持分法 第1回:持分法総論

2022年5月9日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 久保慎悟

1. はじめに

連結財務諸表上、関連会社及び非連結子会社に対する投資については、原則として持分法を適用することになります。当解説シリーズでは、持分法総論、持分法の適用範囲、持分法の適用手続、持分法適用会社の持分変動及び持分法に関連する開示について、実務において必要と思われるポイントを中心に解説していきます。また、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

2. 持分法の考え方

持分法とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法(企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(以下、「持分法会計基準」といいます。)第4項)をいいます。持分法は、連結(完全連結)のいわば簡便的な会計処理ととらえられ(「企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、「企業結合会計基準」といいます。)第93項(2))、資産および負債については支配していないことから連結貸借対照表に反映しないが業績については連結損益計算書に反映させることがその考え方であるといわれています。

3. 持分法のポイント

持分法による会計処理は、連結と多くの点で類似しています。そのため、実務的には、連結される子会社と持分法が適用される会社とでは、多くの点で類似したプロセスを用いて連結決算手続を進めることができます。ただし、連結と相違する会計処理が必要な点もあるため、持分法が適用される会社について適切な連結決算手続を行うためには、連結との相違を明確に理解し識別することが必要となります。

また、子会社と異なり、持分法が適用される関連会社の場合には、当該関連会社を支配していないため、連結決算手続を行うために必要となる網羅的な情報を適時に入手することが困難となる可能性もあります。このような場合には、事前に対象会社等と協議の上、対応策を検討しておくことが重要となります。

さらに、「第2回:持分法の適用範囲」で詳細に解説していますが、持分法の適用範囲であるか否かは実質的な判断が必要となります。持分法が適用される場合とそうでない場合とでは会計処理が大きく異なっており、連結決算手続において必要となる情報も大きく異なります。そのため、持分法の適用範囲であるか否かについて、慎重に判断する必要があります。

4. 連結との相違

連結は、連結会社の財務諸表を勘定科目ごとに合算することによって企業集団の財務諸表を作成しますので、完全連結(ライン・バイ・ライン・コンソリデーション又はフル・ライン・コンソリデーション)といわれています。一方で、持分法による処理は、被投資会社の資本及び損益に対する投資会社の持分相当額を、原則として、連結貸借対照表上は投資有価証券の修正、連結損益計算書上は持分法による投資損益によって連結財務諸表に反映することから、一行連結(ワン・ライン・コンソリデーション)といわれています。連結と持分法による会計処理との間には、連結財務諸表における連結対象科目が全科目か一科目かという違いはありますが、その親会社株主に帰属する当期純利益及び純資産に与える影響は、以下を除き、同一となります(会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下、「持分法実務指針」といいます。)第2項)。

  • 取得関連費用(付随費用)の会計処理
  • 段階取得時の会計処理
  • 時価により評価する資産及び負債の範囲
  • 追加取得・一部売却の会計処理

なお、連結と持分法の相違については、「第3回:持分法の適用手続」及び「第4回:持分法適用会社の持分変動」(近日公開予定)において詳細に解説します。

また、連結と持分法とでは、連結財務諸表における表示および開示が大きく異なります。この点については、「第5回:持分法に関連する開示」(近日公開予定)において詳細に解説します。

5. 個別財務諸表における持分法

個別財務諸表上、子会社株式及び関連会社株式については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとされ(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第17項 )、持分法の適用は認められていません。

ただし、連結子会社がない会社においては、連結財務諸表が作成されないため、関連会社に多額の損益が生じている場合であっても、その情報がディスクローズされない(企業会計審議会「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」第一・二7)という問題意識が指摘されています。このため、連結財務諸表を作成していない会社は、個別財務諸表上、重要性が乏しい場合を除き、関連会社に対する投資の金額並びに当該投資に対して持分法を適用した場合の投資の金額及び投資利益又は投資損失の金額を注記しなければならない(「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、「財務諸表等規則」といいます。)第八条の九第1号 )とされています。

【開示例①】

(持分法損益等)

1. 関連会社に関する事項

(単位:百万円)
  前事業年度
自20X0年1月1日
至20X1年12月31日
当事業年度
自20X1年1月1日
至20X2年12月31日
関連会社に対する投資の金額 ××× ×××
持分法を適用した場合の投資の金額 ××× ×××
持分法を適用した場合の投資利益の金額 ××× ×××

なお、国際財務報告基準では、個別財務諸表上、関連会社に対する投資について持分法を適用することが認められています。これは、主に、諸外国の一部において、当該諸外国における法律に基づき個別財務諸表の作成が要請された場合に関連会社に対する投資について持分法の適用が求められていることから、国際財務報告基準においても関連会社に対する投資の測定方法の一つとして持分法を含めることが会計基準間のコンバージェンスを容易にするとともに、国際財務報告基準の適用に係るコストも削減できると考えられたためです(IAS第27号「個別財務諸表」第10項、BC第10A項、第10B項)。

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