EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 大場弘之
事業会社における海外子会社経営、グローバル事業企画、事業開発、投資銀行におけるM&Aアドバイザリーの経験に基づき、日本企業の事業ポートフォリオの見直し、国内外子会社の再建等のプロジェクトを支援。オペレーショナル・リストラクチャリング シニアマネージャー。
企業は、事業を強化、拡大する過程において、国内外に多くのグループ会社を抱えています。本社においては、その各グループ会社(特に海外子会社)のガバナンスの強化、財務指標をはじめとする経営指標の見える化、これらを基にしたパフォーマンスの改善などが課題となっています。グループ会社側では、時に本社から要求されるレポーティングの多さ、複雑さへの対応に時間を割かざるを得ない状況に陥ることも散見されます。
こうした状況を解消するために、透明性の高い、より多面的な経営管理、評価アプローチが求められています。
グループ会社の評価では、毎四半期、毎月というように定期的に管理会計でレポートされる数字や設定されたKPIのモニタリングが行われています。ギャップが生じた場合にはその理由を把握し、できるだけ早期に次の手だてを講じることが大きな目的の一つです。しかし、それでもある日突然、あるグループ会社で思わぬ状況が発生し、経営の危機に直面する経験を有する企業も多くあります。
市場の環境変化が速くなっている中、<図1>に示しているように、それぞれのグループ会社の経営状況は十分にコントロールされているのかどうか、「価値創造」「価値の保全」、あるいは「価値の回復」のどのステージにあるのかを評価することが重要です。経営パフォーマンスが向上していれば、さらなる「価値創造」、事業拡大等に向けた施策を推し進めることができます。パフォーマンスが踊り場を迎えた、その兆しが見えたのであれば、「価値の保全」に向けて財務体質の改善や業務改革を加速することでしょう。しかし、その踊り場や兆しを見落とすと、一気に状況のコントロールが効かなくなります(<図1>×印)。「価値の保全」を行い<図1>の点線に示すような上昇気流に乗ることができた可能性があったにもかかわらず、「価値の回復」に向けた大幅なリストラクチャリングをせざるを得ない状況に陥ることになります。より多面的に精査することで、それぞれのグループ会社の立ち位置を確認することができます。
経営を評価する視点をどこに持つか、企業の生い立ちを考えると分かりやすいのではないでしょうか。事業のシーズを見いだした経営者は、まずその製品やサービスの市場規模、価格など市場性を検討するでしょう。事業を始めると、仕入れ、製造、販売等の経費管理が必要となり、事業のアウトプットとして売上、利益等の財務数値をチェックします。また、一人で全てを担うことはできないので、各機能を任せる人材の確保、人事制度の整備を行います。自身の後継者を含め、サクセションプランニングも重要になります。リスク管理の重要性も高まり、事業継続計画(BCP)の制定、ERPの導入、内部監査の実施等も検討されることでしょう。つまり、市場性、財務、人事、リスクの四つの大きな評価軸、経営を評価することが重要ではないかと考えます(<図2>参照)。
実務的には、<図2>に示すように、4軸を各社の状況に応じてさらに分解し、主要評価項目を決定していきます。何を指標にするべきか、という課題を有しているケースもあり、その際にはグループ会社管理を担当する部門内でのWorkshopの開催等を通じて、評価指標の設定検討を行います。
通常、評価項目の多くは数字として把握できることが多く、各項目は過去からのトレンドで評価されることもありますが、ベンチマーク企業を選定し比較することも有用です。
数字として見る評価項目としては、売上高成長率、価格の推移、利益率、販管費率等が該当します。原価低減施策を強化したい、販管費率を下げたい等、着目するべき指標が定まっている場合には、その評価に必要な指標をより細かく設定していくことになります。
数字で評価することが難しい項目、例えば、サクセションプランやBCPというような項目については、外部コンサルタントが有する知見を活用することが推奨されます。EYでは、質問票を活用し、それぞれの分野のエキスパートによる成熟度分析を行っています。
この4軸の評価により、グループ各社の改善点、成長機会を見える化することが可能となります。実行可能な計画への落とし込み、そのモニタリングもより効果的になるでしょう。
また、同じ評価軸を活用することで、異なる事業のグループ会社を同じ土俵で評価することも可能となります。どの事業のどの子会社のポテンシャルをいかに最大限に引き出せるか、その戦略構築に役立つはずです。透明性の高い評価を施すことは、本社と各グループ会社とのコミュニケーションの円滑化にも有用です。多様なステークホルダーへの説明にも活用できるのではないでしょうか。