サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年2月号

EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

地域別アップデート

【Global】

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

先日ダボスで開催された世界経済フォーラムの後、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のエマニュエル・ファベール議長は、我々は「サステナビリティ基準の導入に向けた規制の転換点」にあると示しました。EYグローバル会長兼CEOのカーマイン・ディ・シビオとともに登壇したダボス会議のパネルディスカッションで、ファベール氏は、強制力のあるサステナビリティ開示基準の「世界的なベースライン」を確立するためには「この勢いを維持する必要がある」と述べました。

フィナンシャル・タイムズ紙は、「企業にとってかじ取りが困難な細分化が進むか、より統合化されたモデルを求める勢いが生まれるかのどちらかだ」と述べています。

オーストラリアブラジルコロンビア香港日本韓国マレーシアニュージーランドナイジェリアフィリピンシンガポール台湾トルコに続き、バングラデシュ(銀行・金融機関向けのみ)とコスタリカ(スペイン語のみ)が最近、ISSBサステナビリティ開示基準との整合を図る意向を表明しました。カナダと英国もISSBに整合させるかどうかを検討しています。とはいえ、多くの場合、これらの国々がISSB基準にどれだけ忠実に従うかはまだ分かりません。

エマニュエル・ファベールISSB議長は、2024年上半期のISSBの焦点は、ISSB基準との整合を決定した国々を支援すること、他の国・地域と協力して適用に向けたロードマップを作成すること、そしてISSBの2年間の作業計画を確定することであると繰り返し述べました。この2年間の作業計画には、ISSBがモデル開示基準の開発を決定する可能性のある、人的資本や生物多様性といった新たなサステナビリティ・トピックが特定されることが期待されています。

12月下旬、ISSBはSASB基準の「国際的な適用可能性」を向上させたSASB基準の改訂を公表しました。SASB基準は、業界特有のガイダンスであり、今回の改正により、IFRS S1基準の導入及び適用の促進に役立てることができるようになりました。なお、SASB基準はISSB基準と独立して使用することができます。(注:SASBは2022年8月にISSBに統合されました)


GRI(Global Reporting Initiative)

GRI(Global Reporting Initiative)は、温室効果ガス排出量報告のためのGRI-ISSB相互運用性ガイダンスを公表しました。この文書は、全ての要求事項を包括的に評価するものではありませんが、企業がスコープ1、2、3排出量を測定・開示する際に考慮すべき相互運用性の領域を示しています。またGRIは昨年末、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)と共同で、GRIとEU ESRSの相互運用性を説明し、報告企業が2つのサステナビリティ報告基準間の共通点を理解するためのマッピングツールとしての役割を果たす、相互運用性インデックス(Interoperability Index)の草案を公表しました。


国際会計士倫理基準審議会(IESBA)

1月下旬、国際会計士倫理基準審議会(IESBA)は、サステナビリティ報告及び保証に関する倫理・独立性基準の2つの公開草案を公表しました。1つ目の公開草案は、専門性のバックグラウンドに関係なく、すべてのサステナビリティ保証業務提供者が利用可能な倫理・独立性基準を提供するものです。2つ目の公開草案は、外部専門家の業務の利用に関する国際倫理基準を提案するものです。どちらも現在意見募集を行っており、1つ目の公開草案への回答期限は2024年5月10日、2つ目の公開草案への回答期限は2024年4月30日です。

【Americas】

米国では、証券取引委員会(SEC)が、長く待ち望まれる気候関連開示規則を最終化する作業を継続しています。最終規則は、今後数ヶ月以内に発表される可能性があります。最終規則が発表された場合その時点で、おそらく訴訟の対象となり、その導入は遅れるかあるいは軌道修正される可能性があります。

カリフォルニア州では、米国商工会議所を中心とする企業団体連合が、同州が最近制定した気候変動情報開示法に異議を唱える訴訟を起こしました。事業者団体は、同法は「気候変動に関する費用のかかる弁論を企業に強制する」ことで企業の権利を侵害していると主張し、また、この法律は州政府に事実上の国家排出規制機関としての活動を強制するものであり容認できない、と主張しています。カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムの行政府は、この法的異議申し立てについてまだコメントしていません。

さらに、ニューサム州知事が最近発表した予算案では、カリフォルニア州大気資源局(CARB)が新しい気候情報開示法の規定を施行するために必要なルール作りを行うための予算が計上されておらず、これらの法律の施行にまつわる不確実性がさらに高まっています。

バイデン大統領は、退任するジョン・ケリー気候問題担当大統領特使の後任にジョン・ポデスタ氏を起用しました。ポデスタ氏は、よりクリーンなエネルギーと持続可能な製造方法の開発を奨励するインフレ削減法(IRA)の実施を引き続き監督します。さらに、バイデン政権の気候関連政策目標を推進するため、国外での米国の取り組みを指揮します。

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)

欧州連合(EU)のサステナビリティ報告に関する法律である欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が施行され、来年1月にはEU域内の従業員500人以上の社会的影響度の高い事業体(PIE)(基本的には大規模上場企業)から最初の報告書が提出される見通しです。その一方で、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、EU加盟国による移管作業が続いており、各EU加盟国は、CSRDを遵守するために必要な国内法、規制、行政規定を制定するために必要な手続きを実施しなければなりません。加盟国の移管期限は2024年7月6日です。フランスは移管を完了した最初の国であり、スペインやオランダをはじめとする数カ国が現在、移管プロセスを開始しています。

2月7日、EU理事会と欧州議会は、セクター別ESRSと第三国ESRSの採択を2年延期する決定について暫定合意しました。これは、EU委員会が2023年10月に提案したスケジュールの延期を支持するものです。今後、EU理事会と欧州議会の双方による正式な承認が必要となります。

欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、昨年末に中小企業(SMEs)向けのサステナビリティ報告ガイダンスの開発を優先すると発表したのに続き、1月には2つの公開草案を公表しました

1つ目の基準草案は上場中小企業向けで、2026年1月1日から適用されます。2つ目の草案は非上場中小企業向けで、任意適用となります。両公開草案の協議期間は2024年5月21日までです。2月2日、EFRAGは、マテリアリティ評価に関するガイダンス案、CSRDにおける「バリューチェーン」の定義の解釈に関するガイダンス案、ESRSのデータポイントのためのエクセルベースのツール案など、ESRS及びCSRDの様々な導入ガイダンス資料に関する4週間の協議を終了しました。最終資料は2024年3月末までに完成する予定です。

最後に、欧州サステナビリティ・レポーティング・ボード(SRB)は、ESRS XBRLタクソノミーの草案を承認・公表しました。コメント期限は2024年4月8日までです。


炭素国境調整メカニズム(CBAM)

欧州委員会は、炭素国境調整メカニズム(CBAM)における報告義務に関する最新のガイダンスを発表しました。同ガイダンスでは、主に報告期間のスケジュールとCBAM報告書の情報の質について明確化されています。


トルコ

トルコでは、政府がCOP28でISSB基準を採用すると発表したことを受け、同国の会計当局がトルコサステナビリティ報告基準(TSRS)(トルコ語のみ)の適用範囲、時期、本文に関する詳細情報を公表しました。


バングラデシュ

バングラデシュは、2024年以降の段階的な、銀行や金融機関向けのIFRS S1とIFRS S2に基づくサステナビリティと気候変動関連のリスクの開示に関するガイドラインを、発行しました。

【Asia-Pacific】

中国

2月13日、中国の三大株式市場である上海証券取引所(SSE)、深セン証券取引所(SZSE)及び北京証券取引所(BSE)は、上場企業向けのサステナビリティレポートガイドライン案を公表しました。環境、社会及びガバナンスに関する広範なトピックについて、中国の大企業および重複上場企業に新たな報告義務を課すもので、2025年度のデータに関する最初の報告期限は、2026年4月30日となっています。

気候関連開示については、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに準拠した気候関連リスクの開示が要求されます。この報告義務は、ISSB、EUのCSRD及び米国SEC規則案と同じアプローチを反映しています。また、ダブル・マテリアリティの概念を採用しており、企業は、サステナビリティに関連するリスクが自社の事業にどのように影響を与えるか、自社の事業が環境や社会にどのような影響を与えるかを検討する必要があります。

注目すべき違いは、中国の規則では、スコープ3排出量の開示、シナリオ分析及び第三者保証は義務ではなく、推奨である点です。気候や環境以外では、科学技術倫理、サプライチェーンセキュリティ、中小企業の平等な取扱い、データセキュリティと顧客のプライバシー、人的資本指標及び農村部の活性化など中国固有の要素に関する報告義務が示されています。ガイドライン案の意見募集期間は2月29日までです。


オーストラリア

1月12日、オーストラリア財務省は、企業の気候関連財務情報開示に関する法案を公表しました。公開草案は、財務省が2022年及び2023年に行った2回の協議に続くもので、オーストラリアにおける企業の気候情報開示を義務付けるための、法律の範囲、時期及び保証要件などの措置を定めています。意見募集期間は2024年2月9日まででした。EYオセアニアでは、本法案に関する分析をしています。

この意見募集は、オーストラリア会計基準審議会(AASB)による2024年3月1日までの意見募集とは別のものであることに留意が必要です。AASBは、財務省の法律の下で対応する報告義務を策定する責任を負う基準設定主体です。


香港

新たなワーキンググループが、IFRSサステナビリティ開示基準の採用に関するロードマップ作成の進捗状況について、「サステナブルファイナンス推進のための合同委員会」に報告しました。

今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年3月:日本において、ISSB基準に基づくサステナビリティ開示基準の草案の公表
  • 2024年4月~5月:サステナビリティ保証における倫理に関するIESBA公開草案の意見募集終了
  • 2024年5月:EFRAGによる上場中小企業向けESRS草案(強制)及び非上場中小企業向けESRS草案(任意)の意見募集終了
  • 2024年上半期:英国FCAが、英国が承認したISSB基準及び移行計画タスクフォース(TPT)の枠組みに沿った上場企業向け開示規則及びガイダンスの公開協議開始
  • 2024年上半期:ISSBが2年間の作業計画を最終化
  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化
  • 2024年11月:COP29がアゼルバイジャンのバクーで始まる
  • 2024年末または2025年初め:EFRAGが、セクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始

その他の重要トピック

ダボス会議での経営者の発言

Wall Street Journalの記事でも報じられているように、ペプシコ、日立製作所、BCGの経営者及びEYが、気候変動に関連する様々な世界的課題をはじめ、人工知能、地政学、政治的分断、マクロ経済などについて議論しました。
What Executives Were Saying About Sustainability at Davos 


SEC 財務報告書及びサステナビリティレポートとの間の潜在的な不整合についての企業への働きかけ

Bloombergの記事によると、米国証券取引委員会(SEC)は、過去3ヶ月の間に10社以上の大企業に対し、SECへの財務報告書と株主やその他の利害関係者に向けたサステナビリティレポートにおける気候変動リスクに関する情報のレベルに差が生じる可能性について質問を行いました。
SEC Presses Companies on Climate Risk With New Rules on Horizon

〈お問い合わせ先〉

EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室
sd.office@jp.ey.com

ゲスト編集者 牛島 慶一

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader

サステナビリティの分野で活躍。多様性に配慮し、プロフェッショナルとしての品位を持ちつつ、実務重視の姿勢を貫く。

ゲスト編集者 馬野 隆一郎

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

周りの支えを胸に未来を見据え、日々の挑戦を楽しむ。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

関連コンテンツのご紹介

2021年10月22日に欧州監督当局がサステナブルファイナンス開示規則のドラフト版細則を公表

2021年10月22日、欧州監督当局より、欧州の資産運用会社等に対する開示を義務付けた「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」における詳細な内容を定めた「ドラフト版細則(Draft Regulatory Technical Standards; Draft RTS)」が公表されました。

詳細ページへ

監査・保証サービス

私たちは、最先端のデジタル技術とEYのグローバルネットワークにより、時代の変化に適応した深度ある高品質な監査を追求しています。

詳細ページへ

アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。

詳細ページへ

情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。

詳細ページへ

会計・監査インサイト

会計・監査インサイト

EY新日本有限責任監査法人のプロフェッショナルが発信する、会計・監査に関するさまざまな知見や解説を掲載しています。

 

詳細ページへ