EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
IFRSデスク 公認会計士 阪野 晶子
監査部門にて大手総合商社、製造業、サービス業などの上場企業の会計監査に従事。その後、FAAS事業部に異動し、IFRS導入支援及び海外上場支援業務に従事。現在はIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援、執筆などを担当している。
2019年度より、国際会計基準審議会(IASB)が主要プロジェクトとして長年取り組んできたIFRS第16号「リース」の適用が始まり、引き続きIFRSを取り巻く環境が大きく変化する年になりそうです。
IASBは、財務諸表のさらなる改善に向けて、財務諸表の表示及び開示の充実を図るプロジェクトや、現行基準の適用から浮上した課題に対処するためのプロジェクトなどに取り組んでおり、IASBのワークプランによると、19年度以降においても三つの基準の改訂が公表される可能性があります。ただし、これらの基準の改訂は実際に最終化されるかどうか、及び最終化される場合の時期はまだ明確になっておらず、IASBにおいて現在も議論が継続されています。
本稿では、19年度以降において公表される可能性のあるこれらの基準の改訂の概要を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。
IAS第1号「財務諸表の表示」(以下、IAS第1号)は、流動負債と非流動負債の分類要件を定めています。しかし、当該規定の実務上の解釈にばらつきがあるため、企業間の比較可能性が損なわれているとの批判が寄せられています。IASBは、このような懸念に対処するために、15年2月にIAS第1号の改訂案を公表し、負債の分類要件の明確化を提案しました。具体的には、現行の流動負債と非流動負債の分類は、企業が負債の決済を期末日後少なくとも12カ月にわたり延期できる無条件の権利を有しているか否かで行われますが、公開草案では、この判断を期末日において企業が有する権利のみに基づき行うことを明確にする提案が行われました。
IASBは、当該提案に関連性がある概念フレームワークの改訂に関する審議が終了するまで、当該提案の再審議を中止していました。IASBは、18年3月の改訂概念フレームワークの公表を受けて、18年9月にこの負債の分類に関する議論を再開し、プロジェクトの状況や今後の作業計画を議論しました。
18年11月のIASB会議では、コメントレターで提起された、特定の状況において公開草案の提案を適用した場合の影響の懸念に関して、その対応が審議される予定となっています。
IAS第16号「有形固定資産」(以下、IAS第16号)において、有形固定資産の取得原価には、経営者が意図している方法で有形固定資産を稼働可能にするために必要となる場所及び状態に置くために支出され、直接起因するコストが含まれます。IAS第16号においては、直接起因するコストの例として資産が正常に機能するかどうかを確認するための試運転のコストが例示されています。現行の基準では、この試運転コストは、試運転を行った際に製造した見本品や試作品等の販売によって得られた収入の金額を控除した後の金額とされています。しかし、このような試運転により発生した収入が試運転コストを超過した場合の差額を純損益で計上すべきなのか、それとも取得原価から控除すべきなのかが明確ではありませんでした。
そこで、経営者が意図する状況になる前に生じた販売収入の全てを純損益で会計処理することが提案されました。
コメントレターで受領した関係者からのフィードバックは提案に反対する意見も多く、当該フィードバックを踏まえ再審議を担当したIFRS解釈指針委員会は、提案を一部修正の上、最終基準化することをIASBに提案しました。
コメントレターでは主に、①経営者が意図する状況になる時点に関するガイダンスが明確でないこと、②意図した使用の前の収入に対応するコストの配分に関するガイダンスが明確でないこと、③提案が有用な財務情報を提供するかどうかに関する懸念、及び④提案が採掘産業などの一部の業種への影響に限られ、基準設定によるコストが便益を上回る可能性が高いこと等に関する懸念が示されました。
IASBは18年11月の会議において、これらの懸念を踏まえ、①各種ガイダンスを追加することで提案を最終化する、②意図した使用の前の収入を純損益で計上する提案を取り下げ、「試運転」の意味の明確化や開示規定の追加だけに絞って最終化する、又は③最終化を取りやめ、採掘産業に関するリサーチ・プロジェクトの一環として扱う、といったスタッフ提案を審議する予定となっています。
IAS第19号「従業員給付」は、制度資産の公正価値が、確定給付債務の現在価値よりも大きい場合の積立超過額の算定において、財務諸表において認識すべき
確定給付資産の純額は、積立超過額と、資産上限額のいずれか低い金額で測定しなければないことを定めています。資産上限額とは、IFRIC第14号「IAS 第19号―確定給付資産の上限、最低積立要件及びそれらの相互関係」(以下、IFRIC第14号)に従って測定される、現金の返還、将来掛金の減額又は両者の組み合わせという形で利用可能な将来の経済的便益の現在価値になります。現行の基準では、制度受託者等の他の者が企業の合意なしに、制度加入者への給付を変更するパワーを有している状況での、返還の利用可能性の判定について実務上のばらつきが生じている状況です。そこで、返還の利用可能性について明確化するべく、次のような事項をIFRIC第14号に追加する改定案を15年6月に公表しました。
当該提案による実務への影響を懸念する意見が英国等の関係者から提起され、再審議に時間を要している状況です。直近では18年6月のIASB会議で、スタッフは当該提案の最終基準化を現時点では取りやめ、年金会計に関するリサーチ・プロジェクトの進展を待ってから再検討する提案を行いましたが、具体的な意思決定は行われませんでした。IASBは、今後の会議でさらに検討を続けることになっています。
本稿で取り上げた基準の改訂は、最終化されるかどうか、最終化される場合にも、提案に変更が行われる可能性があることから、今後のIASBの審議に留意が必要と考えます。