「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」及び「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」について 第1回:収益認識に関する検討状況の背景

2011年6月24日
カテゴリー 解説シリーズ

ナレッジセンター 公認会計士 井澤依子

I. はじめに

平成20年12月に国際会計基準審議会(IASB)および米国財務会計基準審議会(FASB)から、ディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」(以下、DP)が公表されたことを契機として、企業会計基準委員会(ASBJ)では、平成21年9月に「収益認識に関する論点の整理」(以下、平成21年論点整理) を公表しました。

ASBJでは、平成21年論点整理に対して寄せられた意見を踏まえ、さらに平成22年6月にIASB及びFASBから公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下、ED)で提案されているモデル(以下、提案モデル)について包括的に検討を行いました。そこで今後のわが国の収益認識に関する会計基準の方向性を示した上で、広く関係者からの意見を募集することを目的として、平成23年1月に「顧客との契約から生じる収益に関する論点整理」(以下、本論点整理)を公表しました。

本稿では、本論点整理のうち、IASB及びFASBのEDにおいて提案されている収益認識  モデルの概要とASBJの見解を中心に解説するとともに、平成21年7月に日本公認会計士協会から公表された(平成21年12月に改正)、会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-」(以下、研究報告)についても解説します。

なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをお断りします。

【収益認識に係るこれまでの公表物】

【収益認識に係るこれまでの公表物】

※本稿の解説の対象は、「研究報告」と「本論点整理」(網掛部分)になります。

II. 背景(収益認識に関する検討状況)

1. IASBとFASBとの共同プロジェクトにおける検討状況

IASBとFASBは平成18年2月に合意した覚書(MOU)において、今後両者が共同で会計基準の開発を行うことによりコンバージェンスを進めることとしており、収益認識はMOU のアップデートで新たに共同で完成させるべきプロジェクトに含まれました。

収益は財務諸表における極めて重要な要素と考えられますが、国際財務報告基準(IFRS)および米国会計基準のそれぞれに問題点があり、共同プロジェクトにおいては、さまざまな取引に対して一貫して適用可能な単一の収益認識モデルを開発することを目的としています。

IASB及びFASBは平成20年12月にDPを公表した後、これに対して寄せられた意見を踏まえてさらなる検討を行い、平成22年6月にEDを公表しています(EDの詳細については「第75号2010年6月 IFRS outlook 増刊号」 をご参照ください)。また、EDについては平成22年10月22日までコメントを募集しており、その後、平成23年の年末までに新たな会計基準を公表する予定とされています。

【現行IFRS、米国会計基準の問題点と単一モデルの開発】

【現行IFRS、米国会計基準の問題点と単一モデルの開発】

2. わが国における検討状況

ASBJにおいては、このような国際的な流れを踏まえて、平成20年1月に収益認識専門委員会を設置し、IASB及びFASBのDP における提案モデルの検討を行い、提案モデルを紹介するとともに、これまでの収益認識専門委員会における議論を平成21年論点整理として公表しました。さらに、IASB及びFASBが平成22年6月にEDを公表したことを契機に、平成23年1月に再び本論点整理を公表しています。

一方、日本公認会計士協会からは、収益認識に関する個別論点を洗い出し、具体的な会計処理および開示全般についてIAS第18号(以下、IAS18)「収益」に照らした検討等を行ってきた成果として、平成21年7月に研究報告が公表されています(平成21年12月に改正)。当該研究報告の目的として、①わが国の実務においては依然として収益認識に関して不適切な会計処理がみられることから、実現主義の二つの要件(「財貨の移転又は役務の提供の完了」「対価の成立」)をより厳格に解釈した場合の考え方を示すこと、②IFRSの任意適用、強制適用の流れを受け、IAS18 を適用した場合の現時点の日本公認会計士協会の考え方を示すことが挙げられています。

III.本稿における解説内容

図表でまとめているとおり、日本公認会計士協会の研究報告ではわが国の基準・実務と現行IFRSであるIAS18との比較を行っており、ASBJの本論点整理では将来のIFRSとなる提案モデルの検討を行っています。

わが国では平成22年3月期から、一部企業についてIFRSの任意適用が認められたことから、任意適用を検討している会社にとってこの研究報告は非常に有用なものといえます。また、平成27年または平成28年から上場企業においてIFRSが強制適用される可能性があり、その場合は将来のIFRSが適用されることが想定されますが、EDにおいては、提案モデルを適用しても「契約によっては(例えば多くの小売取引)、本基準案が(たとえあるにしても)ほとんど現行の実務に影響を与えないものがある」としており、やはり研究報告が参考になるものと考えられます。

従って本稿においては、まず研究報告を基に、現行IFRS(IAS18)とわが国の取扱いの異同について解説した上で、次に将来のIFRSとなる提案モデルについて検討されている本論点整理について解説を行うこととします。

【本論点整理、研究報告の対象範囲】

【本論点整理、研究報告の対象範囲】

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