シンガポール内国歳入庁がGST InvoiceNowの義務化を発表

2024年4月15日、シンガポール内国歳入庁(以下、「IRAS」)はInvoiceNowの導入を発表しました。Goods and Services Tax(物品サービス税、以下、「GST」)登録事業者はInvoiceNowソリューションを使用してインボイスデータをIRASに直接送信できるようになります。

段階的な導入

事業者が十分な導入時間を確保できるよう、IRAS GST InvoiceNowの義務化は、以下の期限ごとに段階的にIRASによって実施されます。

  • 2025年5月1日以降、早期導入のための試験的導入により、既存のすべてのGST登録事業者は、InvoiceNowソリューションを使用し、InvoiceNowネットワークを介してIRASにインボイスデータを自主的に送信できるようになります。
  • 2025年11月1日以降、自主的にGST登録を行う新規設立企業にはInvoiceNowの導入が義務付けられます。新規設立企業とは、GST登録申請書の提出日から遡って6カ月以内に設立された企業を指します。
  • 2026年4月1日以降は、法人設立日に関係なく、すべての新規の任意のGST登録者にInvoiceNowが義務付けられます。

GST InvoiceNowの使用義務は、任意GST登録の追加条件として実施されます。

対象外の事業者

以下の事業者は、GST InvoiceNowの使用義務から除外されます。

  • 海外法人(海外ベンダー登録制度に基づき登録された海外ベンダーを含む)
  • リバースチャージ制度に基づいて登録された事業者1

インボイスデータの送信

GST InvoiceNowを使用する事業者は、以下の種類の取引に関するインボイスデータをIRASに送信する必要があります。

  • 標準税率供給(リバースチャージ供給を除く)
  • ゼロ税率供給
  • 標準税率仕入で、仕入税額控除を申告する、または申告する予定のもの(リバースチャージ仕入を除く)

販売時点情報管理(POS)データと小口現金購入データについては、IRASに送信する前に取引を集計することを選択できます。

インボイスデータは、次のいずれかの早い時点でIRASに送信する必要があります。

  • 関連するGST申告書2の提出日
  • 関連するGST申告書の提出期限日

一般的に、顧客がInvoiceNowを採用している場合、サプライヤーがInvoiceNowネットワークを通じて顧客にインボイスデータを送信する際に、同じインボイスデータを自動的にIRASに送信する機能を有効にすることができます。

顧客がInvoiceNowを採用しておらず、InvoiceNowネットワークを通じてインボイスデータを顧客に送信できない場合、サプライヤーはインボイスデータを照合し、別途IRASに送信する必要があります。

GST申告

InvoiceNowの導入にもかかわらず、IRASは、GST登録事業者がこれまで通りに定められた期限内にGST申告書を作成・提出するものと想定しているようです。

GST登録事業者は、従来と変わらない記録保存要件を引き続き順守する必要があります。GST InvoiceNow義務化の導入は、GST登録事業者が義務的なGST記録保持要件を順守することを排除するものではありません。

情報通信メディア開発庁(IMDA)とIRASの支援

2025年5月までに、情報通信メディア開発庁(以下、「IMDA」)はIRASに接続可能なInvoiceNowソリューションのリストを公表する予定です。

企業がInvoiceNowを導入・活用するためのコスト負担を支援するために、IMDAはLEAD Connect & Transact Grant(LEAD接続・取引助成金)やInvoiceNowTransaction Bonus(InvoiceNow取引ボーナス)など、さまざまな助成金を導入しています。

IMDAが事前に承認した電子インボイス発行ソリューションを利用することで、プロバイダーは、InvoiceNowソリューションを含むITソリューションや機器に対する生産性ソリューション助成制度に申請することもできます。

IMDAとIRASは現在、税務コンプライアンスを容易にするための更なる支援や措置の必要性を検討しており、詳細が明らかになり次第発表する予定です。

主な検討事項

2025年5月からInvoiceNowを採用し、インボイスデータをIRASに自動送信することを希望する企業は、早期に準備プロセスを開始する必要があります。GST InvoiceNowの使用要件に対応するため、企業は以下の対応について検討可能です。

  • 人、プロセス、システムに関する準備状況の現状評価を実施し、ギャップを浮き彫りにして、予想される規制変更に沿った計画を策定する。
  • マスターデータと税務決定に重点を置き、可能な限りプロセスを自動化し、手作業を最小限またはゼロにすることで、データの品質と可用性を確保する(IRASに送信されるインボイスデータは、罰則を避けるために正確かつ完全である必要があります)。
  • 既製のInvoiceNowソリューションを調達し、IRASへのインボイスデータ送信を可能にするか、または社内のERPシステムをInvoiceNow対応できるよう構成し、IMDAが事前に承認したインボイスデータ送信用のアクセスポイントに接続できるように設定するなど、ビジネスに最適なInvoiceNowテクノロジーソリューションを決定する。

結論

GST InvoiceNowの義務化は以前から検討されており、ASEAN地域における最近の電子インボイス発行の進展に沿ったものです。

InvoiceNowシステムは、GST登録事業者に、コンプライアンスを徹底的に見直す機会を提供し、プロセスの合理化、GSTエラーやコストの削減、キャッシュフロー管理の改善が可能です。正確性と効率性を重視することで、GST登録事業者はGST要件へのコンプライアンスを確保しながら、中核となる優先事項に集中することができます。

 

巻末注
1. 詳細については、こちらのリンクのIRAS e-Taxガイド「GST:リバースチャージ(第6版)」をご参照ください。
2.「関連するGST申告書」とは、発行されたインボイスの供給時期またはサプライヤーのタックスインボイスに記載された日付に関する会計期間のGST申告書を言います。

お問い合わせ先

EY税理士法人

大平 洋一 パートナー
岡田 力 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです