わかりやすい解説シリーズ「キャッシュ・フロー計算書」 第1回:キャッシュ・フロー計算書とは

2012年11月7日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤啓輔
公認会計士 牧野幸享

1. キャッシュ・フロー計算書とは

【ポイント】
キャッシュ・フロー計算書とは、一会計期間の企業のキャッシュ・インとキャッシュ・アウトを捉え、企業のキャッシュの流れを計算して表示する財務諸表です。

キャッシュ・フロー計算書とは、その名称のとおりキャッシュ(=お金)のフロー(流れ)を計算するための財務諸表です。

図1-1

図1-1

企業は事業活動に伴いさまざまな取引を行っていますが、企業の取引には当然キャッシュが関連しています。取引には企業にキャッシュを流入(キャッシュ・イン)させる取引とキャッシュを企業から流出(キャッシュ・アウト)させる取引があります。キャッシュ・フロー計算書は一会計期間の企業のキャッシュ・インとキャッシュ・アウトを捉え、キャッシュの期首残高に加減算してキャッシュの期末残高を計算する形式で、企業のキャッシュの流れを計算して表示する財務諸表です。

  • キャッシュ・イン、キャッシュ・アウトの例

    例えば、企業が商品を販売し、販売代金を回収することによってキャッシュ・インが生じます。その他、銀行などから新規の借り入れや、増資を行った際にもキャッシュ・インが生じます。

    また、商品の仕入代金の支払いによってキャッシュ・アウトが生じます。その他、従業員への給与や経費の支払い、固定資産の購入、借り入れの返済などによってもキャッシュ・アウトが生じます。

2. キャッシュ・フロー計算書と貸借対照表・損益計算書

【ポイント】
キャッシュ・フロー計算書と貸借対照表や損益計算書は相互に密接に関係しています。

キャッシュ・フロー計算書は貸借対照表や損益計算書と同じく財務諸表の一つに位置付けられており、これらの財務諸表は相互に密接な関係を持っています。

設例

財務諸表関連図

設例 財務諸表関連図

貸借対照表は期首時点(=前期末時点)や期末時点といった「一時点」の資産、負債、純資産という財政状態の状況を示す財務諸表であるのに対し、キャッシュ・フロー計算書及び損益計算書は1年や四半期会計期間等の「一期間」のキャッシュ・フローや損益の状況を示す財務諸表になります。それぞれの財務諸表の間には以下のような関係があります。

  • 財務諸表間の関係(キャッシュ・フロー計算書と貸借対照表)

    キャッシュ・フロー計算書は、期首の貸借対照表の現金預金(≒キャッシュ)と期末の貸借対照表のキャッシュの増減を説明する役割を担っています。設例では期中に現預金が7,000増加していますが、これはキャッシュ・フロー計算書のキャッシュの増加+7,000で説明することができます。

  • 財務諸表間の関係(キャッシュ・フロー計算書と損益計算書)

    キャッシュ・フロー計算書は、損益計算書との関係では、損益計算書で計算された利益がどの程度キャッシュとなったかを説明する役割を担っています。設例では損益計算書に計上された収益25,000は全てキャッシュとして回収されたという前提で、キャッシュ・フロー計算書にキャッシュ・イン25,000と記載されています。また、損益計算書の費用18,000は全て支払いが終わったという前提で、キャッシュ・フロー計算書にキャッシュ・アウト18,000として記載されています。

    実務上は、当期の損益計算書に計上された売上の全てがその期にキャッシュで回収されるわけではなく、期末時点で未回収の部分は貸借対照表に売掛金として計上されることになります。同様に当期に計上された費用についてもその全てが期中に支出されるわけではなく、期末の未払債務として買掛金や未払費用等に計上されるものもあります。また、キャッシュ・フロー計算書の売上による収入や費用の支出には、期首の売掛金の回収や、買掛金や未払費用等の支払いも含まれるため、損益計算書の売上や費用と、キャッシュ・フロー計算書の売上による収入や費用の支出は一致しないのが通常です。

  • 財務諸表間の関係(貸借対照表と損益計算書)

    損益計算書は、配当金等による増減がない場合、期首の貸借対照表の利益剰余金と期末の貸借対照表の利益剰余金の増減を説明する役割を担っています。設例では利益剰余金は期中に7,000増加していますが、配当金等がない場合、損益計算書の当期純利益7,000によって増加しているという関係があります。

3. キャッシュの範囲

【ポイント】
キャッシュ・フロー計算書におけるキャッシュの定義を確認します。

キャッシュ・フロー計算書におけるキャッシュとは「現金及び現金同等物」のことを意味します。

図1-2

図1-2 キャッシュ=現金及び現金同等物

現金とは、文字通り紙幣や硬貨のことです。また、現金同等物は、①普通預金、当座預金などの企業がいつでも出し入れが可能な預金(要求払い預金と呼ばれます)、②預入期間が3カ月以内の定期預金(預入期間が3カ月超の定期預金は投資として捉えます)、③リスクが僅少な投資等その他の現金同等物から構成されます。

  • リスクが僅少な短期投資等その他の現金同等物の例

    リスクが僅少な投資等その他の現金同等物には、例えば、満期までの期間が3カ月以内のコマーシャルペーパー(CP)などが含まれます。回転が速くリスクが僅少であるため、企業において実質的にキャッシュとして取り扱われているためです。

  • 貸借対照表の現金預金とキャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物の関係

    キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物は概ね貸借対照表の現金預金から構成されていますが、例えば、貸借対照表の現金預金に預入期間が3カ月以上の定期預金が含まれている場合や、流動資産の有価証券に満期までの期間が3カ月以内のCPが含まれている場合、貸借対照表の現金預金に調整する形でキャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物を計算します。当該関係はキャッシュ・フロー計算書に注記として記載されます。

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