新型コロナウイルス感染症に係る税制上の措置

新型コロナウイルス感染症に係る税制上の措置


情報センサー2020年8月・9月合併号 押さえておきたい会計・税務・法律


公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。


Ⅰ  はじめに

新型コロナウイルス感染症は経済活動にも大きな影響を及ぼしています。こうした事態を受けて、税務の分野でも、企業の負担を軽減するためにさまざまな施策が実施されています。本稿では、税務上の中小企業者でない法人においても適用できる措置を中心に解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

 

Ⅱ 自社が影響を受けている場合の取扱い

1. 申告・納付期限の延長と納税猶予制度

(1) 期限の延長

新型コロナウイルス感染症により、例えば経理担当部署の社員が感染症に感染し部署を相当の期間閉鎖しなければならなくなったこと等で通常の業務体制が維持できない状況が生じた場合や、緊急事態宣言により外出自粛の要請を受けた場合などには、国税通則法第11条の規定に基づき、納税者の申請により申告・納付等の期限の延長が認められます。
この申請は通常「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の提出が必要なところ、申告の際、申告書等の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記すれば適用できることとされており、この規定による期限の延長の場合には利子税、延滞税がかからないため、3月決算の確定申告や9月決算の中間申告などにおいてすでに適用を受けた法人も多いと思われます。

(2) 納税の猶予制度

期限の延長が災害その他やむを得ない理由により申告等の行為が物理的に行えない場合の救済措置であるのに対し、申告等の行為自体は行えるものの資金繰りの悪化等により納付が困難という場合には、猶予制度の適用を検討することとなります。
猶予制度には納税の猶予(国通法46)と換価の猶予(国徴法151)があり、このうち納税の猶予について、新型コロナウイルス感染症対策として特例が措置されています(新型コロナ税特法3)。
納税の猶予の特例の概要は次のとおりで、地方税(証紙徴収によるものを除く)および社会保険料についても同様の取扱いが置かれています。

なお、収入がおおむね20%以上減少していないなど、特例の要件を満たさない場合であっても、納税の猶予の本則または換価の猶予の適用を受けられる場合があります。

 

2. 欠損金の繰戻し還付

(1) 青色欠損金の繰戻し還付

青色申告書である確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合には、その欠損金額に係る事業年度(欠損事業年度)開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の所得に対する法人税の額につき、次の算式で計算した金額の還付を請求することができます(法法80①)(<図1>参照)。

ただし、解散事業年度等を除き、次の法人以外の法人はこの規定の対象となりません(措法66の12)。

①普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの(その事業年度終了の時において資本金の額または出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係があるもの等を除く)または資本もしくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社等を除く)

②公益法人等または協同組合等

③人格のない社団等

すなわち、普通法人については、①により資本金1億円以下のいわゆる中小法人に限定されています。
これに対し、新型コロナウイルス感染症対策として、令和2年2月1日~令和4年1月31日の間に終了する各事業年度において生じた欠損金額につき、①の範囲を次のように拡大し、資本金額1億円超10億円以下の中堅企業においても繰戻し還付が受けられるようにしています(新型コロナ税特法7)。

①普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が10億円以下であるもの(その事業年度終了の時において資本金の額または出資金の額が10億円超である法人等による完全支配関係があるもの等を除く)または資本もしくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社等を除く)

(2) 災害損失欠損金の繰戻し還付(法法80⑤)

震災、風水害、火災等の災害により、その災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度またはその災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間(仮決算の中間申告書を提出する場合におけるその期間)において生じた災害損失欠損金額がある場合には、繰戻し還付の適用を受けることができます(<図2>参照)。

この規定では、欠損金の全額が還付の対象となるのではなく、災害損失欠損金額(欠損金額のうち、災害により棚卸資産、固定資産または一定の繰延資産について生じた損失の額(保険金等により補塡(ほてん)されるものを除く))に限られます。この点、新型コロナウイルス感染症対策においては、災害損失欠損金に該当するか否かについて<表1>のように例示されています。

この規定は、還付額は限定されるものの全ての法人が適用できること、確定申告を待たず仮決算での繰戻し還付が可能であること、欠損事業年度の申告書が青色申告書である場合には還付所得事業年度が前1年から前2年に伸長されることなどの点において、使い勝手が良くなっています。中間申告につき、資金繰り等の関係から前期実績による予定申告ではなく中間仮決算による場合には、併せて活用を検討するとよいでしょう。

 

3. 所得計算上の損金算入項目

(1) 役員給与の減額

法人税法上、役員給与については、次のいずれかに該当しない場合には損金の額に算入されません。

①定期同額給与

②事前確定届出給与

③業績連動給与

このうち、①定期同額給与は、役員給与の一般的な支給形態である月額給与であれば事業年度を通じて毎月同額を支給するのが原則ですが、次のいずれかに該当する場合には、期中に変更することが認められます。

イ 期首から原則3月以内の改定

ロ 臨時改定事由

ハ 業績悪化改定事由

このうち、ハ 業績悪化改定事由につき、国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」では、次のような事例が該当するものとして例示されています。

ⅰイベント開催を請け負う法人において、数カ月間先まで開催を予定していた全てのイベントがキャンセルとなった結果、予定していた収入が無くなり、毎月の家賃や従業員の給与等の支払いも困難な状況であることから、役員報酬の減額を行う。

ⅱ外出自粛要請等により主要な売上先である観光客等が減少し、これまでのような売上げが見込めないことから、営業時間の短縮や従業員の出勤調整といった事業活動を縮小する対策を講じているが、観光客等の回復の見通しも立っておらず、今後、売上げが更に減少する可能性もあるため、更なる経費削減等の経営改善を図る必要が生じ、従業員の雇用や給与を維持するため、まず役員給与の減額を行う。

すなわち、新型コロナウイルス感染症の影響により、ⅰのようにすでに業績が悪化している場合だけでなく、ⅱのように今後悪化することが見込まれる場合においても、業績悪化改定事由として減額が認められます。

(2) 上場有価証券の評価損

法人税法上、棚卸資産、有価証券、固定資産、一定の繰延資産については、要件を満たすことにより評価損の損金算入が認められます。ここでは、このうち上場有価証券等について紹介します。
法人税法上、保有有価証券の評価損については、次の場合に損金算入が認められます。

①上場有価証券等の価額が著しく低下したこと

②①以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと

③②に準ずる特別の事実

このうち、①上場有価証券等の「価額が著しく低下したこと」とは、次の要件のいずれも満たすことをいいます(法基通9-1-7)。

税務上、回復可能性の判断について形式的な判断基準はありませんが、例えば株式であれば、金融商品会計に関する実務指針91項において「株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められない。」との表現があり、「こういった実務指針に基づいて行われた回復見込みの判断は特段の事情のない限り税務上も認められるであろう」とされています(佐藤友一郎編著「九訂版 法人税基本通達逐条解説」税務研究会、P781)。
また、平成21年4月に国税庁から公表された「上場有価証券の評価損に関するQ&A」では、合理的な判断基準として次のような事例が挙げられています。

  • 発行法人に係る将来動向や株価の見通しについて、専門性を有する客観的な第三者の見解(専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報など)を判断の根拠の一つとすること

  • 監査法人による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断の基準として一定の形式基準を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性についてチェックを受けて、これを継続的に使用すること

このQ&Aは、リーマンショック後の経済危機対策の一環として公表されたものですが、新型コロナウイルス感染症の影響により保有有価証券の時価の下落があった場合の取扱いも同様です。たとえば、監査法人による監査を受ける法人において、今回の「コロナショック」を契機に、上記[Q2]の「一定の形式基準」を新たに策定したり、これまでの基準を変更して今回の年度決算から継続して適用することも容認されると考えられます。

 

Ⅲ 他者を支援する場合の取扱い

1. 災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除等(法基通9-4-6の2、措通61の4(1)-10の2)

災害を受けた得意先等の取引先に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に、次の行為を行った場合には、それによる損失の額は、寄附金または交際費等に該当しないものとされています。

(1)売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部または一部の免除

(2)すでに契約で定められたリース料、貸付利息等で災害発生後に授受するものの全部または一部の免除を行うなど従前の取引条件を変更する場合および災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合

これにつき、国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」では、次のような事例が寄附金に該当しないものとして例示されています。

①福利厚生目的で社員へチケットを配付した観劇等が公演中止となり、契約上、チケットの払い戻しを受けることが可能だが、興行主等が当面の公演中止により収入の見通しが立たず、事業継続が困難となり、劇団関係者への給料等も支払えない状況にあると知ったことから、その復旧支援のためにチケットの払い戻しを辞退した場合

②不動産貸付業を行っている法人が、賃借人から賃料の減額を求められた場合に、契約内容の見直しを行い、今般の感染症の流行が終息するまでの期間に限って、賃料の減額に応じた場合

2. 取引先に対する災害見舞金等(措通61の4(1)-10の3)

被災前の取引関係の維持、回復を目的として災害発生後相当の期間内に、その取引先に対して、次の行為を行った場合には、そのために要した費用は、交際費等に該当しないものとされています。

(1)災害見舞金の支出、事業用資産の供与、役務の提供

(2)自社の製品等を取り扱う業者に対する災害により滅失・損壊した商品と同種の商品との交換または無償補填

※原則として、受領した相手方がこれらの金額を益金算入することが必要です。

この取扱いは、新型コロナウイルス感染症により影響を受けた取引先に対するものも対象となります。

3. 災害の場合の取引先に対する低利または無利息による融資(法基通9-4-6の3)

災害を受けた取引先に対して低利又は無利息による融資をした場合において、当該融資が取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは、当該融資は正常な取引条件に従って行われたものとされ、寄附金に該当しないものとされています。この取扱いは、新型コロナウイルス感染症により影響を受けた取引先に対するものも対象となります。

4. 自社製品等の被災者に対する提供(法基通9-4-6の4、措通61の4(1)-10の4)

不特定または多数の被災者を救援するために、緊急に行う自社製品等の提供に要する費用の額は、寄附金・交際費等に該当しないものとされています。この取扱いは、新型コロナウイルス感染症についても同様で、国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」では、次のような事例が損金算入されるものとして例示されています。

今般の感染症の流行が終息するまでの間の緊急支援の取組みとして、自社製品(食料品)を学童保育施設、子供食堂、社会福祉施設、生活困窮者支援団体、フードバンク活動を行う団体などに対して無償で提供し、施設へ通う子供達や生活困窮者等への支援を行う。

(注)文中、法令条文等は、以下の通り略して表記しています。
国通法:国税通則法
国徴法:国税徴収法
新型コロナ税特法:新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律
法法:法人税法
措法:租税特別措置法
法基通:法人税基本通達

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