情報センサー

市場販売目的のソフトウェアおよび自社利用のソフトウェアの会計処理


情報センサー2021年6月号 企業会計ナビダイジェスト


EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 河村正一

監査部門に所属し、上場会社を含む消費財、ソフトウェアおよびサービス産業の監査業務に従事する傍ら、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報のコンテンツの企画・執筆に携わっている。


今回は企業会計ナビのトピックスのうち「解説シリーズ『ソフトウェア』第4回:市場販売目的のソフトウェアの会計処理、第5回:自社利用のソフトウェアの会計処理と財務諸表の開示」を紹介します。

Ⅰ ソフトウェアの分類

ソフトウェアは、取得形態(購入か自社開発か)に応じてではなく、制作目的に応じて<表1>の3分類に区分され、それぞれの会計処理が定められています。

表1 ソフトウェアの分類

なお、受注制作のソフトウェアは、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用の収益認識に関する会計基準等※により処理されます。

Ⅱ 市場販売目的のソフトウェアの会計処理

1. 研究開発の終了時点の判断基準(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(会計制度委員会報告第12号)(以下、実務指針)8項)

市場販売目的のソフトウェアの制作費用のうち、「最初に製品化された製品マスター」の完成時点までの制作活動は研究開発と考えられます。従って、ここまでに発生した費用は研究開発費として処理し、その後に発生したものについては基本的に無形固定資産として資産計上されることになります。

「最初に製品化された製品マスター」とは、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスターのことであり、具体的には次の2点によってその完成時点を判断します。

  • 製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成していること
  • プロトタイプを制作しない場合は、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消していること

2. 研究開発の終了後に発生した費用の会計処理(実務指針34項)

研究開発終了後、すなわち「最初に製品化された製品マスター」の完成後に発生した費用は、その内容によって<表2>のとおり会計処理が分かれます。(a)製品マスター等の改良・強化に要した費用については、ソフトウェアの資産価値そのものを高めるため無形固定資産に計上され、(d)製品としてのソフトウェア制作原価は棚卸資産として資産計上されますが、それ以外((b)(c))については費用処理される点にご留意ください。

表2 研究開発終了後の発生費用の会計処理

3. 市場販売目的のソフトウェアの償却

市場販売目的のソフトウェアについては、<表3>のとおり合理的な方法により減価償却を行います(実務指針18項)。

表3 市場販売目的のソフトウェアの償却

また、販売期間の経過に伴い販売価格が下落するなど、各年度末の未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回る場合が想定されますが、このような場合には当該超過額を一時の費用又は損失として処理する必要があります(実務指針20項)。

このように市場販売目的のソフトウェアについては、減損に類似した会計処理が規定されていることから、減損会計基準の適用対象外とされています(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」6項)。

Ⅲ 自社利用のソフトウェアの会計処理

1. 取得費・制作費の会計処理

(1) 資産計上と費用処理の判断基準

自社利用のソフトウェアについては、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合に無形固定資産として資産計上し、確実であると認められない場合や確実であるかどうか不明な場合には費用処理することとしています。ソフトウェアが資産計上される場合の例示は次のとおりです(実務指針11項)。

  • 通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより、会社が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得る場合
  • 自社で利用するためにソフトウェアを制作し、当初意図した使途に継続して利用することにより、利用する前と比較して会社の業務を効率的又は効果的に遂行することができると明確に認められる場合
  • 市場で販売しているソフトウェアを購入し、かつ、予定した使途に継続して利用することによって、会社の業務を効率的又は効果的に遂行することができると認められる場合

(2) 資産計上の開始時点

資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑(しょうひょう)に基づいて決定します。立証できる証憑の具体例としては、ソフトウェアの制作予算が承認された社内稟議(りんぎ)書、ソフトウェアの制作原価を集計するための制作番号を記入した管理台帳等が挙げられます(実務指針12項)。

なお、ソフトウェアの制作開始時点においては、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められず費用処理していたものの、その後一定時点で将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められた場合には、その一定時点以降に発生した制作費についてソフトウェアとして資産計上することとなります(過去に費用処理された部分については資産計上しません)。

(3) 資産計上の終了時点

資産計上の終了時点は、実質的にソフトウェアの制作作業が完了したと認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑に基づいて決定します。立証できる証憑、例えば作業完了報告書や最終テスト報告書等に基づき決定します(実務指針13項)。

2. 自社利用のソフトウェアの償却(実務指針21項)

自社利用のソフトウェアについては、その利用の実態に応じて最も合理的な減価償却の方法を採用すべきとされていますが、一般的には<表4>のように定額法が合理的とされます。この理由は、市場販売目的のソフトウェアと比較すると、収益との直接的な対応関係が希薄な場合が多く、物理的な劣化を伴わない無形固定資産の償却であるためです。

表4 自社利用のソフトウェアの償却

また、市場販売目的のソフトウェアのように特段の規定がないことから、自社利用ソフトウェアについては減損会計基準の適用対象とされます。

※ 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

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