ESGにはなぜEHSの変革が不可欠なのか

ESGにはなぜEHSの変革が不可欠なのか


ESGパフォーマンスへの注目が高まる中、EHS専門家は変化を推進する機会を逃してはなりません。


要点

  • 強固なEHSフレームワークはESGパフォーマンスの必須要素であるにもかかわらず、見過ごされがちである。
  • ESGの台頭は、EHS専門家に新たな機会を生み出している。
  • ESGとEHSを連携しないと、機会を逃してしまう恐れがある。


EY Japanの視点

日本におけるEHS(環境、健康、安全)管理は、長い歴史の中で、重大事故防止を目的に多くの課題を克服し、常に進歩を続けてきました。昨今ESGのパフォーマンスを向上するためにさまざまなアプローチを模索する中で、EHSの過去の知見を生かすことが求められています。

EHSとESGには直接的に重なる部分があり、従業員の安全や健康、廃棄物管理などが一例として挙げられます。しかし、EHSの価値は、ESGにとってデータ収集やコンプライアンスといった課題にとどまらず、マネジメントシステムやリスク評価などに加え、これまでの安全文化の向上の道のりなどから学ぶことで、組織が抱えるESGの諸課題を解決するための重要な手段となり得ます。

日本で過去に積み重ねてきたEHSのノウハウは、組織、そして社会がより成熱した文化の醸成を達成し、企業とその従業員、そしてステークホルダーに対して利益をもたらす重要なカギとなるのではないでしょうか。


EY Japanの窓口

EY新日本有限責任監査法人
CCaSS事業部
シニアコンサルタント 加藤 敦士
※所属・役職は記事公開当時のものです

環境・衛生・安全(EHS)は長年、独立して進めるプロセスと見なされ、環境・社会・ガバナンス(ESG)や業績全般を大幅に向上させる原動力になるとは考えられていませんでした。先見の明のあるEHS専門家の間では長いこと、EHSを活用すれば、ビジネス価値全体を高め、それによって組織のESGアジェンダに価値をもたらすことができるという認識がありました。そのことを実証するため、彼らは自社組織に新しい機動的な業務手法を取り入れてきました。これまでよりもシンプルかつフレキシブルな、ビジネスに直結した手法で、重大リスクに焦点をあてるというやり方です。こうしたやり方が、実質的には、変化の激しい複雑な業務環境に適しています。

世界中でESGへの注目が高まる今こそ、EHSとESGの関係を見つめ直し、EHSで学んだことを活用してESGへのアプローチ方法に有意義な変化をもたらす機会です。

 

EHSがESGに不可欠な理由

EHSとESGには直接重なる部分があります。例えば、廃棄物管理、気候変動リスク、従業員の安全、メンタルヘルス、ウェルビーイングなどは両者の交わるところにあります。それらに関連するリスクについてEY EHSチームが収集したデータは、ESGレポートや戦略、パフォーマンスの追跡にダイレクトに反映させられます。

ESGにはESHが不可欠

しかし、EHSがESGにもたらす価値は、データ収集や情報開示、コンプライアンスだけではありません。EHSは何十年もの間、多くの組織に定着してきました。よって、優れたEHS部門には真の変革をもたらす力があります。そうしたEHSの専門家が用いる高度な管理システム手法をはじめ、企業文化の変革への取り組み方や、データ主導型のKPI監視・追跡方法を学ぶことで、組織のESGアジェンダを大きく前進させられます。

 

ESGの推進にEHSを活用するメリット

気候変動や生物多様性などマクロな課題が、企業の評判や操業許可の拡大と密接に結びつけられるようになったことで、EHSとESGの相乗効果に対する注目が高まっています。一歩先を行くEHS専門家は、現代の職場環境でのEHS管理に現代的なアプローチで取り組んでいます。すなわち、組織の人的要素(リーダーシップ、行動、企業文化改革など)を考慮しつつ、従業員の労働安全衛生を維持するのに必要なプロセスや体制やツールを整備して従業員を支援し、加えて、環境の保護や再生に取り組む、というものです。ESGのためのこうした変革要件を満たしている企業は今ほとんどなく、未来の働き方には程遠い状況になっています。過去30年間、従業員と組織の双方に等しく利益をもたらす職場環境を目指した取り組みが行われてきました。EHSの第一線で活躍する専門家に学ぶことをしないと、その30年から得られた学びを生かせるまたとない機会を逃してしまいます。

EHSのメリット

ESGの情報開示やパフォーマンスに対して、投資家やステークホルダー、さらには一般人から向けられる目がますます厳しくなっている昨今、高いリスクが存在します。規制違反の罰金や、現行および潜在的ビジネスの喪失、従業員離職率の増加、評判の長期的低下といったリスクに企業はさらされています。EHS部門とサステナビリティ部門を戦略的に連携させることで、過去の落とし穴を回避し、ESGの成熟を加速化させることができます。


職場環境の改善に費やした過去30年間の学びを生かさないと、またとない機会を逃してしまいます。


EHSを活用したESG変革への道

EYの研究や経験によると、EHS変革の成否は、従業員とシステムとの関わり方を組織側が理解しているかにかかっています。それを決める4つの重要な要素があります。

  1. 統合:EHSをビジネスプロセスに組み込み、縦割り型の組織構造ではなく、デジタルテクノロジーを活用した連携しやすいネットワークを構築する。
  2. シンプルさ:人を中心にした分かりやすいシステムを構築し、従業員の関与と参加を促進する。
  3. 集中:重大リスクに特に重点を置く。テクノロジーと自動化を活用して、効率のよい正確なデータ収集を実現する。
  4. 俊敏性:強固なプロセスを土台に、変化し続ける業務環境に適応できるアジャイルなフレームワークを構築する。

強固な土台に支えられた優れたEHSフレームワークがあって初めて、高いESGパフォーマンスが実現すると言ってよいでしょう。EHSとESGとの間に必要な連携を確立できない組織は、貴重な時間とリソースを浪費するだけでなく、重大なビジネスリスクを冒す恐れがあります。


EHSの変革を支えるには

組織はEHSとESGの統合を検討すべきで、その際、分かりやすい形で統合し、重大リスクの管理に重点を置きながら、業務環境の変化にすばやく適応できるようにしなければなりません。EHSがESG変革をどう推進できるのかを理解するため、まず、以下の問いを考えてみてください。
 

取締役会メンバー:

  • ESGアジェンダを進める上で、EHSが果たす役割は何か。
  • EHSリーダーシッププログラムは、ESGリーダーシップ能力とスポンサーシップの構築にどう役立つのか。
  • EHSとESGの取り組みと成果をうまく統合するにはどうすればよいか。
  • EHSはESGの実施にどう役立つか。


部門のリーダー:

  • ESGは、既存のEHSデータの照合・報告・アシュアランスプロセスをどう活用できるか。
  • EHS報告要件と、それよりもさらに広範なESG報告要件は、どの部分が重複しているか。
  • EHSとESGの取り組みと成果をうまく統合するにはどうすればよいか。
  • EHSはESGの実施にどう役立つか。


経営陣:

  • ESGアジェンダを進める上で、EHSが果たす役割は何か。
  • EHSリーダーシッププログラムは、ESGリーダーシップ能力とスポンサーシップの構築にどう役立つのか。


スーパーバイザー:

  • EHSは、さまざまな既存の関係をどう活用すれば連携を促進できるか。
  • ESGとEHSの統合・連携の機会はどういうところにあるか。

サマリー

ESG目標に向けて進み始めた企業は、優れたEHS専門家の手法を活用することで、進歩を加速させ、有意義な改革を推進することができます。両者の相乗効果を活用しないビジネスリーダーは、大きなビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。


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