情報センサー

欧州REACH規則とマイクロプラスチック規制


情報センサー2019年5月号 FAAS


FAAS事業部 CCaSSグループ 高村 比呂典

環境安全衛生および化学物質管理の分野において10年以上の経験を有し、順法支援、パフォーマンス改善において自動車、製造、化学、製薬、アパレルなど幅広い業種において数多くの事業者の支援を実施しています。また、ITストラテジストの資格を有しており、環境や化学物質管理などのシステムを構築した経験を有しています。


Ⅰ 化学物質規制をリードする欧州


化学物質法規制については世界的に厳格化の一途をたどっていますが、これをリードしている地域の一つとして欧州が挙げられます。
欧州における化学物質規制としてはREACH規則、RoHS指令※1、ELV指令※2などがよく知られていますが、このほかにもCLP規則※3、BPR※4、包装・包装廃棄物指令など多くの化学物質関連法規制が施行されています。日本企業も欧州での製品の販売などを伴うバリューチェーンを有する場合には、これらの法規制の要求事項を適切に理解し、順法状況を維持することが求められます。
本稿では、このうちREACH規則について、日本の事業者への影響が大きいSVHCと、特に最近社会的な関心が高いマイクロプラスチックの規制動向について説明します。
 

Ⅱ 欧州REACH規則


1. 概要

日本でもよく知られている欧州REACH規則はRegulation (EC)No 1907/2006として2006年に公布された規則であり、Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicalsの下線部よりREACHと呼称されているものです。
REACH規則はNo data, no market(データなくして市場なし)の原則を有しており、指定された量以上の化学物質を欧州域に上市するためには、事業者が関連情報を提供して対象化学物質を登録することが求められます。この登録は欧州に上市する化学物質の量(以下、トン数帯)が多いものから登録期限が早く定められており、18年5月30日に一番小さなトン数帯の化学物質に関する最後の登録期限が到来しました。今後は欧州へ上市する化学物質の量が定められた値に到達する場合に、事業者は登録を実施することが求められます。

2. SVHC

REACH規則では先に述べた登録以外にも多くの責務を規定しています。そのうちの一つが認可であり、認可対象物質に指定された物質については、認可を取得しない限り、物質や混合物として上市したり、使用したりすることが出来ないというものです。この認可対象物質の候補物質がSVHC(Substances of very high concern:高懸念物質)と呼ばれる物質リストになります。
ある化学物質がREACH規則において定められた有害性に該当すると認められると、この物質はSVHCとして指定されることが検討されます。SVHCに指定されると、その後に認可対象物質への追加が検討されることとなります。
SVHCはおおよそ年に2回のペースで追加されており、19年1月にも6物質が追加され、19年3月現在197物質が指定されています。SVHCに指定された段階では使用そのものが法的に規制されるものではありません(情報伝達などは求められます)が、将来的な規制を見据え、サプライヤーなどに代替の検討など対応を求める事業者の例もあります。化学物質の代替などには研究開発など一般的に長い時間がかかりますので、適時の情報入手によりビジネスへのインパクトの低減を図るとともに、適切なサプライチェーンでのコミュニケーションにより、自社のバリューチェーンでのSVHCの利用状況を確実に把握すること推奨されます。


図1 欧州REACH規則でのSVHCなどに関する規制の進め方

3. マイクロプラスチックに関連する規制

REACH規則では登録や認可のほか、制限という規制の方法も有しています。これは任意の化学物質を指定し、上市の禁止などを含む任意の内容の規制を実施することが出来るものです。
マイクロプラスチックに関しては、海洋生物が影響を受けている映像などの報道から社会的な関心が高まっていますが、REACH規則の制限でもマイクロプラスチックに関して2件の規制が検討されています。
一つはマイクロプラスチックそのものに対する規制を検討しているものであり、マイクロプラスチックを指定された濃度以上含む混合物などについて上市を禁止することが19年1月に提案されています。
また、これとは別に酸化分解性プラスチック(oxodegradable plastics)についても規制が検討されています。これは環境中で分解されるといわれているプラスチックについて、実際の環境中での分解状況に関する懸念のもと、使用などの規制が検討されているものです。19年7月に具体的な規制内容が提案される予定です。

Ⅲ 日本の事業者への推奨事項


化学物質に関する海外と日本の法規制の差異は、しばしばビジネスにとって大きな障壁となります。欧州は特に厳しい法的要求を課している地域ですが、REACH規則の改正はパブリックコメントなど早い段階から情報を取得することが可能です。欧州における販売などがバリューチェーンに含まれる日本企業においては、適時・定期的に情報を取得し、自社ビジネスへの影響を評価し、その結果に応じてリスク低減対応を行うという手順を着実に実施することが推奨されます。特に、マイクロプラスチックや分解性プラスチックを取り扱う場合は当面成り行きを注視することを強く推奨します。


※1 電気電子製品中の有害物質含有規制などに関する欧州指令(指令2002/95/EC、指令2011/65/EU)
※2 自動車の有害物質含有規制やリサイクル促進などに関する欧州指令(指令2000/53/EC)
※3 化学物質の有害成分類、表示、包装に関する欧州規則(規則(EC)No 1272/2008)
※4 殺生物製品の認可などに関する欧州規則(規則(EU)No 528/2012)

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