EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 久保慎悟
1. 持分法の適用範囲
連結財務諸表上、関連会社及び非連結子会社に対する投資については、原則として持分法を適用します(持分法会計基準第6項)。関連会社及び非連結子会社とは、以下の企業をいいます。なお、企業とは、会社及び会社に準ずる事業体をいい、会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)も含まれます(持分法会計基準第4-2項)。
<関連会社・非連結子会社の定義>
会社 | 定義 |
関連会社 | 企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含む。)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業(持分法会計基準第5項) |
非連結子会社 | 連結の範囲から除かれる子会社 (「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、「連結財務諸表規則」といいます。)第2条第6号)(解説シリーズ「連結(平成25年改正)」第1回:連結の範囲参照) |
ただし、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができます(持分法会計基準第6項)。また、持分法を適用することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある会社に対する投資については、持分法を適用しないものとされていますが、一般に、それは限定的であると考えられています(企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(以下、「連結範囲適用指針」といいます。)第26項)。
また、持分法適用会社における子会社又は関連会社の持分法の適用範囲については、以下のとおりです(持分法実務指針第3項)。
関連会社の場合 |
非連結子会社の場合 |
持分法適用会社である関連会社の子会社又は関連会社は持分法の適用範囲には含まれません。ただし、持分法適用会社である関連会社が有する子会社又は関連会社について持分法を適用して認識した損益又は利益剰余金が連結財務諸表に重要な影響を与える場合には、当該損益を持分法適用会社である関連会社の損益に含めて計算する必要があります。 |
持分法適用会社である非連結子会社の子会社又は関連会社は持分法の適用範囲に含まれます。 |
2. 関連会社の判定
関連会社の判定は、対象企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して「重要な影響を与える」ことができるかどうかがポイントとなり、実態を踏まえた実質的な判断が求められます。以下の場合には、財務上又は営業上若しくは事業上の関係からみて子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができないことが明らかであると認められる場合を除いて、他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して「重要な影響を与える」ことができると判定され、当該他の企業は関連会社に該当します(持分法会計基準第5-2項)。
<関連会社の判定>
議決権の所有割合 | 財務及び営業又は事業の方針の決定に対して 重要な影響を与えることができると判定される場合 |
20%以上 |
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15%以上20%未満 |
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15%未満 |
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(行使し得る議決権の総数からは自己株式や相互保有株式を控除します。)
また、上記※に記載した、役員関係などの一定の条件とは、以下の①~⑤をいいます(持分法会計基準第5-2項、連結範囲適用指針第21項~第23項)。議決権の所有割合と以下の条件を加味して、他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して「重要な影響を与える」ことができるかどうかを検討します。
他の企業との関係 |
一定の条件 |
① 役員、使用人関係 | 役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該子会社以外の他の企業の代表取締役、取締役又はこれらに準ずる役職に就任していること |
② 資金関係 | 子会社以外の他の企業に対して重要な融資(債務の保証及び担保の提供を含む。)を行っていること |
③ 技術関係 | 子会社以外の他の企業に対して重要な技術を提供していること |
④ 取引関係 | 子会社以外の他の企業との間に重要な販売、仕入その他の営業上又は事業上の取引があること。 (例)
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⑤ その他事実関係 | その他子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができることが推測される事実が存在すること (例)
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なお 、他の会社に対し共同で出資を行っている合弁会社の場合にも、意思決定機関を支配しているか否かの判定を行うことになりますが、この結果として共同支配企業の形成による処理方法(企業結合会計基準第11項)が適用され、その後も共同で支配されている実態にある企業については、共同で出資を行っているそれぞれの投資会社の関連会社として取り扱われます(連結範囲適用指針第16項(2))。
また、財務及び営業又は事業の方針の決定に対する影響が一時的であると認められる関連会社に対する投資については、持分法を適用しないものとされています。具体的には、当連結会計年度において財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えているものの、直前連結会計年度において重要な影響を与えておらず、かつ、翌連結会計年度以降相当の期間にわたって重要な影響を与えないことが確実に予定されている場合が該当します(連結範囲適用指針第25項)。
3. 持分法の適用範囲に関する重要性の判断基準
持分法の適用範囲から除いても連結財務諸表に重要な影響を与えない関連会社、共同支配企業及び非連結子会社(以下、「関連会社等」といいます。)かどうかは、企業集団における個々の関連会社等の特性(質的重要性)とともに、少なくとも利益及び利益剰余金の2項目に与える影響(量的重要性)をもって判断すべきものと考えられます((監査・保証実務委員会実務指針第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」第5項、第5-2項)。
① 利益基準
持分法非適用の関連会社等の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額 |
連結財務諸表提出会社の当期純損益の額、連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額並びに持分法適用の関連会社等の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額 |
② 利益剰余金基準
持分法非適用の関連会社等の利益剰余金の額のうち持分に見合う額の合計額 |
連結財務諸表提出会社の利益剰余金の額、連結子会社の利益剰余金の額のうち持分に見合う額並びに持分法適用の関連会社等の利益剰余金の額のうち持分に見合う額の合計額 |
上記算式を適用するに際しては、以下の事項に留意します。
- 影響が一時的であるため持分法を適用しない関連会社及び利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがあるため持分法を適用しない関連会社については上記算式には含めません。
- 利益や剰余金の額の小さなものから機械的に順次選定するのではなく、個々の関連会社等の特性や上記算式で計量できない要件も考慮します。例えば、以下のような関連会社等は原則として持分法を適用することになります。
- 連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な関連会社等
- 連結財務諸表提出会社の一業務部門、例えば、製造、販売、流通、財務等の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる関連会社等。なお、地域別販売会社、運送会社、品種別製造会社等の同業部門の複数の関連会社等は、原則としては、その関連会社等全体を1社として判断するものとします。
- セグメント情報の開示に重要な影響を与える関連会社等
- 多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している関連会社等
- 会社間の取引による資産に含まれる未実現損益を消去後の金額によります。
- 関連会社等の事業年度の末日が連結決算日と異なる場合においてその差異が3カ月を超えないときには、連結決算日の最近の事業年度に係る金額によることができます 。
- 当期純損益の額が事業の性質等から事業年度ごとに著しく変動する場合には最近5年間の平均を用いる等適宜な方法で差し支えありません。