AIと税務・会計・法務(5)世界で進むルール作り注視を

寄稿記事

掲載誌:2023年12月12日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY弁護士法人 シニアマネージャー 小木 惇

※所属・役職は記事公開当時のものです。


生成AI(人工知能)の普及は、企業の事業活動の効率化や拡大の可能性を広げる一方、AIの業務利用でのリスク管理体制の重要性を高めた。しかし、企業に求められる対応や法的責任には不透明な点も多く、社内体制作りを難しくしている。

文章や画像を作れるAIには、著作権や個人情報の保護といった既存法体系との適合性のほか、AIが生み出す誤情報の拡散や差別や偏見の助長といった新たなリスクへの懸念もある。利用促進とリスク低減のバランスをどう確保するか、欧米をはじめ世界でルール作りの動きが加速している。

企業にとって重要なのは、日本や主要国の議論を踏まえて、自社に生じうるリスクと企業に求められる対応水準を予測し、会社規模や事業へのAI活用度合いに応じた対応方針を固めていくことだ。

現在、AI規制に関する各国・地域の姿勢は一様ではないが、AIの利用より、開発・提供段階での規律に焦点を当てている点は共通している。

欧州連合(EU)では9日、欧州議会と理事会がAIの包括的な規制法案に合意した。市民の安全や基本的人権へのリスクに応じて段階的な規制を設けており、違反者への制裁は一般データ保護規則(GDPR)より重い。生成AIを対象とする特別な規制案も加えられた。全面的な施行は早くとも2026年ごろとみられている。

米政府は10月、AI規制に関する大統領令を発令した。政府がIT(情報技術)関連の主要15社と合意した自主規制ルールを土台に、公開前の安全性評価、AI生成物の表示などを要請した。軍事上の優位性確保のため、安全保障の観点からも評価する。企業への罰則は想定されておらず、実務上の指針を示すことで開発・利活用を促す狙いがあるとみられる。

中国は国家の安全の観点からAIを規制する。中国ではすでに対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」の利用を禁止しており、8月には生成AIの提供を規制する新法を施行した。世論に影響しうる場合の当局へのアルゴリズム(計算手順)の届け出や、国家の統一を損なう情報表示の禁止といった要請もある。同法は中国のIT企業が多数開発に乗り出す生成AIのブームを受けて設けられている。中国は今後、AI全般の法規制を予定している。

日米欧や中国を含む世界28カ国は11月、英国での国際会議「AI安全サミット」で、AIの安全対策を議論した。また日本を含む主要7カ国(G7)は12月、生成AIの取り扱いに関する国際指針に合意した。指針はAI利用者にも一定の規律が及ぶことを明示している。今後もこれらの会議を通じた議論が継続される予定である。

現状の議論は、企業が実務に反映するにはまだ不透明な点が多い。企業は最新の議論の動向を継続的にフォローする必要がある。

生成AIを巡る各国・地域の規制の動向

(出典:2023年12月12日 日経産業新聞)


AIと税・法務・会計における8つの課題とは?

2023年12月5日から12月15日にかけて、日経産業新聞「戦略フォーサイト」においてEY Japanのプロフェッショナルによる8回の連載記事が掲載されました。「AIと税・法務・会計」と題し、EYの各分野のプロフェッショナルが、AIを活用する上でのビジネス上の課題を論じます。

AIと税・法務・会計における8つの課題とは?

税務・法務領域での生成AI利活用支援サービス

大規模言語モデルをはじめとした生成AIの発展と市場への浸透により、企業におけるAIの導入と利用が加速しています。
EYは、専門チームのもと、税務・法務領域における生成AIの利活用実現とテクノロジーソリューションの導入を中心に、お客さまの生産性向上と付加価値創出を支援いたします。

税務・法務領域での生成AI利活用支援サービス

EY.ai ― 統合型プラットフォーム(人工知能サービス)

EY.ai ― 統合型プラットフォーム(人工知能サービス)

EY.aiは、人間の能力とAIを統合したプラットフォームです。EYは、企業が信頼できる責任ある方法でAIを導入し、自社の変革を促進するための支援を目指しています。