EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 太田 達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。
グループ法人税制が平成22年度税制改正により導入されてから数年経過しました。申告調整の方法だけでなく、税効果会計との関係など、押さえておくべき内容は多岐にわたるため、実務上は一定の専門性が求められる分野といえます。
本稿では、子法人株式に係る寄附修正を行っている場合に、その後に子法人株式の譲渡や子法人の解散・清算があったときの実務対応について、具体例を用いて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
内国法人が当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る)がある他の内国法人に対して支出した寄附金については、その全額が損金不算入になるとともに(法法37条2項)、当該他の内国法人が受けた受贈益についてその全額が益金不算入となります(法法25条の2)。結果として、100%グループ全体でみた所得への影響は生じないことになります。
上図のような100%親子間での寄附金だけでなく、100%子法人間の寄附金、そのほか100%の完全支配関係にある法人間の寄附金が対象になりますが、「法人による完全支配関係に限る」と規定されているため、個人による完全支配関係にある法人間の寄附金など、個人の所有する株式の相続財産評価に影響を及ぼすような寄附金は対象外とされています。
全額損金不算入となる寄附金を支出した法人の株主法人(寄附金の支出法人と完全支配関係がある法人)において、税務上、寄附金を支出した法人の株式について簿価修正(減額修正)を行います。同様に、全額益金不算入となる受贈益を受領した法人の株主法人(寄附金の受領法人と完全支配関係がある法人)において、税務上、受贈益を受領した法人の株式について簿価修正(増額修正)を行います(法令119条の3第6項)。これらの簿価修正は、税務上の利益積立金額を相手勘定として行うことになります(法令9条1項7号)。会計上簿価修正は行われませんので、申告調整により対応することになります。その内容は、次項で具体例により解説します。
なお、なぜこのような処理が要求されているかですが、子法人が、完全支配関係がある他の法人に対して寄附金を支出し、資産を流出させることにより、親法人がその後に子法人株式を低い時価で譲渡することによる譲渡損の計上などの租税回避行為を防止する趣旨があると考えられます。この場合、子法人株式の簿価が減額修正されていれば、譲渡損は生じないことになります。
以下、具体例により、寄附修正の実務を解説します。
例1 100%グループ内子法人S社が親法人P社から寄附金100を受領した場合
(かつ親法人による直接保有割合が100%の場合)
親法人において、子法人株式の簿価修正(増額修正)が行われます。税務上の仕訳で表すと次のとおりですが、会計処理は発生しませんので、親法人の法人税申告書別表5(1)で調整します。仮に親法人における子法人株式の簿価がもともと1,000であったとしますと、寄附修正後の税務上の簿価は1,100になったことを意味します。
S社株式 100 / 利益積立金額 100
前記の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高100は、将来において当該子法人株式が譲渡されたときに、別表4に100の減算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるものについては繰延税金資産を計上します。
例2 100%子法人間の寄附の場合
上図のケースでは、親法人であるA社において、B社株式およびC社株式についての簿価修正が必要になります。税務上の仕訳で表すと、次のようになります。
利益積立金額 300 / B社株式 300
C社株式 300 / 利益積立金額 300
前記の子法人B社株式の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高△300は、将来において当該子法人株式が譲渡されたときに、別表4に300の加算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来加算一時差異に該当します。繰延税金負債を計上する必要があります。
また、上記の子法人C社株式の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高300は、将来において当該子法人株式が譲渡されたときに、別表4に300の減算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるものについては繰延税金資産を計上します。
寄附修正は、法人による完全支配関係がある場合の法人間の寄附金について適用されますが、直接保有割合が100%とは限りません。直接保有割合が100%でない完全支配関係にある法人間の寄附金にも、この取扱いは適用されます。利益積立金額の加減算調整において、以下の例のように持分割合(親法人が保有する子法人株式数/子法人の発行済株式数)を考慮して計算します。
例3 直接保有割合が100%でない完全支配関係にある法人間の寄附金の場合
上図のケースでは、A社が保有するB社株式について100%の持分割合を考慮して、かつ、C社株式について80%の持分割合を考慮して計算します。また、B社が保有するC社株式について20%の持分割合を考慮して計算します。
利益積立金額 500 / B社株式 500
C社株式 400 / 利益積立金額 400
C社株式 100 / 利益積立金額 100
親法人が子法人株式について寄附修正を行い、その後の事業年度にその子法人株式を譲渡したときは、親法人の法人税申告書別表4に加算または減算の調整が入ることにより、別表5(1)の調整は消えます。
先の例1を前提として、具体的に解説します。
会計上は、当該将来減算一時差異について繰延税金資産を計上していた場合は、一時差異の解消に合わせてその繰延税金資産を取り崩すことになります。
親法人が子法人株式について寄附修正を行い、その後の事業年度にその子法人が解散・清算したものとします。税務上、親法人と子法人との間に完全支配関係があるときは、親法人において子法人株式に係る譲渡損益は計上されません。子法人の残余財産がない場合も、子法人株式の消却損は損金不算入となります(法法61条の2第17項)。譲渡損益に相当する額は税務上の資本金等の額の加算または減算とされ、また、消却損に相当する額は資本金等の額の減算とされます(法令8条1項22号)。
先の例1を前提として、子法人が解散し、残余財産がないことが確定したものとします。なお、子法人株式の寄附修正前の簿価が1,000、寄附修正後の簿価が1,100であったとします。会計上の簿価は寄附修正前の税務上の簿価と同じ1,000であったものとします。
子会社株式消却損 1,000 / 子会社株式 1,000
資本金等の額 1,100 / 子会社株式 1,100
会計上の子法人株式消却損を別表4で加算します。また、利益積立金額と資本金等の額との間でプラス・マイナス1,100の振替調整が入ることによって、資本金等の額が1,100減少することが正しく表されます。
子法人株式の簿価修正に係る利益積立金額の残高については、通常の子法人株式の譲渡の場合には別表4の減算対象になりますが、本件の場合は、損金の額に算入できないので、別表4の減算は発生しません。別表5(1)上で落として、結果として資本金等の額との間の振替調整1,100との差額である1,000が別表4の加算(留保)と対応することになります。
子法人の解散を決議した時点で、損金不算入となることが明らかですので、寄附修正の100に対して繰延税金資産を計上していた場合には、取り崩すことになると考えられます。
(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
法法:法人税法
法令:法人税法施行令