新リース会計基準の概要の解説

新リース会計基準の概要の解説


情報センサー2024年12月 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 平川 浩光

会計処理及び開示に関する相談業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、上場会社、上場準備会社の監査業務に従事。金融機関や公的機関のセミナー講師を歴任し、主な著書(共著)に『そこが知りたい!のれんの会計実務』(中央経済社)がある。

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 石川 仁

会計処理及び開示に関する相談業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、不動産業や機械製造業の会計監査業務に従事している。

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 中根 將夫

会計処理及び開示に関する相談業務、会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、上場会社、上場準備会社等の監査業務に従事している。


Ⅰ はじめに

本稿では、2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、リース会計基準)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、リース適用指針。また、「リース会計基準」と「リース適用指針」を合わせて、「リース会計基準等」)の概要について、主に借手の会計処理及び表示を中心に解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えます。


Ⅱ 新リース会計基準の概要

1. リース会計基準等公表までの経緯及び開発にあたっての基本的な方針

2007年3月にASBJにより公表された企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、企業会計基準第13号)等において、リースに関する我が国の会計基準は当時の国際的な会計基準と整合的なものとなりました。しかし、その後、2016年に公表された国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、IFRS第16号)及びFASB Accounting Standards CodificationのTopic 842「リース」(以下、Topic 842)では、借手の会計処理に関して、主に費用配分の方法が両者で異なるものの、原資産の引渡しによりリースの借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて資産及び負債を計上することとされました。この結果、IFRS第16号及びTopic 842と我が国の会計基準とは、特に負債の認識において違いが生じることとなり、国際的な比較において議論となる可能性がありました。

このような背景のもと、ASBJでは借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発が開始され、2023年5月に公表された公開草案に寄せられた意見の検討が重ねられた上で、今般、適用範囲(「2.適用範囲」参照)に定められたリースに関する会計処理及び開示について定めることを目的としたリース会計基準等が公表されました。

リース会計基準等の開発にあたっては、IFRS第16号と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを使用権の取得と捉えて使用権資産を貸借対照表に計上するとともに、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルによることとされています(<表1>参照)。

表1 借手における会計処理のイメージ

 

現行の会計処理

リース会計基準等の会計処理

ファイナンス・リース

オンバランス
(リース資産、リース債務)
オンバランス
(使用権資産、リース負債)
オペレーティング・リース
(<図1>参照)
オフバランス
(通常の賃貸借処理)

図1 借手のオペレーティング・リースに係る影響のイメージ

図1 借手のオペレーティング・リースに係る影響のイメージ
出所:リース会計基準等を基にEY作成

2. 適用範囲

リース会計基準等は、契約の名称などにかかわらず、<表2>の①から③に該当する場合を除き、リースに関する会計処理及び開示に適用するとされています。ただし、IFRS第16号との整合性等の観点から、無形固定資産のリースについては、リース会計基準等を適用しないことができるとされています。

なお、リース会計基準等においては、借地権は有形固定資産である土地に関する使用権資産として取り扱われているため、借手において、借地権は無形固定資産のリースには該当せず、リース会計基準等の適用範囲に含まれます。

表2 適用範囲外とされた項目

① 実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得
② 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与(ただし、製造又は販売以外を事業とする貸手は、当該貸手による知的財産のライセンスの供与についてリース会計基準を適用することができる)
③ 鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得


また、リース会計基準等の適用に関する懸念の多くは個別財務諸表固有の論点ではないと考えられ、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情は存在しないと判断し、リース会計基準等では、個別財務諸表における特例的な取扱いを設けることなく、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一にすることとされました。


3. リースの定義

リースの定義は、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があると考えられます。

このため、リース会計基準等では、IFRS第16号の定めと整合させて、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義し、借手と貸手の両方に適用することとされています。


4. リースの識別

(1) 基本的な考え方

リースの識別に関する定めは、リースの定義に関する定めと合わせて、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものとなります。このため、国際的な会計基準との整合性に鑑みて、リース会計基準等では、リースの識別に関して、IFRS第16号の主要な定めを取り入れた上で、借手と貸手の両方に適用することとされています。

一方で、リースの識別に関する細則的なガイダンスについては、「開発にあたっての基本的な方針」を踏まえ、国際的な比較可能性が大きく損なわれるか否かを主要な判断基準として、取捨選択して取り入れています。この点、リース会計基準等では、取り入れられた主要な定めの内容に基づき判断が行われることが意図されているため、リース会計基準等に基づく適切な会計処理は、IFRS 第16号における詳細な定めに基づき会計処理を行った結果に限定されないとされています。

リースの識別に関する定めは、従前の企業会計基準第13号では置かれていなかった定めであり、リース会計基準等の適用によって、これまで企業会計基準第13号により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられます。

リースの識別は上流の論点であり、リース会計基準等の適用準備を進めるに際して手戻りを防止するためには、リースの識別に関する定めを十分に理解した上で、網羅的な検討を行うことが重要になると考えられます。

(2) リースの識別のフロー

リースの識別に関する基本的な定めは、<表3>のとおりです。また、この基本的な定めを適用するにあたってのガイダンスが、<表4>のとおり定められています。

表3 リースの識別に関する基本的な定め

  • 契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。
  • 特定された資産の使用期間全体を通じて、次の①及び②のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)から当該契約の他方の当事者(顧客)に、当該資産の使用を支配する権利が移転している。
    ① 顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。
    ② 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。

表4 リースの識別に関する基本的な定めを適用するにあたってのガイダンス

特定された資産

実質的な入替権

次の①及び②のいずれも満たすときには、特定された資産に該当しない。

① サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有している。
② サプライヤーにおいて、当該資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が、代替することから生じるコストを上回ると見込まれるため、当該資産を代替する権利の行使によりサプライヤーが経済的利益を享受する。

物理的区分可能性

顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分*である場合には、特定された資産に該当しない。

* 稼働能力のほとんどすべてである場合を除く。

指図する権利

顧客は、次の①又は②のいずれかの場合にのみ、使用期間全体を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有している。

① 顧客が使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合
② 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされており、かつ、次の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかである場合
(ⅰ)使用期間全体を通じて顧客のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している。
(ⅱ)顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計している。

これらの定めをフローチャートで表現すると<図2>のとおりです。なお、各要件の判断に際しては、いずれも「使用期間全体を通じて」それぞれの要件に該当するかを判断する必要があります。また、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さないとされています。

図2 リースの識別のフローチャート

図2 リースの識別のフローチャート

*当該判断においては、以下も考慮する

  • サプライヤーが資産を代替する実質上の能力を有するか
  • 顧客が使用することができる資産が物理的に別個であるか

出所:リース適用指針の設例Ⅰ.リースの識別[設例1]を基にEY 作成


(3) リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分

借手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて、リースを構成する部分についてリース会計基準等により会計処理を行うとされています。

ただし、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができるとされています。

なお、リースを構成する部分と当該リースに関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成しない部分として会計処理を行うことは、認められていません。


5. 借手のリース期間

借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるものであるため、リース会計基準等では、IFRS第16号における定めと整合的に、<表5>のとおり定めが置かれています。なお、「合理的に確実」とは、蓋然性が相当程度高いことを示しているとされています。

次の「6.借手のリースの会計処理」にあるとおり、借手のリース期間における借手のリース料を基礎として使用権資産とリース負債を計上するため、借手のリース期間がオンバランスする金額に大きく影響しますが、借手のリース期間は延長オプションや解約オプションを考慮するか否かで大きく変わり得ます。これらのオプションを考慮するか否かについては判断が求められており、企業ごとの状況を踏まえて慎重な検討が求められると考えられます。

表5 借手のリース期間の定め

借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の①及び②の両方の期間を加えて決定する

①借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
②借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間*

* 借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる。


また、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、例えば、<表6>の経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮することとされています。

表6 経済的インセンティブを生じさせる要因の例示

① 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
② 大幅な賃借設備の改良の有無
③ リースの解約に関連して生じるコスト
④ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
⑤ 延長オプション又は解約オプションの行使条件


借手のリース期間の決定のイメージとして、【設例1】をご参照ください。

【設例1】 借手のリース期間の決定

<前提条件>

  • 契約期間が1年6カ月で、1年経つと解約できる(解約オプション)。
  • 契約終了後は1年延長できる(延長オプション)。
  • 解約オプションを行使しないことが合理的に確実と判断した。また、契約終了後1年間の契約延長することが合理的に確実と判断した。

<結論>

借手のリース期間は2年6カ月

借手のリース期間は2年6カ月

なお、借手のリース期間は、経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではなく、借手が行使する経済的インセンティブを生じさせる要因に焦点を当てて決定されるとされています。例えば、借手が原資産を使用する期間が超長期となる可能性があると見込まれる場合であっても、借手のリース期間は必ずしもその超長期の期間となるわけではなく、借手が延長オプションを行使する経済的インセンティブを有し、当該延長オプションを行使することが合理的に確実であるかどうかにより借手のリース期間を判断することとなります。

また、借手が特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行及び経済的理由が有用な情報を提供する可能性があるものの、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとされています。


6. 借手のリースの会計処理

(1) 使用権資産及びリース負債の計上

現行の企業会計基準第13号では、リース資産及びリース債務の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース契約締結時に合意されたリース料総額からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除する方法によるとされていました。

リース会計基準等では、<図3>のとおり、IFRS第16号の定めと同様に、借手は、使用権資産について、リース開始日に算定されたリース負債の計上額に、リース開始日までに支払った借手のリース料(以下、前払リース料)、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブ(借手に対する現金の前払い、移転費用などの借手に発生する費用の補填、又は借手が第三者と締結している既存のリースの貸手による引受けなどが考えられる)を控除した額により算定することとされています※1

また、リース負債の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース開始日において未払いである借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定することとされています。

そして、借手のリース料は、IFRS第16号の定めと同様に、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払いであり、<図3>におけるリース料の①から⑤のもので構成されるとされています。

図3 使用権資産及びリース負債の構成要素

図3 使用権資産及びリース負債の構成要素
出所:リース会計基準等を基にEY作成

※1 使用権資産の計上額については、現行の企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、企業会計基準適用指針第16号)における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法を踏襲せず、IFRS第16号と整合的に、借手のリース料の現在価値を基礎として算定することとされている。


(2) 利息相当額の各期への配分

リース会計基準等では、<表7>のとおり、原則的な取扱い及び簡便的な取扱いのいずれも現行のファイナンス・リースの定めと同様の取扱いとすることとされています。

表7 利息相当額の配分方法

原則的な取扱い

利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に利息法により配分する方法*1

簡便的な取扱い

使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合*2は、次のいずれかの方法を適用することが可能*3

① 借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法(利子込み法)。この場合、使用権資産及びリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する
② 利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法

*1 企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるファイナンス・リース取引に関する定め並びにIFRS第16号の定めと同様となっている。

*2 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高の、当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合をいうとされている。また、連結財務諸表においては、当該判定を連結財務諸表の数値を基礎として見直すことができるとされている。

*3 これらはIFRS第16号では設けられていない取扱いだが、実務の追加的な負担を軽減することを目的として企業会計基準適用指針第16号に定められたものであり、実務において浸透していることから、リース会計基準等においても、これらの簡便的な取扱いを踏襲することとされている。


(3) 使用権資産の償却

リース会計基準等では、<表8>のとおり、使用権資産の償却について、基本的に現行のリース資産の償却と同様の会計処理を行うこととされています。

表8 リースの種類別の償却方法

契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース

使用権資産の減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定し、この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とする

上記以外のリース

使用権資産の減価償却費は、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定し、この場合、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとする

また、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに該当するか否かの定めについては、一部を除き基本的に企業会計基準適用指針第16号における所有権移転ファイナンス・リース取引に該当するか否かの定めを踏襲し、次の場合をいうとされています。

① 契約期間終了後又は契約期間の中途で、原資産の所有権が借手に移転することとされているリース

② 契約期間終了後又は契約期間の中途で、借手による購入オプションの行使が合理的に確実であるリース

③ 原資産が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作又は建設されたものであって、当該原資産の返還後、貸手が第三者に再びリース又は売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース


(4) 短期リースに関する簡便的な取扱い

リース会計基準等では、現行の定め及びIFRS第16号の定めと同様に、借手は、短期リース(リース開始日において、借手のリース期間が12カ月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう。)について、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができるとされています。

(5) 少額リースに関する簡便的な取扱い

リース会計基準等では、次の①と②のいずれかを満たす場合について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認めるとされています。

① 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース

② 次のいずれかを満たすリース※1

  • 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しい(借手のリース料が300万円以下)リース※2
  • 新品時の原資産の価値が少額である(新品時に5千米ドル以下程度)リース

※1 会計方針の選択としていずれかを選択でき、選択した方法を首尾一貫して適用するとされている。

※2 当該方法は、企業会計基準適用指針第16号において定められていたリース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下であるかどうかにより判定する方法を踏襲することを目的として取り入れたものとされている。ここで、リース契約1件当たりの金額の算定の基礎となる対象期間は、原則として、借手のリース期間とするとされている。ただし、当該借手のリース期間に代えて、契約上、契約に定められた期間とすることができるとされている。


(6) リースの契約条件の変更

リース会計基準等では、「リースの契約条件の変更」について、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更(例えば、1つ以上の原資産を追加若しくは解約することによる原資産を使用する権利の追加若しくは解約、又は契約期間の延長若しくは短縮)と定義されています。

また、借手は、IFRS第16号の定めと同様に、リースの契約条件の変更が生じた場合、変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行うか又はリース負債の計上額の見直しを行うこととされています。なお、リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、これらの両方を行うことがあるとされています。

(7) 借手のリース期間に含まれない再リース

現行の企業会計基準適用指針第16号では、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する取扱いを定めていました。当該取扱いは、IFRS第16号では設けられていない取扱いとなっていますが、再リースは我が国固有の商慣習であり、当該取扱いを引き続き設けることにより、国際的な比較可能性を大きく損なわせずに、財務諸表作成者の追加的な負担を減らすことができると考えられることから、当該取扱いを踏襲した取扱いを認めることとされています。

具体的には、借手は、借手のリース期間の決定に関する定めに基づきリース開始日に再リース期間(再リースに関する取決めにおける再リースに係るリース期間)を借手のリース期間に含めていない場合又はリースの契約条項の変更の定めの適用((6)参照)において借手のリース期間の決定に関する定めに基づき直近のリースの契約条件の変更の発効日において再リース期間を借手のリース期間に含めていない場合、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことができることとされています。

なお、この取扱いを採用しない場合、借手においては、再リース期間は延長オプションの対象期間に含まれると考えられる旨が示されています。

※ 我が国の再リースの一般的な特徴としては、再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースが挙げられる。


(8) セール・アンド・リースバック取引

セール・アンド・リースバック取引の会計処理については、IFRS第16号ではなく、Topic842を参考に会計基準が定められました。なお、審議の結果、IFRS任意適用企業の個別財務諸表においてIFRS第16号と同様の会計処理を認める代替的な取扱いは定められないことになりました。

① セール・アンド・リースバック取引の対象

「セール・アンド・リースバック取引」について、「売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下、リースバック)する取引」と定義されています。ただし、リースバックが行われる場合であっても、売手である借手による資産の譲渡が次のいずれかであるときはセール・アンド・リースバック取引に該当しません。

  • 収益認識会計基準に従い、一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識会計基準第36項)の充足によって行われるとき
  • 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」第95項を適用し、工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択するとき

また、売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合、当該資産の移転と関連するリースバックについては、セール・アンド・リースバック取引に該当せず、リースとして会計処理を行うことになります。

② 基本となる会計処理

セール・アンド・リースバック取引における資産の譲渡が売却に該当するか否かで、<表9>のとおり異なる会計処理となります。

表9 セール・アンド・リースバック取引の会計処理

資産の譲渡が売却に該当する場合

売手である借手は、当該資産の譲渡について収益認識会計基準などの他の会計基準等に従い当該損益を認識し、リースバックについてリース会計基準等に従い借手の会計処理を行う

資産の譲渡が売却に該当しない場合

売手である借手は当該資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行う

③ 資産の譲渡が売却に該当するかの判断

以下の要件のうちいずれかを満たす場合には、資産の譲渡が売却に該当しないことになります。

  • 収益認識会計基準などの他の会計基準等に従うと、売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合
  • 収益認識会計基準などの他の会計基準等に従うと、売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するが、リースバックにより、売手である借手が、資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合


7. 借手の開示

(1) 借手の表示

借手の会計処理をIFRS第16号と整合的なものとする中で、借手の表示についても、<表10>のとおり、IFRS第16号と整合的なものとしています。

表10 借手の表示

使用権資産

次のいずれかの方法により貸借対照表に表示する

① 対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法
② 対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産又は投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法

リース負債

  • 貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する
  • 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする

リース負債に係る利息費用

損益計算書において区分して営業外費用に表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する

(2) 借手の注記事項

➀ 開示目的

近年に新たに開発された収益認識会計基準及び企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」で採用された注記事項に関する包括的な定めとして、リース会計基準でも開示目的が定められています。これにより、リースの開示の全体的な質と情報価値が開示目的を満たすのに十分であるかどうかを評価することを企業に要求することとなり、より有用な情報が財務諸表利用者にもたらされると考えられることから、リースに関する情報を注記するにあたっての開示目的(借手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と併せて、リースが借手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示すること)が定められています。

② 借手の具体的な注記事項

開示目的を達成するため、リースに関する注記として、<表11>の事項を注記します。

表11 借手の注記事項

 

注記事項

具体的な記載内容

借手の注記事項

会計方針に関する情報

リースに関して企業が行った会計処理について理解することができるよう、次の会計処理を選択した場合、その旨及びその内容を注記する

(ⅰ)リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行う選択
(ⅱ)指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料に関する例外的な取扱いの選択
(ⅲ)借地権の設定に係る権利金等に関する会計処理の選択

リース特有の取引に関する情報

リースが企業の財政状態又は経営成績に与える影響を理解できるよう、主に次の事項を注記する

(ⅰ)貸借対照表において、使用権資産の帳簿価額について対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合の表示科目ごとの金額等を区分して表示していない場合の注記
(ⅱ)損益計算書において、短期リースに関する簡便的な取扱いを適用し会計処理を行った場合における短期リースに係る費用の発生額が含まれる科目及び当該発生額等を区分して表示していない場合の注記
(ⅲ)セール・アンド・リースバック取引及びサブリース取引に関する注記

当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報

当期及び翌期以降のリースの金額を理解できるよう、次の事項を注記する

(ⅰ)リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額
(ⅱ)使用権資産の増加額
(ⅲ)対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとの使用権資産に係る減価償却の金額

全般事項
  • 開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができる
  • 注記を記載するにあたり、上記の注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はない
  • リースに関する注記を独立の注記項目とする。ただし、他の注記事項に既に記載している情報については、繰り返す必要はなく、当該他の注記事項を参照することができる
  • 上記に掲げる注記事項以外であっても、開示目的を達成するために必要な情報は、リース特有の取引に関する情報として注記する

8. 適用時期及び経過措置

(1) 適用時期

リース会計基準等では、適用時期について<表12>のように定められており、例えば3月末決算企業の場合は<図4>のようなスケジュールとなります。

表12 適用時期

原則適用

2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用

早期適用

2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用可


図4 適用時期のスケジュール(3月末決算企業の場合)

図4 適用時期のスケジュール(3月末決算企業の場合)

適用時期の検討にあたっては、次の点を踏まえ、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を2年半程度とし、早期適用を認めることとされています。

① これまでにASBJが公表してきた会計基準については、会計基準の公表から原則的な適用時期までが1年程度のものが多い。

② IFRS第16号の原則的な適用時期が2019年1月であり、また、Topic 842における公開企業の原則的な適用時期もほぼ同時期であったため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を長く設ける場合、我が国における実務が国際的な実務と整合的なものとなるまでの期間が長くなる。

③ リースの識別を始め、これまでとは異なる実務を求めることとなるため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間は1年程度では短い可能性がある。

④ 一方、リース会計基準等の適用開始に係る実務上の負担への対応として、我が国の会計基準を基礎とした場合に関連すると考えられるIFRS第16号の経過措置を取り入れていることに加えて我が国特有の経過措置を設けている。

(2) 経過措置

リース会計基準等では、会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間すべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとの経過措置が定められています。

この経過措置を適用する場合、借手は適用初年度においては、適用初年度の比較情報について、貸借対照表及び損益計算書において新たな表示方法に従い組替えを行わないこととされています。また、借手は適用初年度においては、借手の注記事項(前述の<表11>参照)は比較情報に記載せず、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に定める事項を記載することとなります。

主な経過措置は<表13>のとおり定められています。

表13 主な経過措置

➀ リースの識別に関する経過措置

  • 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期末日において企業会計基準第13号を適用しているリース取引に、契約にリースが含まれているか否かを判断することを行わずに会計基準を適用することができる
  • 適用初年度の期首時点で存在する企業会計基準第13号を適用していない契約について、当該時点で存在する事実及び状況に基づいて、契約にリースが含まれているかどうかを判断することができる

② 借手に関する主な経過措置(一部)

  • ファイナンス・リース取引に分類していたリース
    適用初年度の前期末日におけるリース資産及びリース債務の帳簿価額のそれぞれを、適用初年度の期首における帳簿価額とすることができる。このとき、適用初年度の前期末日におけるリース資産及びリース債務の帳簿価額に残価保証額が含まれる場合、当該金額は、適用初年度の期首時点における残価保証に係る借手による支払見込額に修正する。これらのリースについては、適用初年度の期首から会計基準を適用して使用権資産及びリース負債について会計処理を行う。この方法はリース1件ごとに適用することができる
  • オペレーティング・リース取引に分類していたリース等
    次のとおり会計処理することができる。なお、その適用にあたっては簡便的な方法の適用が認められている(リース適用指針第124項参照)
    (ⅰ)リース負債について初度適用日における残存リース料と追加借入利子率を使用して割引計算した現在価値で計上できる
    (ⅱ)会計基準がリース開始日から適用されていたかのような帳簿価額又は(ⅰ)で算定されたリース負債と同額のいずれで算定するかを選択して使用権資産を計上する
    (ⅲ)初度適用日の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」(企業会計審議会)を適用する
    (ⅳ)少額リースに関する簡便的な取扱いにより使用権資産及びリース負債を計上しないリースについて修正しない

③ IFRSを適用している企業に関する経過措置

IFRSの経過措置又は初度適用の免除規定を適用し、IFRSの数値を個別財務諸表に適用できる(ただし、連結内で相殺消去されていたリースに各種の経過措置を適用することができる)




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