Tax controversy update vol. 15 ― 仕入税額控除を巡る最高裁判例から ①

今回も引き続き消費税を取り上げたいと思います。具体的には、近時の最高裁判例を題材にします。A社とM社という2つのマンション販売事業者の仕入税額控除が問題になった近時の裁判例で、消費税が最高裁まで争われた珍しい事案です。

A社、M社の各納税者は、購入した中古マンションを販売目的で購入したことを理由に、個別対応方式における用途区分を「課税資産の譲渡等のみに要するもの」(「課のみ」)に区分していました。しかし、当該中古マンションには購入時にすでに賃借人がおり、販売までの期間においては賃借人から非課税売上となる家賃を収受していました。このことから、用途区分は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(すなわち「共通対応」すべきもの)に該当するとして、課税売上割合部分しか仕入税額控除が認められないと、当局から更正処分を受けたものです。

A社事案、M社事案とも同種事案であり、時期的にも並行して争われていたのですが、下級審の判断が割れた点で注目を浴びていました。概要、裁判所の判断は以下のようになっています。なお、「過少申告部分」については第16回のメルマガで取り上げます。

先行したのはM社事案で、地裁でM社は敗訴しました。「用途区分の判断については、客観的に行うべきであり、課税仕入れの目的が、最終的ないし主たる目的に限定されると解すべき理由はない」というのが判決の主たる理由です。しかし、約1年後に出されたA社事案での地裁判決は「課税仕入れに係る消費税額について税負担の累積を招くものとそうでないものとに適正に配分するという観点」を重視し、賃料収入のビジネス上の位置づけや収益全体に占める金額の少なさなどから、共通対応とするのは相当性を欠くとして、A社の主張を認めました。

控訴審において、M社事案では、メイン論点の用途区分では地裁同様M社が敗訴しましたが、過少申告部分ではM社が課のみ処理を行ったことに「正当な事由」があるとして、一部M社の主張が認められました。対照的に、A社事案では、A社は逆転敗訴となり、正当な理由もないとされています。

当然A社は上告しました。一方M社は用途区分について諦め、上告しなかったのですが、過少申告部分の判断が不当であると、逆に国側が上告しました。

最高裁の判決は同日に同じ裁判体によって下されました。結果はA社事案について高裁判決を踏襲して納税者の完全敗訴となり、M社事案についても過少申告に正当事由はないと国の主張が認められ、こちらも完全敗訴となりました。

最高裁の判断は、条文の文理から、納税者の主観に関係なく客観的事情によって用途区分を判断するのが消費税法の趣旨にも適うというもので、税法の基本である文理解釈にのっとった判断と評価できます(その点、A社事案の地裁判決は制度趣旨をより重視した「アグレッシブな」判決だったと言えそうです)。

立法的手当てにより、今後本件と同じ問題が生じる余地はなくなりました。しかし、本判決により、事業に少しでも非課税売上げがあれば共通対応の適用を指摘される可能性が増えると考える向きもあります。たしかに課税売上割合が低い業種でこのような指摘を受けるとインパクトがあるでしょう。このような指摘を受けないよう、ビジネスモデルに沿って、対象となる仕入れが「非課税売上」にひも付くものではないことを客観的に説明できるようにしておくことや、準割を事前に申請することでリスク低減を図っておくことが必要です。

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