情報センサー

RPA PoC(Proof of Concept)について


情報センサー2019年3月号 EY Advisory


EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) 李 愷

2014年、EYに入所。当社では、BPO/SSCの戦略立案、設計、立ち上げから、デリバリー以降の各種管理までを支援する。近年は、RPAサービス開発、ツール調査、RPA導入プロジェクトにおけるアドバイザリーサービスに従事している。CISA(公認情報システム監査人)、PMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)。


Ⅰ はじめに

近年の人手不足や働き方改革の流れの中で、生産性向上の手段としてRPA(Robotic Process Automation)を導入する企業が増えています。通常、企業がRPAを本格導入する前に、PoC※1(Proof of Concept)を行います。RPA PoCとは、試験的な小規模RPAを導入し、その有効性を調査、検証するために行うものです。本稿では、筆者の経験からRPA PoCの一般的な進め方について解説します。

Ⅱ RPA PoCの一般的な進め方

RPA PoCの一般的な進め方は<図1>の通りです。PoCの目的は、RPA導入の具体的な効果の検証やRPAの自社業務・システムへの親和性の確認など、企業によってさまざまです。本稿では、<図1>の赤枠のPoC対象業務選定から効果検証までについて説明します。


図1 RPA PoCの一般的な進め方

1. RPA PoC対象業務選定

PoCの主な目的に応じて、適切な対象業務を選定する必要があります。RPA導入に最も適しているのは、処理量や作業ボリュームが多い業務プロセスの自動化です。ただし、限られたPoC期間内にRPA導入と検証をするため、ルール化しやすく、かつ複雑な判断ロジックがない業務をPoC対象とすることが一般的です。

2. RPA PoC対象業務詳細調査・要件定義

次に、PoC対象業務の要件を固めることが重要になります。ただ、業務システム構築とは異なり、RPAの場合は自動化を行うPoC業務の範囲、業務プロセスとルール、判断ロジックなどを洗い出すことが要件定義の中心になります。業務の各プロセスにてどのようなインプットとアウトプットがあるのか、どのようなルールに基づき処理されるのか、業務プロセスのどこにRPAを入れるかなど業務プロセスを整理し、PoC対象業務のデータや処理の流れを要件定義書としてまとめます。
要件定義の際には、現行作業をRPAに適した手順に変更する場合があります。SAP ERP自動化の例を挙げます。業務担当者がSAPシステムにログインすると、画面左側半分にツリー構造でユーザーメニューが表示されます。業務担当者はユーザーメニューから実施したい機能を選択することが一般的ですが、ロボットに入れ替える際に、ロボットがトランザクションコードを使用して機能を呼び出すように手順を変更する事例があります。選択するSAPメニューの位置はユーザーによって異なりますが、システム共通のトランザクションコードを使用すれば、開発の効率化とロボットの再利用が可能となります。これは一例ですが、要件定義の際には各種の工夫をすることが求められます。
また、ロボットの耐障害性も非常に重要です。RPAは決められた手順通りに業務を実施しますが、処理するデータに想定外のものが含まれていたり、処理対象の画面レイアウトが変わった場合など、想定外のケースが発生してもロボットが適切にハンドリングできる、あるいはエラーになってもリカバリーしやすいような仕組みを作らなくてはなりません。例外の検知やリカバリーの設計も要件定義書に記載する必要があります。

3. RPA PoC環境準備

RPA PoCを進めていくためには、ソフトウェアやハードウェアなどの環境準備作業が発生します。
RPA PoC環境構成はRPAツールの種類によって異なります。RPAツールには大きく分けて、ローカルPC側で実施するデスクトップ型RPAとサーバーからロボットを一元管理するサーバー型RPAの2種類があります。サーバー型RPAは通常、RPAツール以外にデータベースソフトウェアもPoC環境にインストールする必要があります。また、ハードウェア環境はRPAツールに依存しますので、RPAベンダーが推奨したハードウェアのスペックを参照しながらPoC環境を準備する必要があります。その他に、PoC対象業務に必要な業務システムの手配もあります。PoC業務の内容によって、本番システムのデータに影響が出る場合(データの変更や削除に関わる業務など)、別途業務システムのテスト環境を用意する事例もあります。
RPAを導入する場合、基本的には現行の業務システムの変更はありませんが、各企業のITポリシーなどによってはシステムの設定変更が必要なケースもあります。環境の準備に時間がかかることがありますので、PoCをスムーズに実施するためには早めに環境の準備をしておくことが大切です。

4. RPA PoC導入・テスト

RPA PoCの場合、コンサルティングファームやSIer※2といった外部業者がRPAの導入とテストを実施する事例が多くあります。企業側としては、PoCプロジェクトの進捗(しんちょく)管理、テストデータの作成やテストの立会いなどの作業が発生します。
RPAの導入は、業務フローを書く感覚でRPAツールが提供した部品をドラッグアンドドロップすることで、実装するケースが多いです。RPA製品の導入はITエンジニアのような高度なプログラミングスキルは必要ないとされていますが、基礎概念として、変数の扱い、配列や関数、繰り返しなどの仕組みを理解した方がより効果的な導入が可能になります。

5. RPA PoC効果検証

RPA PoCの実施により、対象業務にRPAを適用した場合の導入効果の算出が可能です。またPoCの結果によって、一定の業務パターンでRPA活用の有効性が確認できます。RPAの本番導入に向けた対象業務の再確認や見直しなどにも活用できます。

 

Ⅲ おわりに

人手不足への対応とともに業務効率化手法としてRPAの導入を検討される企業が年々増加しています。RPAは大変便利なツールではありますが、全ての業務の効率化を可能にする万能のものではありません。上述の適切なPoCの導入手法が極めて重要になります。

※1 概念実証などと訳される。新しい技術やコンセプトについて、実現可能性の有無や程度を検証するために行う試行や実験。
※2 システムインテグレーター


「情報センサー2019年3月号 EY Advisory」をダウンロード


情報センサー
2019年3月号
 

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。