EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 ソフトウェアセクター 公認会計士 小林 祐
IT関連企業、建設業、不動産業等の国内会社のさまざまな業界の監査業務およびIPO支援業務に従事。IT関連企業については、国内大手のソフトウェア開発企業からスタートアップIT企業まで幅広い規模、業種を担当。またソフトウェア関連の書籍執筆や法人内のソフトウェアセクターナレッジの運営に従事。
要点
ソフトウェアは、経済活動を支えるインフラとして欠かせないものであり、情報通信技術(ICT)が著しく進化している現在においては、どのようなビジネスを営んでいても必要な存在になっていると言えます。また、インターネットの発達に伴いプラットフォーム側のビジネスの発展やweb3.0時代の新たなビジネスなど、ソフトウェアを取り巻く経済環境は日々刻々と変化しており、ソフトウェアの減損会計の検討もその重要性を増している状況です。
自社利用のソフトウェアは、社内業務を効率的または効果的に遂行することを目的とするものと、第三者への業務処理サービス等の提供を目的とするものがあります。第三者へのサービス目的のソフトウェアはいわゆる収益獲得を目的としたソフトウェアであり、例えばクラウドサービスに利用するソフトウェア等があります。本稿では、収益獲得を目的としたソフトウェアの減損処理に関する内部統制について取り扱います。
自社利用のソフトウェアについては、実態に応じて最も合理的と考えられる減価償却を採用すべきものであり、一般的には定額法による償却方法が合理的なケースが多いものと考えられます。しかし、自社利用のソフトウェアでも、収益獲得目的の自社利用のソフトウェアについては、将来の獲得収益を見積もることができるものなど、見込販売収益に基づき減価償却を行う方が費用・収益の対応の観点からより合理的であるケースも考えられます(日本公認会計士協会会計制度委員会「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」Q23)。
ただし、市場販売目的のソフトウェアに準じて、見込販売数量や見込販売収益に基づく方法で償却を行っていても、通常、未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回ったときに当該超過額を一時の費用または損失として処理されていないため、結果として減損検討の対象となる点は留意が必要です(企業会計基準委員会「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」69項)。
収益獲得目的の減損検討においては、将来の事業計画が基礎となります。ソフトウェアの減損検討において、例えば最先端のビジネス領域などで、急成長を前提とした事業計画を用いるケースや、あるいは新規のビジネスで過去の実績や他社事例等が限定的な事業計画を前提としているケースもあります。こういった事業計画には大きな不確実性を伴う会計上の見積りが含まれている可能性があることから、当該見積り要素を適切に検討する内部統制が必要になります。
例えば最先端の技術やビジネス領域のために開発されたソフトウェアの場合、その利益のほとんどを事業計画の後半で生み出すような、テールヘビーな事業計画を前提としているケースがよく見受けられます。このような事業計画には、多くの見積り要素が含まれることとなり、投資部門のみならず、経理部などの他部門による牽(けん)制体制を整備し、多面的に検討可能な体制が必要と考えられます。また投資の重要性に応じて、投資委員会のような会議体を整備することも有用と考えられます。
テールヘビーな事業計画においては、初期段階の売上等のP/L数値そのものは、全体の事業計画の達成という観点において意義が乏しい場合も考えられます。このような場合、単純に売上や利益のみをモニタリングすることは必ずしも適切ではありません。事業計画全体のストーリーをしっかり検証した上で、そのストーリー達成のためのKPI、例えば会員数や取引量、重要な機能のリリース、人材の確保等を設定し、設定したKPIも減損のモニタリング対象とする必要があると考えられます。
ソフトウェアは開発から完成まで一定の期間を有し、ソフトウェア仮勘定に計上されるという特性にも留意が必要です。
ソフトウェアは無形のため、まずは開発の進捗(ちょく)状況を確認するための方法を検討、確立する必要があります。また、その開発の進捗状況を投資回収の事業計画に反映し、ソフトウェア仮勘定段階においても減損検討を行う体制構築が重要になります。事業計画の反映は、例えば開発が遅延している場合、開発費が増加し当初の利益計画では投資金額が回収できなくなる可能性があります。他にも、サービス開始が遅れることにより将来の売上計画に影響を及ぼす可能性があります。
開発中の段階であっても、ソフトウェアの開発の進捗状況を適切に把握し、減損検討を行う体制を整備することが必要になる点に留意が必要と考えられます。
有形固定資産では定期的な実査を行うことが通常ですが、ソフトウェアにおいても同様の確認作業を行う統制があるかどうかも留意すべきポイントになります。有形固定資産と同様に、将来の使用が見込まれていない遊休のソフトウェアは減損の検討が必要になります。
有形の資産と異なり、無形のソフトウェアは明確な調査体制が無いと検討漏れが生じる可能性がある点に留意が必要です。また、機能拡張を繰り返しているようなソフトウェアの場合、特定の機能が使用されなくなるケースも定期的な調査により把握、減損検討を行うことが望ましいものと考えられます。
現代の企業活動は、ソフトウェアの利用が不可欠な環境となっており、あらゆる企業においてソフトウェアの重要性は高まっています。ソフトウェア投資に関する適切なリスク管理を行い、減損検討に関する内部統制を構築することは、IT企業に限ることなく今後ますます重要となるものと考えられます。
特に、競争の激しいビジネス環境や新規ビジネスにおいては、ソフトウェアの減損損失の検討において、複雑な見積りが必要となるケースが考えられるため、経理部門のみならず全社横断的に投資の評価、情報収集、モニタリング等の内部統制構築が重要となってくるものと思われます。
収益獲得を目的とした自社利用のソフトウェアの減損処理に関する内部統制の基礎的な留意事項について解説しています。
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