EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 児島 悠太
2008年に当法人に入社後、主に食品製造業や石油業の会計監査と内部統制監査に従事。税務研究会が発刊する「週刊経営財務」にも寄稿している。
税効果会計は実務上、さまざまな論点がありますが、今回は繰延税金資産の回収可能性を判断する中で、間違いやすいと思われる3つの論点について解説します。
税効果会計の開示は、経営者の将来の利益水準に関する予測を読み取ることができる重要な情報と考えられます。例えば、税効果会計の注記では、将来の予算、利益計画等を反映した課税所得等による回収可能性が十分ではないと経営者の判断したものが評価性引当額として表現されており、経営者が想定する将来の利益水準を推測することが可能な情報として位置付けられると考えられます。また、税効果会計で計上された利益は会社のいわゆる配当可能利益にも影響するため、会計処理についての会社の関心も高く、会計監査の観点でも重要な監査項目となる頻度は高いです。このため、毎年、年度末の決算に向けて企業の分類、将来の課税所得の見積り、将来減算一時差異のスケジューリングについて多くの議論がなされています。
本稿では、監査実務を行う中で、その取扱いが議論になったことのある論点①税効果会計における課税所得の見積り(IFRSとの基準差異含む)②(分類5)に該当する場合の繰延税金資産の回収可能性③グループ通算制度の税効果会計の留意点を取り上げています。なお、文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)第3項(9)において企業の分類の要件に利用される「一時差異等加減算前課税所得」が次のように定義されています。
「一時差異等加減算前課税所得」とは、「将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額をいう」。
文章だけですと分かりにくい面もあると思われるため、計算例を示したいと思います。
計算例において、毎期加減算される項目の賞与引当金が一時差異等加減算前課税所得の算定にどのように影響しているかが分かると思います。X2年3月期の税務上の課税所得を計算する場合は、当期末残高である将来減算一時差異の賞与引当金(100)の減算分も含めて(410-100=310)と計算されると考えられますが、一時差異等加減算前課税所得の場合は、「当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額」を除く必要があるため、賞与引当金の減算分は除き、結果として税引前当期純利益の予測300に翌期の賞与引当金の加算分110を加えた410が一時差異等加減算前課税所得として計算されます。X3年3月期は「当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額」が存在しない(当期末に存在している賞与引当金はX2年3月期で解消済である)ため、税引前当期純利益に賞与引当金の加減算を考慮して計算されます。
一時差異等加減算前課税所得は、企業の分類の判定時にも影響します。例えば翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる場合で、(分類4)のいわゆる反証規定を利用する場合、回収可能性適用指針第28、29項において、「一時差異等加減算前課税所得」の将来の発生額を前提に企業の分類を検討することになります。税務上の課税所得と捉えて検討した場合には要件を満たさない場合でも、「一時差異等加減算前課税所得」を前提として検討した場合には要件を満たす場合もあると思われますので、慎重に計算を行う必要があります。
最近はIFRS適用会社も増加してきており、IFRSにおける税効果会計上の課税所得の見積りについても補足しておきたいと思います。IFRSでは、将来発生する将来減算一時差異は課税所得の見積計算上考慮しません(IAS第12号「法人所得税」第29項(a)(ⅰ)(ⅱ))。つまり、将来発生する将来減算一時差異(課税所得上加算)は翌期(以降に)税務上減算されるため、結果的に当期の将来減算一時差異を回収するための課税所得が生じていないと考えることになります。先に挙げた設例で説明すると、X2年3月期で加算される賞与引当金110については、X3年3月期で減算される性質のものであるため、将来減算一時差異を回収するための源泉とはなりません。このため、IFRSにおける税効果会計上の課税所得の見積りはX2年3月期300、X3年3月期250となります。
回収可能性適用指針第31項において、「(分類5)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものとする」との記載があるため、(分類5)の要件に該当している企業の場合は繰延税金資産を計上できないと考えている方もいらっしゃると思います。
繰延税金資産の回収可能性の判断の手順を確認すると回収可能性適用指針第11項において、次のとおり定められています。
(1)期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリング
(2)期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリング
(3)(1)(2)でスケジューリングした一時差異を解消見込年度ごとに相殺
(4)(3)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異((3)で相殺後)の解消見込額と相殺
(5)(1)から(4)により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺
(6)(5)で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額((5)で相殺後)と相殺
(7)(1)から(6)により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はない
回収可能性適用指針第31項において繰延税金資産の回収可能性がないとされているのは、(5)における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額との比較における回収可能性に関してであり、(1)から(4)の段階で将来加算一時差異と相殺できるのであれば、企業の分類にかかわらず回収可能性があると判断できるため、(分類5)に該当する企業であっても、繰延税金資産を計上することになります。
例えば、資産除去債務に対応する除去費用を固定資産に計上しており、将来加算一時差異が存在するケースにおいては、減価償却により解消する将来加算一時差異と相殺される将来減算一時差異については、回収可能性があるものとして、繰延税金資産が計上されます。他にも、企業の年金制度において、退職給付債務を年金資産が上回っている場合に計上される前払年金費用も将来加算一時差異のスケジューリングが可能な場合もあります。前払年金費用は掛金拠出により増加する一方で、退職給付費用の計上により減少するケースが多いと考えられるため、将来の退職給付費用を合理的に見積ることができる場合には、退職給付費用の計上の部分が将来加算一時差異の解消としてスケジューリングされることになります。
一例として資産除去債務に対応する除去費用を考慮した繰延税金資産の回収可能性の判断例を以下に示したいと思います。
この例において、企業の分類は(分類5)ではあるものの、X3年3月期に資産除去債務の将来減算一時差異と資産除去債務に対応する除去費用の将来加算一時差異を相殺することができるため、将来減算一時差異のうち、20については回収可能性があるものとして考えることができます。
2022年4月1日以後開始する事業年度より、税制が見直され、連結納税制度からグループ通算制度へ移行されています。グループ通算制度は、各通算法人が修正申告を実施する必要がある場合でも、原則として他の通算法人には影響を与えることはありません。この点から、グループ通算制度は連結納税制度下で申告後の修正申告や税務調査における事務負担が大きかった点に配慮した制度です。
当該グループ通算制度の税効果会計については、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、実務対応報告第42号)が適用されます。適用の注意点としては、実務対応報告第42号第3項で記載のある「本実務対応報告は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については取り扱っていない」点です。通算税効果額の授受を行っていれば、基本的には従来の連結納税制度での税効果会計と同様に考えられます。通算税効果額の授受を行わない場合については、会計方針を定めた上で実務対応報告第42号第38項に従って、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の会計方針の注記等を行う必要があるものと考えられます。連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取り扱い(その2)」(以下、連結納税制度における実務対応報告第5号等)の会計処理及び開示に関する取扱いを実務対応報告第42号は踏襲しています。今回は従来の連結納税制度においても注意が必要であった税金の種類、グループ通算制度における企業の分類について説明します。
連結納税制度のときと同様に、グループ通算制度においても法人税及び地方法人税が対象となっているため、対象とされていない住民税及び事業税については、法人税及び地方法人税とは区別して税効果会計を適用することとしています。
そのため、グループ通算制度において、繰延税金資産の回収可能性を検討する際にも、法人税及び地方法人税部分と住民税及び事業税部分を区別して計算する必要がありますが、繰延税金資産の回収可能性が法人税及び地方法人税と事業税とで異なる場合又は繰延税金資産の回収可能性が住民税と事業税とで異なる場合で、かつ、回収可能性が異なることによる重要な影響がある場合には、その影響を考慮した税率で繰延税金資産の計算を行います。
また、住民税の税額計算はグループ通算制度によって算定された法人税額からグループ通算制度による影響を控除して算定するため、これを考慮して繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことになります。
繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類については、単体納税制度の考え方を基礎として、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位(通算グループ全体)の分類」と「通算会社の分類」をそれぞれ判定した上で、単体上の回収可能性の判断においては、<表1>のように上位の分類に応じて将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことになります。「通算グループ全体」の分類と「通算会社」の分類については、1.にも記載のとおり、グループ通算制度の対象となる法人税及び地方法人税に係る部分についてのみです。
このため、例えば「通算会社」の(分類4)、属している「通算グループ全体」の(分類3)となる会社が存在した場合、個別財務諸表において、法人税及び地方法人税部分についてはグループ通算制度を考慮しなかった場合よりも回収可能額が増加し、繰延税金資産の金額が大きくなる可能性があります。
一方、連結財務諸表全体で検討する際には、通算グループ全体の企業の分類での回収可能性を判断する必要があり、課税所得の見積額が多額のマイナスになる会社がある場合等に連結財務諸表全体で計上される繰延税金資産の金額が個別財務諸表で計上される繰延税金資産の合計額より小さくなるようなケースもあります。このため、連結財務諸表全体で見直すことも忘れないようにすることも重要です。連結財務諸表全体で見直すという観点では、「Ⅲ.(分類5)に該当する場合の繰延税金資産の回収可能性」の中で説明した、将来加算一時差異と将来減算一時差異の解消の検討は同様であり、個別財務諸表上で相殺されていない場合には、通算グループ全体の将来加算一時差異の解消と通算グループ全体の将来減算一時差異の解消を相殺して、通算グループ全体で繰延税金資産の回収可能性を判断することも忘れずに検討することが必要です。
企業の分類の判定についてまとめると<表1>のようになります。
税効果会計の間違いやすいポイント3選について解説しました。税効果会計の検討を実施する際には、本稿も参考にしていただけると幸いです。
(注)この記事は「週刊 経営財務」(税務研究会)2023年1月23日号に掲載された「経理実務最前線! Q&A 監査の現場から」を一部編集し、掲載しております。
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