情報センサー

都市再開発事業において必要とされる法律・会計・税務・資産評価の理解


情報センサー2021年8月・9月合併号 業種別シリーズ


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 不動産セクター 不動産鑑定士 平井清司

市街地再開発事業に関するアドバイザリー、不動産鑑定評価、機械設備等の動産評価、空港や地方公社等の民営化関連アドバイザリー、商業施設等のフィージビリティスタディ等の業務に従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)アソシエートパートナー。


Ⅰ はじめに

再開発事業はさまざまな利害関係者を満足させながら、駅前商業地の衰退、建物の老朽化、耐火性の欠如といった、わが国が抱える都市問題を解決する有力な手段として定着してきました。しかし、再開発されたオフィスや商業施設の華々しい開業の裏には、長期にわたる地道な話し合いやその結果としてさまざまな利害関係者との調整があります。再開発事業の推進に当たっては、権利者、借家人、行政、不動産デベロッパーといった多岐にわたるステークホルダーとWin-Winな状態を構築できる仕組みを形成することが重要であり、そのためには都市開発法をはじめとした法律、会計・税務、資産評価それぞれの理解が不可欠です。

Ⅱ 法律の理解

都市再開発の手法としては、主に市街地再開発事業と土地区画整理事業があります。両者の大きな相違点は、市街地再開発事業は、宅地の立体化を行うため権利変換処分または管理処分により、土地および建築物を新たな建築物の一部等に変換し(<図1>参照)、土地および建物を一体的に整備する事業であるのに対し、土地区画整理事業は、従前の権利関係について同一性を保ちつつ土地の交換分合を行う事業で建築物を対象としない点にあります。いずれの事業においても、施行区域の従前権利者の権利が不当に害されることがないように、市街地再開発事業においては「均衡の原則」、土地区画整理事業においては「照応の原則」といった法理に基づいている点の理解が重要となります。


Ⅲ 会計・税務の理解

代表的な事業手法である第一種市街地再開発事業の場合、権利者および借家人には次の選択があります。

権利者

  • 権利変換を受ける
  • 地区外転出申出により金銭給付を受ける
  • 一部権利変換、一部転出

借家人

  • 従後建物に借家継続する
  • 借家権消滅希望の申出により転出する

いずれの選択肢においても、市街地再開発事業の目的が「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ること」であるため、再開発事業の円滑な推進に当たり、再開発後においても権利者や借家人に不利益が生ずることがないことが一つのポイントとなります。この観点において、税制上は市街地再開発事業に関連して、圧縮記帳のほか、法人税、消費税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税などについて各種優遇制度が設けられています。一方、会計は企業活動の実態を表すものでなければならないため、例えば、既存の土地建物といった経営資源が当該再開発へどのような目的で投入されるかにより、会計上の考え方が異なり、都市再開発法に基づく市街地再開発事業の場合、既存の土地建物が権利床に変換されるため投資が継続しているとの考えに基づいた会計処理がおこなわれます。したがって、再開発を税制の面から後押しすることが目的である法人税法の考え方との違いに留意する必要があります。

また、市街地再開発事業推進の財源には、地方自治体からの補助金交付のほかに保留床処分がありますが、保留床を取得するデベロッパーは、当該資産の棚卸資産や固定資産の評価に関する会計基準の理解が重要となります。市街地再開発事業は大規模で長期にわたる場合が多く、開発期間中の経済情勢の変化等により、リーシング計画の変更や工事金のコストオーバーランが生じます。この場合、会計基準に照らし、状況に応じた適時かつ適切な評価の見直しが必要となる点に留意を要します。

Ⅳ 資産評価の理解

第一種市街地再開発事業では、初期段階おいて事業の採算性の把握及び資金計画案の作成のため、また、権利変換計画作成段階において、従前資産に見合う従後資産の配分の決定のため、従前資産と従後資産の評価が行われます。権利者が権利変換を希望せずに地区外に移転を希望する場合には、従前資産の評価額により補償金が支払われることから、各ステークホルダーにとって資産評価の理解は重要です。

Ⅴ おわりに

新型コロナウイルス感染症をきっかけとして、再開発ビルの主要な用途であるオフィスの在り方が変わろうとしています。<図2>の通り、3大都市圏におけるオフィス空室率が上昇の兆しを見せていることからも、オフィスはこれまでのような労働スペースとしての機能だけでは世の中のニーズを満たせない時代に入りつつあるのかもしれません。


市街地再開発事業においては、本稿で述べた法律、会計・税務、資産評価以外にも、資金調達方法、環境リスク、行政当局対応など広範な領域における理解が必要となりますが、特に今後においては、働き方改革、少子高齢化、持続可能な社会といった側面の理解も、ステークホルダー間でWin-Winな関係を構築する上で重要となってくるものと思われます。

なお、本稿の詳しい内容については『都市再開発の法務・会計・税務・権利変換の評価』(中央経済社)において記載されていますので、ぜひご参照ください。

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2021年8月・9月合併号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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