EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
FAAS事業部 公認会計士 下田岳晴
2007年入所。東京事務所およびEYロンドン事務所にて、大手総合電機メーカーや外資系企業に対する会計監査業務や決算支援業務を経験。現在は、IFRS導入や、クロスボーダーIPOおよびクロスボーダーM&Aに関連した財務会計アドバイザリー業務を中心に従事している。当法人 シニアマネージャー。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、企業にも前例のない規模の影響を与えています。予期していなかった企業活動の停止や制限は、多くの企業の売上やサプライチェーンを始めとする各分野に多大な影響を与えました。COVID-19に応急的に対応していく中で、多くの企業で今までは目立たなかった課題が顕在化しました。
感染拡大に伴う出社の自粛などに対応し、リモートワークの必要性に気付いた企業は多いのではないでしょうか。しかし、現状では十分に対応できたといえる企業は例外的だといえます。リモートワークの前提となる、ノートPCの対象者への貸与と社内イントラネットへの接続環境、ペーパーレスや電子契約への移行も発展途上なケースが多いからです。結果として、多くの企業では、出社せざるを得なかった従業員の健康面・安全面での不安や、決算・会計監査・開示の遅れにつながりました。
財務面では、子会社ごとに資金管理がされる一方で、子会社の運転資金の状態を本社サイドで適時に把握できないケースでは緊急時の資金繰りに問題が生じ、子会社の資金が枯渇するなど、グローバルでの資金管理面の課題が顕在化した企業も多くあるのではないでしょうか。
業績予測の面では、COVID-19による将来の影響を織り込むことが難しく、3月決算の約400社もの上場企業が進行期の業績予測の開示を見送ることになりました(2020年6月11日時点)。このことは、業績予測の下方修正の場合と比較しても、投資家からは厳しい評価を受ける傾向にあり、株価の下落を引き起こしました。また、過去実績に対する比較で予算作成することを重視している企業では、次のアクションプランの策定に時間がかかり、COVID-19のネガティブな影響を早期に解消しづらい状況もあるものと思われます。
これらの顕在化した課題は、日本企業のデジタル化の遅れに大きく関わっているといえます。デジタル技術導入に積極的な欧米企業においては、これらに柔軟に対応し、経理財務機能への影響を限定的にとどめることができている事例も少なくありません。
今回のCOVID-19の感染拡大をきっかけに課題が顕在化したことで、リモートワークを一例としたデジタル化は徐々に進展し、経理財務部門に次のような変化をもたらすと考えられます。
<図1>のように、取引の処理や記録、定型的な報告資料・開示情報作成といった業務は、自動化ツールが一般的となることで縮小してくことが見込まれます。これらは、ルールベース・反復作業というルーティン化に最も適した業務といえ、デジタル化によるコスト削減効果が高いためです。また、財務会計や管理会計で必要となる資料作成に必要な分析も、さまざまな部分で自動化が進むとみられています。そのため、見積りや予測を含む高度な思考が必要とされる部分にのみ人的リソースを投入することで効率化する余地があると考えられます。これらの業務で削減されたリソースは、グローバル資金管理をはじめとしたグループ・ガバナンス、リスクマネジメントの強化、Forecast重視の業績予測、非財務情報の充実、M&Aやノンコア事業のアウトソーシング推進といった経営資源配分の戦略立案に活用していくことが期待されます。もともとデジタル化により代替される機能が多いといわれていた経理財務部門が、このような方向で進化するのは必然といえるのでしょう。
COVID-19影響下のような将来の不確実性が高く、前提が大きく変化する状況では、過去の実績やルールを基にした経営管理や将来予測では、経営判断を誤らせる場合が生じるため、従来型のPDCAループによる経営管理は見直しが必要となります。VUCA(Volatility変動・Uncertainty不確実性・Complexity複雑性・Ambiguity曖昧さ)に示される経済環境の予測困難な状況においては、その場、その時点における状況把握と意思決定が重視されるため、PDCAループからデジタル技術を取り入れたOODAループへの転換が進むでしょう(<図2>参照)。今後、経理財務部門は、デジタル化による業務の自動化・省人化の進展に伴い、将来予測や戦略立案等のビジネス領域への関与にシフトすることで、CEOや事業責任者の良きビジネスパートナーとなることが求められています。
これまで述べた、経理財務部門の現状と将来目指す役割から、アフター・コロナを見据えた対応策は、<図3>のように現在(NOW)、短期(NEXT)、中長期の将来的なターゲット(BEYOND)というタイムラインに分けて考えることができます。直近では資金の確保や雇用の継続による事業継続が重視されていますが、その後は、現状の課題を優先度に応じて解決していく段階になります。そして将来的には、不確実性が高い環境に柔軟に対応できるように、デジタル技術をフル活用したForecast重視の経営へシフトしていくと考えられます。アフター・コロナの時代は、デジタル技術の活用を通じて事業をより正確に見通すことが可能となり、今まで以上にCEOや事業責任者の意思決定や経営行動を支援し、企業価値向上に強く貢献するCFO組織に変革していく好機であるといえます。