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恒久的施設(PE)関連規定の改正(平成30年度税制改正)


情報センサー2018年11月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ はじめに


国際税務の分野において、外国法人課税の理解に欠かせないものは、「恒久的施設(Permanent Establishment:PE)」の概念です。PEとは、事業を行う一定の場所(支店等)をいいます。PEには、支店PE(支店、事務所、工場、作業場など)、建設PE(建設作業や作業の指揮監督を行う場所等)、代理人PE(外国企業のために相手国内で行動する一定の者等)の3類型があります。日本において、PEを有する外国法人は、「PEに帰属する事業所得」と「その他の国内源泉所得※1」について法人税課税を受けます。つまり、外国法人が日本国内にPEを有しない場合、その外国法人の「事業所得」に対して日本では課税は行われません。
長年にわたり、多国籍企業によるPE認定の人為的回避とそれに伴う過度の租税回避※2は実質的な事業活動が行われる国の税源を著しく浸食するとして、各国の課税当局から問題視されてきました。経済協力開発機構(OECD)のBEPSプロジェクト※3も、この論点を「行動7:恒久的施設認定の人為的回避の防止」において議論し、PEの定義に関する修正が2015年の最終報告書において勧告されました※4。日本もこの勧告に従い、平成30年度税制改正において、PEの定義を含む関連国内税法を改正しました。以下では、PEの定義にかかる主な改正事項を説明します。

Ⅱ PE認定されない活動のみを行うことによるPE認定の人為的回避の防止措置


平成30年度改正前は、商品の保管や購入のみを行う場所・施設等はPEに該当しないという国内法の規定ぶりでした。例えば、製品の販売を業とする外国法人が、日本国内に相当数の従業員が勤務する製品の保管・引き渡しのみを行うための巨大倉庫を保有していたとしても、それだけでは日本国内にPEを有していないことになっていました(<図1>参照)。仮に、このような倉庫が企業の製品販売事業の本質的な部分を構成するような活動を行う場所であった場合、この倉庫がPE認定から漏れてしまっては、日本の課税権が不当に損なわれてしまいます。


図1 製品の保管・引き渡しのみを行う場所を設けるケース

今回の改正により、いかなる活動も「事業の遂行にとって準備的・補助的な性格ではない場合」は、PE認定の例外としないことになります。よって、前記の例において、当該倉庫における活動が準備的・補助的な性格を持たない場合には、今後はPE認定がなされてPE帰属所得に対する課税が増加すると思われます。

Ⅲ 販売委託契約等を通じたPE認定の人為的回避の防止措置


平成30年度改正前は、外国法人のために日本国内で行動する者(代理人)が、外国法人の事業のために契約を締結する権限を有し、かつこれを継続的・反復的に行使した場合に、その者は代理人PEになるとされていました※5。今回の改正により、代理人PEは、外国法人の名において締結される契約の存在だけではなく、締結される契約の類型(物品の販売にかかる契約あるいは役務の提供にかかる契約)によっても認定することが可能となりました。また、契約の締結をする者だけではなく、契約締結のために反復して主要な役割を果たす者も代理人PEに認定することになります。
例えば、外国法人が日本国内の受託者と販売委託契約を結び、契約締結権限を持たない受託者が国内顧客に対して販促活動(実質的には販売活動)を行い、最終的な契約は外国法人と顧客が直接締結するようなケースにおいて、改正前は受託者が代理人PEの認定を受けることはほとんどありませんでした(<図2>参照)。改正後は、国内受託者の活動実態によっては代理人PEを認定されるケースが増加すると思われます。これらの改正により、いわゆるコミッショネア・スキーム※6の組成も難しくなります。


図2 販売委託契約

Ⅳ おわりに


この改正は、外国法人の平成31年1月1日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用が開始されます。ただし、日本が各国と締結している租税条約と国内法上のPEの定義が異なる場合には、租税条約上の定義が優先適用されるので注意が必要です※7


※1 本稿においては説明を行わない。
※2 現地国において多大な利益をあげながらも、当地でPEに認定されない活動のみを行うことにより、現地国の法人税課税を免れることが可能となる。
※3 多国間協調による国際課税ルールの再構築を通じてBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)に対応することを目指したOECD・G20「BEPS プロジェクト」は、15の行動計画を含む最終報告書を2015年10月に公表した。
※4 この修正は、OECDモデル租税条約(2017年改訂版)に導入された。また、日本が2017年に署名(国会で承認済み)したBEPS防止措置実施条約や最新の二国間条約(デンマーク、ロシア、ベルギー等)にも採用されている。
※5 代理人業を通常業務として行う者(独立代理人)は、代理人PEとはされない。ただし、専ら又は主として自己と密接に関連する者(持分関係50%超の関係他)に代わって行動する者は、独立代理人の範囲から除かれる(平成30年度税制改正)。つまり、50%超の持分を有する子会社は、独立代理人には該当しないこととなる。
※6 代理人の名による契約の締結実行や、契約の締結に繋がる主要な役割を代理人が担い、契約の締結自体は本人(外国法人)が行うこと等により、PE認定を人為的に回避するようなスキーム。
※7 例えば、日米間においては、現行の日米租税条約は行動7を踏まえたPEの定義に関する修正は行われておらず、また、米国はBEPS防止措置実施条約にも署名していないことから、現行の日米租税条約におけるPEの定義が適用される。


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