ASEANで最も再生エネルギー投資に適した国は?

ASEANで最も再生エネルギー投資に適した国は?


情報センサー2020年10月号 Trend watcher


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Strategy 安藤雄哉

2012年よりEYに参画し、主にインフラセクター、保険セクターを担当。市場調査、戦略策定、コマーシャル・デューデリジェンスなどのサービスを通して、企業が進むべき方向性/企業の投資判断を支援している。EYパルテノン ディレクター。

Ⅰ 投資成功率3割

環境への配慮、化石燃料へのファイナンスの制限、中東のオイルへの依存回避などにより、再生エネルギー電源への投資が世界中で活発化しています。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国においては旺盛な電力需要があり、世界で最も再生エネルギー投資が活発化する地域の一つになるでしょう。
一方で、これまでASEANにおける再生エネルギー投資は、成功率が3割ともいわれ、数多くの投資家が期待通りのリターンを獲得できていません。

 

Ⅱ 投資対象国をどう選ぶか?

ASEAN各国は、類似した国の集合体と見なされることもありますが、実際は全く異なる特徴の国の集合体です。国ごとの仕組みや市場を理解し、どの国を投資対象と見なすかが、投資を成功させる上で重要なポイントとなります。(<図1>参照)

1. マクロ環境

電力は国のインフラそのものです。外資の資金やノウハウを活用してインフラの整備を進めようとしているのか、外資に対しても内資と平等に扱う姿勢があるのか、政府の姿勢を問う必要があります。
ASEANではドル払いやドルペッグ制の案件は、ほとんどなくなってきています。電力需要が旺盛な地域ほど、為替リスク、兌換(だかん)リスク、送金リスク等が存在し、その影響度などを見極めなければなりません。

2. バリューチェーン

特に送配電網の整備状況を確認します。送配電網が脆弱(ぜいじゃく)なため、発電設備を設置できても売電ができない国も存在します。また、日本とは異なり、送配電網を自ら設置するケースが多く、投資コストや開発スケジュールの予測が難しくなります。

3. 市場環境

ASEANにおいて、投資家は成長の取り込みを強く意識しています。一定規模の電力需要が存在し、将来においても大規模な開発計画がある国への投資が優先されるでしょう。
また、固定価格買取制度(FIT)や電力販売契約(PPA)の制度が整っていることも極めて重要です。FITについては、仕組みがあっても募集がないケースがあるため、注意が必要です。PPAについては、国によって契約内容が曖昧な場合があるため、中身まで踏み込んで、検討しなければなりません。

4. 顧客動向

電力の購入者であるオフテイカーの財務状況にも注意する必要があります。政府が電力料金を低く設定しているため、十分な収益を得られていない国も存在します。
自由化がそれほど進んでいない国の国営企業などは、交渉相手として非常に難しい場合があるため、事前の調査が必要です。

5. 競争環境

ここでは、外資企業の参入状況を把握します。実際に外資系企業が参入できていなければ、何らかの制約が存在するはずです。
また、競争の厳しさの確認も重要です。例えばマレーシアの再生案件は好条件ですが、入札者が多すぎるため、参入のハードルが高くなってしまっています。

6. 参入戦略

一般的に投資対象として魅力的な国があったとしても、自ら投資目線にあった案件がなければ、実際に投資に至りません。どのような案件が、短期的または中期的に出てくるかを抑えておく必要があります。

 

Ⅲ 誰と組むべきか?

現地の開発情報をいち早く入手出来るのは、普段から監督官庁や旧国営企業と関係の深い現地パートナーです。複雑な許認可の取得も現地パートナーにしかできないケースがあります。土地の収用においてはさらに難易度が上がり、現地パートナーでないと交渉すらできません。ジャングルで送電網を設置する場合、酋長との交渉などが必要になってくるのです。
世界中で投資活動を活発に行っている商社ですら、現地で単独で案件を組成するのに相応な年月を必要とします。
ただし、いきなり現地パートナーを探すのは困難を極めます。現地の実績、評判、投資方針などの情報を取得し、本当に信頼できるパートナーか否かを短期間で判断することができないからです。適切なパートナーを選べず、不利な条件で投資契約を結ぶ事態を避けるため、知見を獲得しながら、現地パートナーとの協業を模索していくことを推奨します。日本の大手電力会社も、かつてはこのようなステップを歩むことでさまざまな現地パートナーとの投資を実現しています。(<図2>参照)

Ⅳ 案件収支を左右するリスクとは?

金融機関や投資家は、ASEANにおける再生エネルギー領域において、一般的に高い利回りを求めます。欧米と比較して、リスクが多岐にわたるからです。
特に、金融機関や投資家が気にするのは、B. 通貨リスク、D. 契約リスク、E. オフテイカーリスク、F. 完工・許認可リスク、G. パートナーリスクです。これらのリスクファクターを総合的に勘案して、適切なリターン水準を割り出しているのです(<図3>参照)。

Ⅴ 今後注目される国はどこなのか?

ASEANの中で、これまで再生エネルギー電源への投資が積極的に行われてきたのは、自由化や制度設計が進んだタイやフィリピンです。これらの2カ国は今後も有望な市場ではあるものの、大型案件を組成することは今後難しいのではないでしょうか。
一方で、中長期的に有望視している国をさまざまな投資家や金融機関にインタビューを行った結果、ベトナムとインドネシアの名前が多く挙がりました。
ベトナムは、電力需要が旺盛で供給が追い付いていません。建設中の火力発電所もスケジュールが大幅に遅れており、南部は電力不足の懸念もあります。一方で、PPAの内容の曖昧さ、脆弱な送配電網、通貨リスクなどの課題が想定されます。
インドネシアもベトナムと同様、旺盛な電力需要があり、FITも形成されるのではないかといわれています。しかし、頻繁に変わる制度、オフテイカーのリスク、低い売電価格の水準、送配電網への接続リスクなどの課題も存在し、その影響を見極める必要もあります。

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2020年10月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。