わかりやすい解説シリーズ「金融商品」 第3回:有価証券の減損

2012年10月22日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 伊藤 毅
公認会計士 友行貴久

1. 有価証券の減損の趣旨

【ポイント】
売買目的有価証券以外の有価証券であっても、価値が取得価額に比べて著しく下落している場合には、減損処理をして評価差額を損益計算書に計上するとともに、価値下落後の価額を貸借対照表に計上する必要があります。

有価証券は原則として保有目的に応じた評価をする必要があります。

売買目的有価証券は時価評価をして評価差額がその都度P/Lに計上されることになりますが、満期保有目的の債券、子会社・関連会社株式は時価評価せず取得価額で評価します。また、その他有価証券は期末に時価評価をするものの、その評価差額はB/Sの純資産の部に計上されます。

ただし、売買目的有価証券以外の有価証券であっても、価値が取得価額に比べて著しく下落している場合には、経済的な実態を財務諸表に反映する必要があります。

そこで、この場合には評価差額を損益計算書に計上するとともに、価値下落後の価額を貸借対照表に計上することになります。このような会計処理を「有価証券の減損」といいます。

図3-1
売買目的有価証券以外の有価証券

図3-1 売買目的有価証券以外の有価証券
  • 通常の時価評価と減損処理との比較

    対象となる有価証券 通常の時価評価 減損
    売買目的有価証券
    • 評価差額はP/L計上、翌期に洗い替えをする
    満期保有目的の債券
    • 評価差額はP/L計上、洗い替えはしない
    • 著しい下落が発生している場合は、時価の有無を問わず実施する
    子会社及び関連会社株式
    その他有価証券
    • 評価差額はB/S計上、翌期に洗い替えをする

なお、価値の著しい下落の判定は、対象となる銘柄に時価があるか否かにより異なります。

具体的な減損の判定方法と有価証券の保有目的との対応関係は図3-2のようになります。

図3-2

図3-2 具体的な減損の判定方法と有価証券の保有目的との対応関係

(※)売買目的有価証券は常に時価評価されるので減損の対象にはなりません。

対象となる有価証券 減損処理の内容
時価あり有価証券
(株式、債券)
時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理する。
時価なし有価証券
(株式)
発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理する。
時価なし有価証券
(債券)
償却原価法を適用した上で、債券の貸倒見積高の算定方法に準じて償還不能見積高を算定し、会計処理を行う。(※)

(※)債券の貸倒見積高の算定方法は「貸倒引当金」の回で解説します。

2. 時価のある有価証券

(1)減損処理の方法

【ポイント】
時価のある有価証券は時価が「著しく下落」したときに減損処理をする必要があります。 時価が著しく下落しているかどうかは、時価の下落率を①30%未満のケース②30%以上50%未満のケース③50%以上のケースに分けて判断することになります。

時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理するとともに、当該時価を以降の取得価額とします。

ここでいう著しい下落ですが、時価のある銘柄については、時価の下落の程度により価値の著しい下落が生じているか否かを判定することになります。

具体的には、まず期末時点の時価の下落率を下記の3種類に分けることになります。
①30%未満のケース
②30%以上50%未満のケース
③50%以上のケース

図3-3

図3-3 期末時点の時価の下落率

そして、それぞれのケースに応じて、図3-4のように減損の要否を判定します。

①30%未満のケース...減損処理は不要です。

②30%以上50%未満のケース...「各企業が設けた基準」により著しい下落と判定される場合、「回復可能性」がなければ減損処理をします。

③50%以上のケース...回復可能性がなければ減損処理をします。

図3-4

図3-4 減損の要否を判定

(2)回復可能性の判定

【ポイント】
時価のある有価証券の時価が著しく下落したとしても、「回復する見込みがあると認められる場合」には減損処理をする必要はありません。

時価のある有価証券について、時価が著しく下落したときであっても、必ずしも減損処理が必要になるわけではなく、回復する見込みがあると認められる場合には減損処理をする必要がありません。

これは株式の場合と債券の場合とで判断の方法が異なります。

①株式の場合

時価の下落が一時的なものであり、期末日後、概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのある場合は減損処理が不要となります。

図3-5
「回復する見込みがある」と認められるとき

図3-5  「回復する見込みがある」と認められるとき
  • 回復可能性があるとは認められないケース

    下記の場合には回復可能性があるとは認められません。

    • 株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合
    • 株式の発行会社が債務超過の状態にある場合
    • 2期連続で損失を計上しており、翌期も損失と予想される場合

②債券の場合

単に一般市場金利の大幅な上昇によって時価が著しく下落した場合でも、いずれ時価の下落が解消すると見込まれる場合は回復可能性があると認められます。

図3-6

図3-6 債券の場合
  • 回復可能性があるとは認められないケース

    下記のように、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落した場合には、回復可能性があるとは認められません。

    • 格付けの著しい低下があった場合
    • 債券の発行会社が債務超過や連続して赤字決算の状態にある場合

3. 時価のない株式

(1)減損処理の方法

【ポイント】
時価のない株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに減損処理をする必要があります。この場合の実質価額は、基本的に1株当たりの純資産額に持株数を掛けることで計算します。

時価を把握することが極めて困難と認められる株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理するとともに、当該実質価額を以降の取得価額とします。

なお、実質価額は発行会社の貸借対照表をベースにして、基本的に1株当たりの純資産額に持株数を掛けることで計算します。

減損の要否を判定するに当たり、まずは期末時点の実質価額の下落率を下記の2種類に分けることになります。
①50%未満のケース
②50%以上のケース

図3-7
時価のない株式のケース
(=時価を把握することが極めて困難と認められる株式)

図3-7 時価のない株式のケース

そして、それぞれのケースに応じて、下記の表のように減損の要否を判定します。

①50%未満のケース...減損処理は不要です

②50%以上のケース...回復可能性がなければ減損処理をします。

図3-8

図3-8 減損の要否を判定

(2)回復可能性の判定

【ポイント】
時価のない株式の実質価額が著しく下落したとしても、「回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合」には減損処理をする必要はありません。

時価のない株式の実質価額が著しく下落したときであっても、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において減損処理をしないことが認められます。

すなわち、投資先が子会社のように支配の及ぶような会社等であれば、将来の事業計画等を入手して、回復可能性を判断することが考えられるのです。

ただし、この場合であっても以下の点について留意する必要があります。

  • 事業計画等が実行可能で合理的なものであること
  • 概ね5年以内に回復すると見込まれていること
  • 回復可能性は毎期見直すことが必要であること

図3-9

図3-9 回復可能性の判定

なお、事業計画入手後の状況の変化により、実績が事業計画を下回った場合など、事業計画等に基づく業績回復が予定どおり進まないことが判明したときは、その期末時点において減損処理の要否を検討する必要があります。

図3-10
1期目と2期目で予算達成、3期目で予算未達、4期目と5期目で予算未達見込のケース(現在は3期目とする)

図3-10 1期目と2期目で予算達成、3期目で予算未達、4期目と5期目で予算未達見込のケース(現在は3期目とする)

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