EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
今回も前回、前々回に引き続きDCFについてです。今回は、下記のパターン③、パターン④についてご説明します。
パターン③は、納税者がDCF以外の方法を用いて資産の評価をしている場合に、当局がDCFを積極的に使用するパターンです。
仙台地判平成30年2月5日は、納税者の滞納国税に係る第二次納税義務の納付告知処分が問題となった事案です。第二次納税義務者が滞納会社から引き受けた株式の時価が問題となりましたが、当局はその評価にDCFを使用しました。無償譲渡等の対象となった財産の時価について、財産評価基本通達に従って評価すべきと定めた規定がないことから、同通達に基づいて本件株式の評価を行う必要がないと判断しました。
また仙台裁令和2年7月8日は、取引相場のない株式の評価額が問題となった事案です。納税者は、財産評価基本通達に定める類似業種比準価額により評価しましたが、当局が、当該方法で評価することが著しく不適当として、DCFにより独自に評価しました。同通達に当該資産の評価方法が明確に規定されているものの、同通達総則6項を用いて、同通達の取り扱いが妥当する場面ではないと主張しました。
最判令和4年4月19日は、不動産の評価について、上記総則6項の適用が問題となった近時の有名事案です。このケースで、当局は当該不動産の評価額としてDCFに基づいた評価額を使用しています。
明確な評価基準がない場合、当局としてDCFが使いやすくなる傾向があるのは前回でも書いたとおりです。納税者が気を付けなければならないのは、法令・通達に沿った評価をしていても、総則6項のような否認規定の適用を受けてしまい、評価額が高くなりがちなDCFが適用される可能性があるということです。
さらに納税者が、税務目的を離れて売買価額の参考のためにDCFを使用する場合に、当局が当該価額を税務上の評価額と主張する可能性があります。その可能性を避けるため、税務調査における提出書類の選別は慎重に行い、提出の際にはなぜDCFの価額を使用しなかったのかの理由を用意しておくことが重要です。
最後にパターン④ですが、これは、第7回の冒頭でも書いたとおり、法が無形資産の独立企業間価格の算定方法の一つとして、DCFを選択肢として認めたものです。ただし、無条件に納税者のDCFを認めたわけではなく、DCF適用の際に用いた予測収益と実績に一定のかい離がある場合、当局が後から取引価格を修正できるルールがセットで導入されています。この点は、無形資産の取引価格の妥当性を巡り新たな紛争の端緒になりそうな気配もあり、納税者の関心が高いところかと思います。次回は、この点も含めて、令和元年の移転価格の改正が調査実務に与えている影響についてご紹介します。
EY Tax controversy team
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