EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 中澤 範之
Question
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の温室効果ガス(以下「GHG」という。)排出量に関する開示状況を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2023年9月
- 調査対象期間:2023年3月31日
- 調査対象書類:有報
- 調査対象会社:以下の条件に該当する201社
①2023年4月1日現在、JPX400に採用されている
②3月31日決算である
③2023年6月30日までに有報を提出している
④日本基準を適用している
【調査結果】
調査対象会社(201社)を対象に、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」において、GHG排出量に言及しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表1>のとおりである。続いて、<図表2>において、有報においてGHG排出量を開示した101社を対象に、GHG排出量に集計されるグループ会社の範囲を調査した。そして、<図表3>においては、<図表2>と同じ101社を対象として、GHG排出量に関するScope及び開示された実績値の対象年度を調査した。
<図表1>のとおり、GHG排出量について開示している会社は101社(50.2%)、中長期目標のみを開示した会社は34社(16.9%)であった。なお、GHG排出量について、Science Based Targets(以下「SBT」という。)の認定を取得した旨を記載している会社は20社であり、SBT認定の取得を検討している旨やSBTに準じた目標を作成している旨等のSBTに言及している会社は18社であった。また、排出量の計算方法について、「GHGプロトコル」の基準等に従っている旨を記載している会社が12社であった。なお、SBT及びGHGプロトコルは、環境省が公開している資料の「SBT(Science Based Targets)について」、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法について」において、次の説明がされている。
SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことをいう。
GHGプロトコルは、1998年にWRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)によって共同設立され、政府、業界団体、NGO、企業、その他の組織と協力し、GHG排出量の算定と報告の基準を開発、提供している。
続いて、<図表2>のとおり、GHG排出量を有報に開示している101社について、GHG排出量に集計されるグループ会社の範囲を調査した結果、「グループ」と記載している会社は、41社(39.0%)であり最も多かった。次いで、「会社及び主要な子会社」を開示している会社は21社(20.0%)であり、具体的な子会社名、事業所名を記載している積極的な開示が見られた。
そして、<図表3>のとおり、<図表2>と同じ101社について、排出量に関するScopeを調査した結果、Scope1から3までを開示している会社は、53社(52.5%)であり最も多かった。開示した排出量の実績に関する対象年度は、2023年3月期決算が47社、2022年3月期決算が49社であり、会社数は近似した結果となった。なお、2022年3月期決算を対象とした会社のうち、2023年3月期決算はweb等にて開示する旨を説明した会社は15社あった。
<図表1>GHG排出量の開示状況の調査
開示状況 | 会社数 | 比率 |
有報において開示 | 101社 | 50.2% |
HP等においてのみ開示 | 27社 | 13.4% |
中長期目標のみ開示 | 34社 | 16.9% |
今後目標設定予定の旨の記載 | 7社 | 3.5% |
開示なし | 32社 | 15.9% |
合計 | 201社 | 100.0% |
<図表2>GHG排出量を有報で開示している会社の詳細調査
開示対象会社 | 会社数 | 比率 |
連結ベースである旨を明示 | 11社 | 10.5% |
「グループ」との記載 | 41社 | 39.0% |
「グループ」との記載(一部子会社除外) | 4社 | 3.8% |
会社及び主要子会社(注1) | 21社 | 20.0% |
会社及び子会社1社 | 1社 | 1.0% |
単体ベース(注2) | 9社 | 8.6% |
不明 | 18社 | 17.1% |
合計 | 105社 | 100.0% |
(注1)会社及び主要子会社には、対象の子会社及び事業所の名称を限定列挙した会社、対象を国内に限定した会社を含む。
(注2)連結、単体の両方を開示した会社4社は、連結単体とも1社として集計している。
<図表3>GHG排出量を有報で開示している会社のスコープ及び対象年度調査
開示のスコープ | 2023年3月期 | 2022年3月期 | その他(注) |
Scope1~3 | 24社 | 26社 | 3社 |
Scope1・2 | 18社 | 19社 | 1社 |
Scope1 | - | 1社 | - |
不明 | 5社 | 3社 | 1社 |
合計 | 47社 | 49社 | 5社 |
(注)その他は、2020年3月期実績を開示し2023年3月期は追ってweb開示とする会社、2023年3月期は概算とする会社等を含む。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年10月10日号 No.1690「2023年3月期有報におけるサステナビリティ情報の開示分析」を一部修正)
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