収益認識 第1回:総論

2019年7月29日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介

1. はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識に関する会計基準及び収益認識に関する会計基準の適用指針を総称して「収益認識に関する会計基準等」という)が、企業会計基準委員会から2018年3月30日に公表されました。

我が国では、企業会計原則において実現主義が明記されていますが、これまで収益認識に関する包括的な会計基準はありませんでした。一方で、IFRSでは、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という)が適用されています。
そこで我が国においても、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から、収益認識に関する会計基準等が整備されました。

【略称】

収益認識に関する会計基準:基準
収益認識に関する会計基準の適用指針:適用指針

2. 基本的な考え方

(1) 国際的な比較可能性の確保

収益認識に関する包括的な会計基準の国際的な比較可能性を確保することが重要と考えられていますので、基本的にIFRS第15号の定めを取り入れた会計基準となっています。

(2) 代替的な取り扱い

従来の日本における会計慣行等にも配慮する必要があるため、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定めています。また、経営管理の観点や連結調整コスト等を勘案して、連結財務諸表と個別財務諸表で基本的に同一の会計処理が定められています。

3. 適用時期

収益認識に関する会計基準等の適用時期は以下のとおりです。

原則適用 2021年4月1日以後に開始する事業年度の期首から
早期適用 2018年4月1日以後に開始する事業年度の期首から
2018年12月31日に終了する年度から2019年3月30日に終了する年度までにおける、年度末の財務諸表からも可

原則適用は2021年4月1日以後に開始する事業年度の期首からとなりますが、収益認識に関する会計基準等の適用は、経営管理指標、システムや内部統制の対応、税務計算などに重要な影響を与える可能性があることから、収益認識に関する会計基準の適用にあたりさまざまな情報を収集して検討しなければなりません。従って、社内プロジェクトを立ち上げること等によって早めに準備を進めることが望まれます。

また、収益認識に関する会計基準等は連結財務諸表に対して適用となるため、連結上の重要性が高い決算期の異なる子会社については、親会社の適用時期に合わせて早期適用するかどうかの検討が必要となる点に留意が必要です。

4. 適用範囲

収益認識に関する会計基準等の適用範囲は以下のとおりです。

適用範囲 顧客との契約から生じる収益
適用範囲外 顧客との契約から生じる収益であっても以下は適用除外となる。
  • 金融商品会計基準の範囲に含まれる金融商品に係る取引
  • リース取引に関する会計基準の範囲に含まれるリース取引
  • 保険法に定められた保険契約
  • 顧客等への販売を容易するための同業他社との商製品の交換取引
  • 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
  • 不動産流動化に関する実務指針の対象となる不動産譲渡取引

ここで顧客とは、対価と交換に、企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために、当該企業と契約した当事者をいいます。
なお、収益認識に関する会計基準の適用に伴い、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」及び 実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」が廃止されました。

5. 基本原則

約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益の認識を行うことが基本原則となっています。
この基本原則に従って収益を認識するために、次の5ステップが適用されます。

収益認識の5ステップ

このステップを具体的な取引例にあてはめてみます。

<前提条件>

  • A社はB社と、商品Xの販売と2年間の保守サービスを提供する一つの契約を締結した。
  • ×1年期首に商品Xを引き渡し、×1年期首から×2年末まで保守サービスを実施する。
  • 契約書に記載された対価の額は12,000千円である。

(フロー図)

(フロー図)

A社が認識する収益金額は次のとおりとなります。

(1) ×1年度
×1年度には履行義務として商品Xの販売及び×1年分の保守サービスの提供が行われます。従って、商品Xの取引価格は10,000千円であり、1年分の保守サービスの取引価格は1,000千円であることから、×1年度には11,000千円の収益が計上されます。

(2) ×2年度
×2年度には履行義務として×2年分の保守サービスの提供が行われます。従って、1年分の保守サービスの取引価格は1,000千円であることから、×2年度には1,000千円の収益が計上されます。

以上をまとめると次のとおりとなります。

内容 ×1年度 ×2年度
商品Xの販売 10,000千円
保守サービスの提供 1,000千円 1,000千円
合計 11,000千円 1,000千円

6. 適用初年度の取扱い

(1) 原則的な取扱い

収益認識に関する会計基準等の適用初年度は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとされており、原則として、新たな会計方針を過去の全ての期間に遡及(そきゅう)適用するものとされています(基準第84項本文)。

この場合、適用初年度の比較情報等について、次の方法の一つ又は複数を適用することができます(基準第85項)。

① 適用初年度の前年度の期首より前にほとんどすべての収益を計上済みである契約について、適用初年度の比較情報を遡及的に修正しないこと

② 適用初年度の期首より前にほとんどすべての収益を計上済みである契約に変動対価が含まれる場合、当該変動対価に関する不確実性が解消された時の金額を用いて、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

③ 適用初年度の前年度内に開始して終了した契約について、適用初年度の前年度の四半期財務諸表を遡及的に修正しないこと

④ 適用初年度の前年度の期首より前に行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づいて一定の処理(※)を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

(2) 経過措置

原則的な取扱いの他、過去の累積的影響額を適用初年度の期首利益剰余金に加減し、期首残高から新たな会計方針を適用することも認められています(基準第84項ただし書き)。
この方法を採用した場合、適用初年度の期首より前にほとんどすべての収益を計上済みである契約について、新たな会計方針を遡及適用しないことができます(基準86項)。
また、契約変更について、以下のいずれかの方法を適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首利益剰余金に加減することができます(基準86項また書き)。

① 適用初年度の期首より前に行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づいて一定の処理(※)を行う方法

② 適用初年度の前年度の期首より前に行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づいて一定の処理(※)を行う方法

(※) 一定の処理とは以下の処理を行うことをいいます。

  • 履行義務の充足分と未充足分を区分する
  • 取引価格を算定する
  • 取引価格を履行義務の充足分と未充足分に配分する

次回以降の回で、各ステップの具体的な考え方について解説します。

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