EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
Digital Audit推進部 公認会計士 菊地 拓実
当法人入所後、国内上場企業の監査やIPO関連業務に従事。先端デジタル技術を活用した会計監査を推進するDigital Audit推進部ではドローンプロジェクトをリード。自らもドローンを操縦するオペレーターとしてドローンの監査への活用を推進している。
小型無人機「ドローン」が多様な産業分野において幅広い用途での利活用が進むことで、産業、経済、社会に大きな変革をもたらすことは「空の産業革命」といわれます。日本政府は、2022年度を目標に、ドローンの有人地帯での目視外飛行(操縦・監視する人の視界から外れた上空をドローンが飛行 <表1>レベル4)を目指し、これに向けた環境整備や技術開発を推進しています※1。
このような中、当法人においてもドローンを会計監査に利用する取り組みを進め、実際の監査現場においてドローンの利用が始まっています。
本稿では、産業分野や会計監査におけるドローンの活用方法を紹介します。
近年のドローン技術の進歩によって小型で高性能な機体が安価に手に入るようになり、誰でも簡単にきれいな空撮画像を撮影できるようになりました。ビジネスシーンにおいては、進歩したドローンとさまざまな先端技術とを組み合わせることで活用の用途が一気に広がりつつあります。
例えば、近年注目の集まる人工知能(AI)と組み合わせることで、目標物に対して自律飛行(人が操縦することなく、GPS等も活用しドローンが自身で飛行)で障害物を回避しながら空撮し、撮影画像から目標物の状態を自動で識別できるようになります。さらにドローンに標準搭載のカメラに代えてさまざまなセンサーを搭載し上空からスキャンすることで、目視では分からない目標物の状態さえも把握が可能になります。
ドローンの利用シーンを制限する大きな要因の一つになっている飛行時間についても、技術の進歩が期待されます。多くのドローンに使われているリチウムイオン電池では数十分の飛行が限度であり、長時間の作業を1回の飛行で行うことができません。しかし、このリチウムイオン電池から、環境に優しくエネルギーをどこでも確保できる水素燃料電池に代えることで、飛行可能時間を何倍にも伸ばすことができます。飛行時間の延長によって、ドローン活用用途のさらなる拡大が期待されます。
ドローンは「空」という新たな領域を利用し、ビジネスの世界に大きな変革をもたらします。
物流業においては、ドローンが荷物を運ぶことで、天候には左右されるものの無人でかつ渋滞に巻き込まれることもなく指定の場所まで配送することが可能になります。現在では離島や山間部といったエリアでのドローンによる荷物配送(<表1>レベル3)の実験が進められており、将来的には都市部における利用(<表1>レベル4)も考えられています。ドローンによって既存の物流網とは異なる新たな物流網の形成が期待されます。
建設業では、国土交通省が16年から掲げている「i-Construction」※2において建設現場における測量や維持管理へのドローンの導入が触れられています。ドローンを含むICT(情報通信技術)の導入で、建設現場での生産性向上が可能になります。
農業では、上空から撮影した写真の解析による農作物の生育状況の調査、農薬や肥料の散布等でドローンの利用が広がっています。従来はヘリコプターを利用したり、人手で散布していた作業を効率化できるようになります。
ドローンは、橋梁(きょうりょう)や発電設備といったインフラの点検にも役立ちます。AIの画像認識技術を利用し空撮写真から異常を自動識別することもできます。その他にも、ドローンによる上空からの撮影によって災害状況の迅速な把握や救助・捜索活動への利用が可能になります。
このように、「空の産業革命」に向けてさまざまな業種でドローン市場は急速に発展してきています。
それでは、いかにしてドローンを会計監査で活用するのでしょうか。
監査手続の一つに実地棚卸の立会(以下、棚卸立会)というものがあります。これは監査先企業が実施している在庫の棚卸手続を監査人が観察したり、テスト・カウントを実施したりする監査手続です。棚卸立会によって監査人は、貸借対照表に記載される棚卸資産の実在性と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手します。
棚卸立会では、たとえ在庫が膨大でかつ広範囲にわたって点在している場合であっても、監査先企業が実施している実地棚卸と併せて手続を実施しなければならず、監査人側の人的制約や時間的制約が課題です。これらの制約を解決する手段がドローンと3D解析などの画像解析に関連する技術です。
想定される場面としては、まず倉庫での棚卸立会です。倉庫に保管の在庫商品等に貼付してあるバーコードやJANコード、QRコード、ICタグといった情報を、ドローンに搭載されたカメラや専用のリーダーによって認識することで、高所や危険な場所にある在庫に対しても安全に目標物を確認することや、より多くの在庫のテスト・カウントが可能になります。一方、監査人は、ドローンの飛行ルート以外の在庫の有無を確認したり、破損や陳腐化の状態を確認したり、それ以外のポイントのより重点的な監査が可能になります。屋外に大量に並べられた在庫に対しては、ドローンとAIの画像認識技術を組み合わせます。ドローンが空撮した画像からAIが在庫の形状や色を判別し、どの種類の在庫が何個あるのかを自動でカウントします。
原材料や鉱物資源等の実地棚卸には、3D解析との組み合わせが有効です。ドローンで撮影した画像とデジタル写真測量技術によって目標物を3D解析し、原材料や鉱物資源等の在庫の体積を測定できます。これにより実地棚卸にかかる労力や時間の削減だけでなく、測定精度の向上も期待されます。
このように、会計監査にドローンを活用することで、より効率的に深度ある監査を実現できるといえます。当法人においても実証実験を経て、一部の企業の監査において、19年3月期の棚卸立会にドローンを活用した監査手続を導入しています。
今回は棚卸立会におけるドローンの活用を取り上げましたが、将来的にはドローンだけでなく、さまざまなテクノロジーを活用することが考えられます。
例えば、目標物をスマートフォンで撮影して3D解析を行い体積を算定することで、ドローンが使えない場所やドローンが操縦できない監査人でも利用可能になるため、今後の活用が期待されます。他にも、AR(拡張現実)を利用した在庫情報の取得、果ては人工衛星を利用した宇宙からの監査等も考えられます。
EYではこれからも、日々進化するテクノロジーの監査への活用を推進していきます。
※1 「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」による『空の産業革命に向けたロードマップ2019~小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備~』(19年6月21日)にてドローンの安全な利活用のための技術開発と環境整備について述べられている。
※2 「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組