期間にわたって費用計上する。
この記事に関連するテーマ別一覧
ストック・オプション
- 第1回:会社法における取扱いと会計基準の概要 (2019.06.28)
- 第2回:権利確定日以前の会計処理について(1) (2019.06.28)
- 第3回:権利確定日以前の会計処理について(2) (2019.06.28)
- 第4回:権利確定日以後の会計処理について (2019.06.28)
- 第5回:条件変更があった場合の会計処理 (2019.06.28)
- 第6回:未公開企業における取り扱い (2019.06.28)
- 第7回:親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合 (2019.06.28)
- 第8回:自社株式オプションまたは自社の株式を用いる取引 (2019.06.28)
- 第9回:開示 (2019.06.28)
- 第10回:有償ストック・オプション (2019.10.04)