Tax controversy update vol. 12 ― 差異調整の見直し

令和元年度の税制改正で「比較対象取引の利益率を参照する価格算定方法に係る差異調整について、定量的に把握することが困難な差異があるために必要な調整を加えることができない場合には、いわゆる四分位法に基づく方法により差異調整を行うことができる」こととされました。今回のメルマガでは、この差異調整について、改正の背景や疑問点などについて取り上げたいと思います。

1 改正のバックグラウンド

差異の調整に関する裁判例として、ワールドファミリー事件(東京地裁平成27年4月11日判決/確定)がありますが、その説示内容を整理すると次のとおりです。

① 差異が通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかではない場合には、当該差異について調整を行う必要はない

② 差異が通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかである場合には、当該差異について調整を行う必要がある

i. 差異により生ずる売上総利益率の差の程度が明らかであり適切な差異調整ができるのであれば、当該差異により生ずる売上総利益率の差につき必要な調整を加えた後の割合をもって独立企業間価格を算定できる

ii. 差異により生ずる売上総利益率の差の程度が明らかではないことなどにより差異調整ができないのであれば、当該比較対象取引に基づいて独立企業間価格を算定することはできない

令和元年度の改正は、上記②iiにつき、差異が定量化できない場合でも、四分位法による差異調整ができるときには、独立企業間価格を算定できることとしたものです。課税庁側に新たな課税権を与えるものと評価できるかと思います。

2 改正への疑問点

(1)移転価格事務運営要領 4-5(1)によれば、「中央値による調整は、4-4(1)から(4)までのような調整を行ってもなお定量的に把握することが困難な差異が存在する場合であって、調整済割合に対する当該差異の影響が軽微であると認められるときに行うことができる」と規定されているところ(下線は、筆者付加)、定量的に把握することが困難な差異につき、差異の影響が軽微であると判断することは非常に難しいように思えます。

(2)令和元年度の改正の解説でも引用されるOECD移転価格ガイドラインパラ3.57では、「比較可能性の程度が劣るポイントを除外するためにあらゆる努力を行ったとしても、それによって得られるものは、比較対象の選定に使用されたプロセス及び比較対象につき利用可能な情報の制約の下で、特定又は定量化できずそれゆえ調整することもできない一定の比較対象性の欠陥が残っていると考えられる数値の幅という場合もあるかもしれない。そのような場合、数値の幅の内にかなりの数値が含まれているのであれば、統計的手法を用いて、中心的傾向に沿って幅を狭めると(例えば、四分位幅やその他の百分位値)、分析の信頼性の向上に役立つかもしれない」 と規定しています(下線は、筆者付加)。この規定を根拠に令和元年度の改正が行われたものと考えられますが、移転価格事務運営要領4-6によれば、当該四分位法に基づく方法は四以上の比較対象取引に係る調整済割合に適用することとされており、下線部の統計的手法を用いる前提が看過されているように思えます。

(3)四分位法を適用することにより、外れ値を除外することになりますので、レンジの信頼性は高まるかも知れません。一方で、差異の調整を行う場合、比較対象取引の利益率に与える影響は、プラスもあればマイナスもあり得るところ、四分位法に基づく方法による差異調整では中央値を用いることとされています。統計的手法を用いる前提条件(サンプル数の多さ)を満たさない中で、また、直感的に、独立企業間価格算定における差異調整と、四分位法に基づく方法による差異調整はうまく結びつかないように思えます。

(4)移転価格事務運営要領4-6によれば、四分位法に基づく方法によればレンジを形成せずポイントで算出されるとする一方で、そのレンジの中に実績値が存する場合には、移転価格課税は行われないこととされています。
これは、次の措置法通達の取扱いを四分位法のレンジにも認めるものとなっています。しかしながら、措置法通達66の4(3)-4の幅を構成するものは比較対象取引に該当するのに対し、移転価格事務運営要領4-6では比較対象取引となり得るのは中央値のみであることから、四分位法のレンジの中に実績値が存する場合に移転価格課税は行われないとする取扱いは勇み足のように感じられます。

措置法通達66の4(3)-4 国外関連取引に係る比較対象取引が複数存在し、独立企業間価格が一定の幅を形成している場合において、当該幅の中に当該国外関連取引の対価の額があるときは、当該国外関連取引については措置法第66条の4第1項の規定の適用はないことに留意する。

※文中、意見にわたる部分は執筆者の私見であり、EY税理士法人の見解ではない旨、申し添えます。


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